第二十四話 想定外の連続
そろそろ陽太とリザ以外の視点で書く事になり、物語が動きます。
「神魔眼ッ」
神魔眼。相手のステータス情報を全て視ることができるお役立ちスキルの発動だ。幸い茂みに隠れている俺とリザにアレは気付いちゃいないようだ。堂々とお前を素っ裸にしてやるぜ。そして俺の視界に映るこいつのステータスは――
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名前 不明
Lv210
・HP 3400
・MP 2200
・AP 3490
・DP 3250
・SP 4300
種族 不明
性別 不明
年齢 不明
スキル 無し
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「ったく期待を裏切らねえなマジで」
「や、やはり強かったのですか?」
リザが心配そうに聞いてくる。なんせこいつのレベルは210。前に俺が見たやつのレベルが確か189だったので、明らかに強くなっている。何やってそんなレベル上げてんだよこいつは……。
だがしかし。こちらもやすやすとやられてやる訳にもいかないし、むしろこっちからすればそのレベルの高さは好都合だ。だってこいつはこれから俺の経験値になるのだから。
「リザ」
俺は作戦を何度か脳内で反芻した後、指示をするべくリザに声をかけた。
「はい、もういいのですね?」
「ああ」
なんだ、ちゃんとわかってるじゃないかこの子は。きちんと状況を自分で見極め、判断できるくらいのことはできるようだ。頼りになる仲間だぜ。
「それじゃあ、頼む!」
「はい」
リザは真剣な眼差しをアレに向けた。いよいよリザのレベル吸収が発動される。因みにリザの作業が終わり次第相手のレベルは105なので、俺が飛び出して始末するつもりだ。恐らくだが負けることはないだろう。最悪リザの援護もあれば、先は明るい。しかし、
「あ、ダメです!陽太くん!」
これからスキルを発動をさせるのかと思ったところ、急にこちらを見て泣きそうになるリザ。どうしたんだ一体……。こちらが心配するると、リザは慌てたようにその口を開く。
「いえ、実はその……スキルの使い方がわからなくて」
「――あ」
リザのその一言は、俺に計り知れない驚きを与えていた。そうだ、だってさっきまでは自分の中のスキルの存在にすら気付かなかったような子だ。むしろ最初からポンポン扱えたほうがおかしい。なんでそんなことにも気付かなかったかなあ、俺は。
「とりあえず一度引き返すしかなさそうだな」
「申し訳ないです」
「いいんだよ。そんなことにも気付けなかった俺にも責任はある」
ともかく今は一旦引き返してリザに感覚を掴んでもらうしかない。にしても逆に俺は恵まれてたのかもしれないな……急に頭ん中で機械じみた女の人の声が聞こえたと思ったら、ぱっとスキルを発動してしまえた。きっとこれが普通なんだろう。
「んじゃ、引き返すか」
俺は帰路に着くために振り返る。が、行く手の先は真っ暗で、且つぼやけてしまっていた。――ん?俺の中で警戒の音が鳴り響く。こいつは……でもさっきあいつは確かにあっちに……様々な考えが渦巻くが、俺は恐る恐る目線を上に向ける。そして、
「――ッ!逃げろ!リザ!」
「きゃっ!」
リザが俺のステータスによりいい感じに吹っ飛んでくれる。少し痛そうだが今は言葉をかける暇もなく、正真正銘、大ピンチだ。なんせこいつは――
「逃げろリザ!こいつは二体いる!いや、下手したらもっといるかもしんねえ。とにかく小屋へ走れ!どういうことかあそこにはアレが近づいてきたことがない。今はとにかく走れ!」
目の前にあった影のようなものの正体はアレだった。が、さっきのやつじゃない。こいつはおそらく、複数体いるのだ。つまりさっきのは成長したのではなくて、ただの別の個体。現にさっきのやつはまだあっちでのらりくらりしている。だがそれも時間の問題、そのうちこちらに気付いてやってくるだろう。
「で、でも陽太くんは……」
泣き出しそうなリザ。きっと自分のせいで、なんてことを思ってるんだろうが、この件に関してはそんなこと言わせる気はない。後で反省会をするんだ。そのためにも今はこいつを、いやこいつらを。
「俺はこいつらをギャフンと言わせた後で戻るか――」
と、話している間に人型のアレは右ストレートを打ち込んできた。空気の読めない化物だとか最悪じゃねえか!俺は全力でそれを避ける。だが、
「クッ!」
その攻撃は俺の頬を掠めた。そりゃあこのステータス差じゃ厳しいよな……むしろ反応できただけでも良しとしたい。ふとリザの方を見ると、彼女はまだ移動を試みていなかった。こんのバカ野郎……っ!
「早く逃げろってんだ!聞き分けの悪い子だな!」
俺は走ってアレと距離を取る。そっちが動かないなら俺が少しでもリザからこいつを遠ざけるしかない。それにこいつは標的を俺としているようで、リザにはお構いなしだ。即効で俺に追いついてきた。さあ、最期に見せ場を作れるかなぁ。
「リザがいないからやっと本気を出せるぜ……なんて余裕綽々としていたいが、生憎俺も自分の非力さに気付かないほどバカじゃねえんだ。それでも、ある程度の悪あがきくらいならさせてもらうからな。この命も一度捨てたようなもんなんだ。うちのお姫様の為に使わせてもらう」
どうやら次はきちんと空気を読んでくれたらしいアレに対し、俺は全力で真っ向から突っ込んだ。




