第二十三話 アレ探し
「そんじゃまあ、行こうか」
振り返った先には金髪に翡翠色の眼を持つ少女、リザがいる。むくれた顔をしているが、そこも含めてとても愛らしい。なぜ機嫌が悪いかは……まあ、察して欲しい。
「行くなら早く行きましょう、もう」
「悪かったって言ってるじゃんかー。いい加減に機嫌直せよー」
「そんな簡単なものじゃないんですから!おうちから出ないでとあれほど言ったのに……」
まーだ怒ってるよ。ちょっと裸見たくらいであそこまで怒るだろうか、普通。……いや、怒るわ。俺が女の子だったらかなりおこだったね。これは流石に俺が悪い。でもまさか全裸で外にいるとは思わないじゃん?最悪を想像しての行動だったんだよあれは。そこまで一応考慮した上で罵倒するなりして欲しいところだ。
「とりあえず、おれから行うのはアレの討伐のみだ。終わり次第ここへ戻ってくるからな。もし森ではぐれても泣きじゃくるんじゃなくてここへ引き返して来るように」
「私は泣きじゃくったりしません!」
リザ。出会って速攻で泣き出す君を見た俺からすれば、その言葉には微塵も信憑性が無いってもんだよ。俺の言葉を必死に否定してくるリザを、俺はどこか哀れみながら見ていた。
「な、なんなんですその目は!私は本当に泣き虫なんかじゃないんですから!信じてくださいよ!」
「そう言いながらもう既に泣きそうな君に俺はなんて言葉を贈ればいいのかな!?」
だめだ、埒があかない。もう出発してしまうか。
「うん、もう行こう?リザ」
「ふーんだっ!」
そう言いながらも森へ歩く俺の背中に付いてくるリザ。なんだかんだ言って結局は付いてくるんだよな。あぁ、可愛い。俺はリザ曰く「西の森」の方へ向かうことにした。前にリザがアレと遭遇したのはこっちの方角らしいので、その通りに向かおうと思う。だがあまり遠くに行くのも怖いので、ある程度進んで出会えなければまた引き返してくる予定だ。それも事前にリザには伝えてある。
「にしても、アレって一体何なんだろなー」
かなり今更な疑問をリザに問いかける。この質問は、別に今無性にそれが知りたくなったとかそういう理由によるものではなくて、ただ単純にリザのご機嫌を良くするためのコミュニケーションだ。いざ戦闘って時にまだそれを引きずってたなら色々と大変な気もするからな。俺はリザの返答を待つ。
「そう言われましても、私には何とも言えません。あんなの今までにも見たことないですし」
「ですよねー……」
だめだ、話題のチョイスをミスったなこれは!話が全然広がらないよ!こっちから話題を投げただけで終わったよ。投げ返してくれないよ。これはもう、時に。時に任せるしかないな。まあ、この世界じゃ時間なんてもう流れちゃいないんだけどね!
そうそう、俺はもう「異世界転生説」はもう無いかなって思ってる。なんせ俺のスキルはまだ残ったままだし、世界が固まったこの状況にも変化がないし、それでここを異世界だって言うのはちょいと頭が弱すぎるだろう。そもそも俺がここを異世界かもと思っていたのは、リザがこの世のものとは思えないほど可憐だったからだ。俺が夢見た二次元の世界からそのまま出てきたかのようなその姿に、この世界を異世界であると疑ってならなかった。ただそれだけの理由。
となると、だ。どうも俺は死にきれなかったように思える。理由としては、先に挙げたように、俺のステータスに変動がないということ。それからこの停止世界の継続と、強さの違いはどうであれ、まだアレが存在するということ、この三つが主な理由だ。だとしたらどうして俺はまだ生きている?確かに俺はあの時アレに飲まれたはずだ。それなのになぜだ。いくら考えてもこの答えを出せるとは思えないが、それでもやっぱり考えてしまう。
俺が目を覚ましたあの場所は、確かに俺の果てたあの場所によく似ていた。でもだったら、俺がなぎ倒した木がそこらじゅうに倒れてるはずなんだ。でもそれがなかったってことは、ここは俺の家近辺とはまた違う別の場所?そもそも俺はなぜそんな破壊行動に出ていた?自殺を選んだのは大切な人が死ぬのを見たくなかったから、傷つきたくなかったから。――あれ?大切な人の死?いつどこで誰が死んだ?
「――――ッ」
頭が痛い。割れるように痛い。何か思い出しそうな感覚。でも体がそれを拒んでいる。なんで?なんだ?死?家の庭で知らない人が死んでた。あれか?あれなのか?でもあれはうちの庭に勝手に入ってきてた知らない人で……それで、それで――!
「陽太くん……!あそこ」
「え?」
リザが俺を呼んだ。彼女の指さす先には……
「――出やがったか」
森を物思いに更けながら歩いていたうちに、俺たちはアレに遭遇できたらしい。おぞましい雰囲気を辺りにバラまく、朧げに見える異形の姿。そして不思議とさっきまでの頭痛ももう収まっていた。
「リザ、大丈夫か?」
俺は若干怯えた様子のリザに確認をする。こくり、と頷く彼女の眼差しは真剣そのものだ。きっと大丈夫だろう。よし、まあ今はとにかく全部忘れて……
「開戦だな」
開戦の火蓋を俺は、遠目から『神魔眼』を使うことで切った。
次に、やっと戦闘です。




