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第二十二話 作戦前の幸運


 リザに一度身支度のための解散を提案した俺はリザに「おういちから出てはいけませんからね!」と言われ、特に何をするでもなくただ椅子に座り、ぼーっとしていた。なぜ外に出ないよう言われたのか全く見当がつかないが、とりあえず後で外に出てみることにしよう。それで見つかっても優しいリザのことだ。「もうっ」くらいで済んでしまうだろうし。



 「それにしても質素な小屋だな」



 俺は座ったまま辺りを見渡す。一貫して木で造られたこの小屋はあまり古そうには見えず、清潔さは保たれている。リザがここで何日分の時間をすごしていたかなんてことはわからないが、なんというか女子っぽさというのがない。といっても女子っぽさを取り入れること自体がままならない環境なので、それは仕方がないのかもしれないな。と、ふとそこで俺はあと二つある扉の先が気になった。あっちは確かこれから俺の部屋になる方の部屋か。ちょっと見てみるか。



 俺は玄関から右手にある自分の部屋の方へ向かった。やはり木製のドアノブを握り、右回りに捻る。



 すると中は案外整理された、綺麗な部屋だった。



 「へえ、案外整理されてんだな」



 きっと彼女がやったのだろう。ほこりもあまり見られないし、換気もされてあるようだ。因みにこの停止世界では虫とかも動いていないから、換気の時は窓を全開にしても大丈夫だ。現に今も窓は全開になっている。



 「ベッド一つにテーブルが一つ……相変わらずシンプルだな。嫌いじゃないけど」



 青色の、人一人分で丁度いいくらいのサイズのベッドと、木製のこれまた丁度いいサイズのテーブル。文句のつけようはないが、これはこれで欲が無さ過ぎる。もの足りなさこそあるが、誰もいない家にいるよりはいくらかマシだろう。あ、でも外出していたみたいでいなかった母さんはいるか。



 確認を終えた俺は部屋を出る。そして思わず、隣の部屋が気になってしまう。いや、当たり前だろ!だって高校男子だぜ?こちとら現役バリバリの思春期だ。年頃の女子の部屋だって気になるさに決まってる。

あー、でもなんか悪いなあ、勝手に見るのも……でも俺の中の好奇心が猛威を振るってるんだよなあ。見たいなあー、でも見ちゃダメだなー、うーんどうしよう。本当にどうしよう。あーーーーー!



 結果……



 「おっじゃましまーーす!」



 好奇心には勝てませんでした。ぱっと入ってぱっと戻る予定だから、そこは寛大な心で見てあげて欲しいかな。



 どれどれ中は?あれ?違いなくね?違いという違いは、ベッドの色が赤色だったことと家具の配置が対称だったこと。それだけだ。



 「なんだ、ほとんど一緒じゃんか」



 しかし俺は寸前で気がついた。部屋の違いのなさを少し残念に思い、部屋を出ようとしたその時。



 「なんだ……この甘い香り」



 部屋中に充満しているこの香り……これは確か瑞希の部屋にも満ちていた……



 「女の子特有の香りってやつか!」



 甘い!甘すぎる!この香りの前に人は、いや男子ならば皆、全神経を嗅覚に集中させるだろう。ああ、そうかこれが……良かったな、瑞希。これでお前が女性であることが証明されたぞ。ほんと容貌以外は疑わしいことこの上なかったからな、お前は。



 さあ、名残惜しいけどリザが戻ってきたら大変だからそろそろ退出しようかな。俺は後ろ髪を引かれる思い出リザの部屋を後にした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 ……遅い。それにしても遅い。最初は冗談で小屋の外に出ようとか思ってたけど、ここまで来るともはや心配だ。森はアレがいるし、ひょっとしたらここに来たのかもしれない。そう思うと焦りを覚えた俺は、ダイニングの椅子から立ち上がり、玄関へ早足で向かった。頼むから無事でいてくれ、そう願いながらドアを開く。その先では……



 「へ?」



 ドアを開いた音に気付いたリザが間抜けな声を出した。……一糸纏わぬ姿で。



 どうやら泉で水浴びをした後のようで、その手にはタオルと衣類が握られており、これから着替える予定だったのだなというのが見て取れる。危ない危ないあと少しで見逃すところだった――じゃない、見てはいけないものを見てしまった。ああ、リザの顔がどんどん赤く、



 「いいから早くおうちに入ってください!!」


 「あ、ごめん、つい!」


 「早くっ!!!」



 急いでドアを閉める。そうか、だから出ちゃダメだったんだな。まさか水浴びしてるとは思わなかったから。でもまあ、このあとかなり叱られるんだろうけど後悔はしていない。ていうかもう死んでもいいな、俺。もう死んでるけど。



 ――このあと、熟れたリンゴのように赤面したリザのお叱りが長引いたせいで出発が少し遅れたのは、言うまでもない。




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