第二十八話 静寂の教室
○○視点です。
――ここは陽太とリザが協力してアレを倒した後の、時之宮学園のある教室。
「あれ?」
静か。やけに静かだ。教室では昼休み特有のテンションでみんな思い思いに騒ぎ散らし、なかなか僕らを頼ってくれない陽太は黒田君達の分のジュースを買いに。そして僕はそれを瑞希ちゃんと待っていたはずだ。しかしどうだろう。箸を置き、こちらを見つめる彼女は先程からその姿勢を一切動かさない。
「みんな……?」
あまりに突然の状況に慌てる僕はもう一度辺りを見回す。みんな……みんな動かない。これは……動けないと考えたほうが良いのかもしれない。こんなドッキリ聞いてないし、僕にこんなドッキリを仕掛けてくるなんてこともあるとは……いや、なんだかありそうなきがしてきた。
更に周りを見渡す。――あ、教室の端に岩田君がいる!普段は黒田君達に絡まれたくないからかトイレに昼食を摂りに行く彼だけど、今日はこっちで食べている。はは……そういえば今日は陽太が絡まれてたからなぁ。良かったね、岩田君!陽太に感謝するんだよ。
あ、違う違う!本題を忘れてたよ。今はこの状況の解明が先だった。そう、岩田君がこの状況解明のヒントになりそうだ。そもそも岩田君は……あまりクラスに溶け込める感じの子じゃないんだ。つまりもしクラスのみんなが協力して僕のことを騙そうとするにしても、その事を岩田君が知っているとは思えない。それにもし本当にその計画が存在したとしても、きっとみんな岩田君はトイレで昼食を摂ると思っているだろうから、伝えないのも当然だ。多分クラスにおいてもほとんどが彼の昼食を摂る場所の規則性には気付いていないだろうし。
「でもその結果が一番困るんだよなあ」
そう、ならばこの状況は一体何だ。僕には他にこの状況の説明がつく言葉が見つからない。ドッキリの類では無いなら一体全体なんなのだろう。しかしその謎以上に僕の頭の中を駆け巡る疑問がある。
――陽太は無事なのだろうか。
「くっ、こうしちゃいられない!」
僕は急いで教室から出ようと扉へ向かう。目的地は売店、そこに行けば近くには自販機がある。そこに陽太がいなかったら……次は校内中を探すしかない。
「待ってて、陽太!」
――急いでいた僕は、その段階では昼食を摂っていた机の近くに不自然に置いてあった一冊のノートにも気付けなかった。
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自慢ではないが足はそこそこに速い方なんだ。だからすぐに自販機の所へたどり着く事が出来た。でも、そこにできていた列の中にも陽太の姿は見えないし、ここへ来る最中もみんなして固まっていた。これはもう多分何かが理由で必然的にこうなっているとしか考えようがない。その何か、というのがわからないのだけど、それはおいおい。今はともかく、
「陽太!!」
……やはり返事はない。となると、ここにはいないのかもしれない。ここに来る時に見過ごしていただけで、入れ違いになっているだけかも。もう一度教室に戻ってみよう、陽太のことだからきっと戸惑っているだろうから。
陽太はあんな風にはなったりしない。そうして走って教室へ戻っていると、二階の窓からグラウンドがちらりと見えた。だが、その様子はどうにもおかしい。
「え、抉れてる……」
グラウンドはあちこちが何かによって削りつけられたかのように抉れていて、それも何個かではなかった。極めつけはグラウンドの中央付近。まるでグラウンドを裂くかのように校門の方へ伸びる傷のような跡。これを見てまだ見つからない友を心配しない者がいるのだろうか。
僕はまた走り出す。廊下は走ってはいけないとか、この際は全く関係ない。今はただ陽太のために走る。彼に何かがあったら僕は……。
教室へたどり着く。しかし辺りを見渡せど、僕の求めていた顔は、体は見られない。さっきまで食事を摂っていた机に近付いて、未だ動かない瑞希ちゃんを見る。やはり凛々しく、大人びた顔立ちをしており、可愛いというよりも美しいという言葉の方が彼女には似合うだろう。
「いつも思うけど、こんな美人で良い子はやっぱり陽太以外の人にはもったいないよ」
陽太は優しく、格好良く、おどけているようできちんと周りを見ている、良いやつなんだ。きっと陽太の良さは人を上辺だけで判断するこの人たちにはわからないのだろうけど。その点、瑞希ちゃんは凄くいい目をしていると思う。陽太は全然気付かないにしても、色々とアプローチをかけているみたいで、見ていてとても微笑ましい。早くくっついちゃえばいいのに!
そう思っていたところ、僕の目は不自然に置かれた一冊のノートに向けられた。場所は……
「ぷぷぷっ……これはもう、陽太が置いたとしか思えないね」
瑞希ちゃんの胸に挟まれるかのように、一冊のノートが。ほんとに命知らずだなあ、陽太は。いくら気付くようにとは言ってもここに置くだろうか、普通。というかなぜ最初に気付かなかったんだ僕は。こんなのにも気付かないとは、かなり焦っていたんだろう。それにここだと僕も思春期を迎えた男子としては手を出しにくいのだけれど……。
結局僕はこのあと十分くらいの間、目の前の現実に手をこまねくことになった。
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