第二十話 ちーと説明会
まるで永久に続きそうなほど眩い昼下がり。小屋の中では、陽太先生による授業が始まろうとしていた。
「キーーンコーーンカーーンコーーン」
「な、何を言ってるんですか?陽太くん」
「いいからいいから。リザ君はそこに座っていたまえ」
「リザ君って……」
机の前で教師ぶりながらリザと話す。俺が今から始めようとしているのはリザのスキル、『レベル吸収』の説明会だ。リザと仲を深めるためにも、こういうおちゃらけたことをしてみてもいいかもしれないという俺のアイデアが作り出したこの教師キャラ。我ながら俺に嵌っていると思う。
「それで、チーターってなんなのですか?使いどころからして動物のチーターのことだとは思えないのですが」
「そうだねリザ君。しかし、私が言いたいのはそういうことじゃあないんだなあ」
「はあ……先生。ではどういった意味の言葉になるんですか?」
うわっと!まさかの先生呼び!諦めた顔してるけど、なんだかんだ言って合わせてくれてる。リザってかなり空気読める子みたいだ。なんかそこまで合わせてもらってると逆に申し訳なくなってきたんだが……。
「ん、ああ、チーターの意味だが」
「はい」
それでも俺の話を聞こうとするリザの表情がひどく穏やかなのを見ると、どうやらこのノリを楽しんでくれているらしい。このまま続行するとしよう。
「チーターというのはずばり、チートを使う者の意なのだ!」
「あ、なるほど!……え、でもそれでいくと私がちーとを使っているように聞こえますよ?ちーとって確か良くないことですよね?」
あー、普段呼びなれてないんだろうなぁ。チートの言い方が大変可愛らしい。ちーとって感じになってる。
「あぁ、それに関してだが別にリザがこのスキルを選んだわけでもないし、ましてや俺に言われるまで知る由も無かったわけだし、悪いなんて事は一切無いよ」
「それで、どういう能力だったんですか?」
興味津々で聞いてくるリザに、俺はそのステータスを見たままに伝える。
「リザ自身の身体能力は特に凄くないんだ。なんなら俺よりも低いくらいだしな」
「というかもう先生キャラは終わったんですね……」
あれはもうやめだ、疲れるから。それに今は結構真剣な話をしてるしね。俺はリザに本題のスキルの話を持ちかける。
「それで、リザのスキルなんだけども。『レベル吸収』ってやつなんだよ」
「レベル吸収?」
「そうそう」
またもリザはきょとんとしているが、それも束の間。急に目を見開かせて何かを思いついたように言う。
「つまりあれですか!相手のレベルを全部奪っちゃうとかですか!?」
「ばか、それはもうチートですらねえよ」
その発想をしてしまう気持ちはわかるが、そんなこと出来ちゃったらもうそんなのクソゲーだろ。そもそもこれは現実で、ゲームなんかじゃないんだけども。
「ではどういったものなんですか?」
そもそもそこまでスキルのハードル上げられたらなんかかえって言いづらくなってくるな。『レベル|吸収』さんだってかなり強いんだからな!出づらくなってしまった『レベル吸収』を労わりながらも俺はこのスキルの優秀さをなんとしてでも伝えてみせようと心に決めた。
「このスキルではな、相手のレベルを半分吸収することができる!」
「なるほど、そうでしたか。半分だったのですか……でもそれではあまり凄くないんじゃないですか?」
予想通りの返答。甘い。甘すぎるぜリザ。俺は少し得意げな顔でリザに説明を続ける。
「じゃあ考えてみてよリザ。もしレベル20の敵がいたとしてさ、通常ならレベル1のリザとレベル20の敵じゃリザに勝ち目はないはず。そこでリザが『レベル吸収』のスキルを使った。その場合相手のレベルはどこまで下がる?」
「えっと、レベルは10になりますね」
「そうだよな。じゃあそん時のリザのレベルは?」
まあここまで言えばアホでもわかるだろう。俺はリザの返答を待つ。
「もともとのレベル1に10を足して、11!相手のレベルを上回りましたよ!」
「そういうこと!つまり、そのスキルの前ではレベルっていう概念が吹き飛ぶ」
「それは確かにちーと、ですね!」
上手く伝わったようだ。自分の持つスキルの凄さにリザが打ち震えて……ってリザ!?本当に打ち震えてる!プルプルしながら目に涙浮かべてニコニコしてる!どんだけ嬉しいんだよ。そしてなんだこの可愛い生き物は……。すると突然リザはバッと顔を上げて、
「ということはっ!外のあの不気味な輩も……!!」
へえ、ちゃんとそこまで考えられたんだ。順応すんのが早いな、良いことだ。
「ああ、そうだ。俺とリザで協力すれば勝てないこともないはずだ」
「やりましたね!」
さあ、とっととこっから出てしまおうぜ。掃討してやるぜあの変な奴ら!




