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第十七話 揺らぎ

 4000PV並びにブクマ30件の登録、本当にありがとうございます!恐れ多くもこの作品を登録してくださった方々、そして読んで頂いている皆様のお陰で成り立っている作品です。作者としてもとても励みになっております!今後とも頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします。


 今回はやや長めになっております。

 

 「ふぇ?」



 徐々に距離が詰まっていく私と黒い影。ま、まさか猛獣でしょうか‥‥‥。そんな危険を顧みず私が歩みを止めない理由は、もう一つの可能性。その影の主が人であるという可能性を疑っていたからです。奇跡的にも、こんなに早く脱出への糸口を掴むことができるかもしれないのですから。それなのにこの機会を黙って見過ごすわけにはいきません。



 現在、目標と私との距離は大体二十メートル程といったところでしょうか。そろそろ目を凝らせば視認できそうです。どれどれ‥‥‥確認してみましょう。



 「ええっと‥‥‥あれは‥‥‥人?うそ、人だあっ!おーー‥‥‥え‥‥‥あれ?」



 膝の震えを堪えて駆け寄り、まだ少し遠いその影に「おーーーい」と言い切ってしまう寸前でした。その影の異様さに気付いたのは。私が感じたのはおおよそ人の発するものではないだろうと思わせる程の強い瘴気、それから恐怖でした。あれ、どうしてでしょう、だ、ダメです‥‥‥また膝が笑って‥‥‥。



 その圧倒的な存在感は森の中でも非常に浮いていて、それも相まってそれの異様さが高まっており、やはりポンコツな私の両足はこの状況における最も成すべき利口な行動、「逃走」を選ぶ気はさらさらないようで、いつものようにただ震えるだけ。自分の弱さに唇を噛み締め、それを睨みつけます。



 その時、ふと少し遠くにいたそれがこちらを見たような気がしました。



 「―――――ッ!!」



 気が付けば私は元来た道を全力で駆けている。恐怖や疲労なんてそんなものはもうこの際関係はありません。ー――――死ぬ。間違いなくあの場にいたら死ぬと、そう体が確信していている。その恐怖を越えた恐怖はかえって私の膝の震えなどはお構いなしに、疲弊していた私を走らせる。



 「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!」



 自分でも呪詛のように感じるほど、生への欲望を口走りながら私は醜くも走っていました。でも仕方がないことじゃないですか。誰もが死にたくないと思うし、つまり生きていたいと思う。生き物として常識で、当然で、普通のこと。でもその力は私の思っていたよりずっと強かったみたいで、木々をかき分け、草をかき分け、一心不乱に駆けた私は気が付くともう既に私のもといた場所、泉と小屋のあるあの場所へとたどり着いていました。



 「はあ‥‥‥はあ‥‥‥はあ‥‥‥」



 振り返ってみると、そこには誰も、何もいません。ただ木々が鬱蒼と茂る森が広がっているだけでした。これはどうにか撒けたと考えるべきなのでしょうか‥‥‥いいえ、まだ追ってきていることも大いに考えられます。警戒を怠ってはいけません。とりあえずはおうちに‥‥‥おうちに帰りましょう。



 瞳が潤んでいるのを感じます。ですが泣きません。強くあろうと決めたなのにあんなにも怯えてしまって、今もまだ見えない恐怖と戦っている。というかなんですか!なんなんですかあの方は!怖すぎるんですよ‥‥‥もっと控えめに怖く在ってくださいよもうっ!



 どうやら心中であのよくわからない者に対して軽口を叩けるくらいには元気が出てきたようです。私はおうちへと歩を進めます。その途中、何の気なしに泉を見てみると私の顔が水面に映りました。なんだかそんなことが可笑しくなってしまって、私はその水面に映った私と会話を始めていました。



 「ねえねえリザ?寂しくはないの?こんな所で一人ぼっちで」



 泉の私は笑顔のまま、何も答えません。



 「ねえねえリザ?楽しいことはないの?こんな誰もいない、遊ぶ物もない所で」



 またも泉の私は笑顔のまま、何も答えません。



 「ねえねえリザ?怖いことはないの?こんな不気味で、異形が森に蔓延はびこるような所で」



 もちろん泉の私は笑顔のまま、何も答えません。



 「ねえねえ‥‥‥リザァ?‥‥‥ううっ‥‥‥救いは‥‥‥助けはあるの?‥‥‥ぐすっ‥‥‥森に終わりが見えなかったし、あんなよくわからないのもいて‥‥‥ずずっ‥‥‥それでも、助けに来てくれる人がいるの?」



 泉の私は顔をぐちゃぐちゃにして泣いているように見えましたが、溢れる雫が水面に波紋を作り出し、もはや水面の私の表情はよくわかりません。良いですよね?水面はぐちゃぐちゃで自分の表情がどうなっているかなんて私はちっともわからないので、もし私が泣いても今は‥‥‥今ならわかりません。



 「どうしてこんな目に遭わなくちゃいけないんですか!どうして何も覚えてないんですか!どうして誰もいないんですか!どうしてずっとこんなに暑いんですか!どうして森はこんなに深いんですか!どうしてあんなのがいるんですか!どうして‥‥‥どうしてみんな‥‥‥みんな私を置いていくんですかぁ‥‥‥ひっく‥‥‥もう、無理ですよ‥‥‥もう‥‥‥こんな弱い私にリザなんて強そうな名前、誰が付けたんですかぁ‥‥‥」



 水面はまるで私の心を表すかのように激しく揺れていて、幼い子供の癇癪のように聞こえる私の叫びは、深い深い森の中へ飲み込まれていくだけでした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 涙はもう枯れ果てました。なんだかこれでもう一年分の涙を流してしまった気がするくらいです。あ、間違えました!泣いてなんかいないのでした!私としたことが痛恨のミスです!今のは忘れ去って頂けると助かります。



 水面の私の顔は心なしか最初に見た時よりもすっきりした笑顔になっているように感じました。私の思い違いでしょうか?



 「あなたも一人ぼっちなんですね‥‥‥でも、私はやっぱり諦めません。さっきから何度も揺らぐ不安定な思想‥‥‥ですがここで諦めてたらきっと私、後悔します。だから‥‥‥」



 どうしてかその時、泉の私が「頑張れ」と言ってくれたような気がしました。だから私は、



 「ふふ、そうですね。頑張ります」



 泉の私にだけ聞こえるよう、小声で返事を返しました。なぜなのでしょう?泉が私に話しかけるわけがないのに。でもその言葉は私を凄く励ましてくれました。



 「よし!」



 最後に自分に気合を入れると、私は立ち上がって振り返り、おうちへと向かおうとしました。しかし、



 「ううっ」



 すぐに私の歩みは妨げられ、何かにぶつかりました。な、なんですか!?まさかさっきのあれでは!しかしそれにしては暖かく、柔らかいようで硬い、奇妙な感覚です。一体何なのでしょう。恐る恐る私はぶつかった何かへと、顔を上げます。するとそこにいたのは‥‥‥



 「あ!ご、ごめん!大丈夫?」



 ボロボロの制服を着た一人の男の子でした。


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