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第十六話 森とリザ

 さて、作戦の準備を終えました。まあ、準備とは言っても思えば特に持っていくものもないので、その分身支度の方をしておこうと思い、ここを出発する前に泉で水を浴びたり、お腹いっぱいになるまで食事を摂ったりしました。



 あ、そういえば水浴びに関してですが、特に改善策が見つからなかったので陸地のところに手をつきながら泉に浸かる、というシンプルなものに落ち着きました。



 そもそも改善しようにもその余地を与えない程に施設、並びに道具が用意されていないこの環境にも問題があると思うのです。

 どうしてお風呂一つ完備されていないのですか、このおうちは! なんて文句を垂れていてもお風呂が降ってくるわけではありません。

 というか実際に降ってきたら壊れちゃいますね、お風呂。



 ‥‥‥なんてことはどうでもいいのです! そういうわけで全ての準備を終えてしまった私はただ今、最後の確認をしているところです。



 「水浴び、ごはん、帽子も持ちましたし‥‥‥はあ。道具らしい道具が帽子だけしかないとは」



 なんとこの設備が残念なおうちにも唯一日差しから身を守れる帽子だけは置いてあったのです。

 実を言うと懐中電灯なんて物もあったりしたのですが、これはもうみなさんご存知の通り使いようがありませんので置いて行かせてもらいます。



 「恨むのならあのにっくき太陽さんを恨んでください。私も彼にはひどく困らされているんです」



 それでは早速出発するとしましょう。

 本来ならここを見失わないようにヘンゼルとグレーテルを見習って何か目印になるものを点々と落とし行きたいのですが、現実的に考えてパンなんかじゃ目印にならないと思うんです。



 ということで方角などにしっかり気を付けながらの探索を心がけます。

 それにしても万が一こんな深そうな森の中で迷ってしまったら、それこそ一巻の終わりですね‥‥‥。

 本当に気を付けないと。



 「では、出発です!」



 怖いのを紛らわそうと少々大きな声を出して出発します。

 まずは南の方へ向かうつもりです。なんで方角が分かるのか、という話ですがこれは私が勝手に決めていることで、正確な方角を知っているわけではありません。



 ここの土地なのですが詳しく説明しますと、綺麗にとはいきませんが正方形のような形をしています。

 この正方形の中では木は一本も生えておらず、小さな草や花は一面に生えていて、その正方形の中心にあるのが毎度お馴染みの泉ですね。

 そして私の住むおうちですが、それがその泉から五メートル程隣に建っています。

 その他にはなーーーーーんにも、ありません。



 私はこれを軸に四方位を定めることにしました。

 まずは泉を中心におうちがある方角を北として、おうちから泉を挟んで反対側を南。

 後はもう説明は要らないと思いますが、泉からおうちを見て右側が東、左側が西です。



 つまり今回私が向かうのはおうちの反対側、ということになります。

 ご理解いただけたでしょうか。



 と、誰にともわからない説明を終えた私はついに森に入りました。



 ――入ってしまいました。



 中は日差しのせいであまり暗くはないというのが唯一の救いです。

 目を凝らしてみてもどこまでも広がる森の深さに、荘厳さに気が付くと私の膝はプルプルと震えていました。

 臆病な私です。

 嫌いな私です。

 まだ入ったばかりの森でもう怯えているだなんて‥‥‥。



 「まだまだこれからなんです‥‥‥」



 ここを出ないと私は永遠に一人ぼっちのまま。

 いずれは尽きるであろう食料に怯えながら‥‥‥人に触れ合えぬ不安を感じながら‥‥‥寂しくも死んでいく。

 そんなのはごめんです。

 これから、これからそんな残酷な未来を打開できるように頑張らなくちゃいけないのに、その入口で怯えているだなんて究極の臆病者です!



 「よいしょ‥‥‥」



 私は震える足を必死に動かして進みます。

 もう立ち止まらない。

 怯えない。そう決意を固めた瞬間でしたが、しかしなぜだかその時何故だかこの森が意地汚くニヤニヤと私を笑っている、そんな感覚に見舞われたのです。

 それでも私はまるで誘われるかのように森の奥へ奥へと歩んで行くのでした。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 森の中でまたも震えている私の膝。

 私は自らの膝を睨みつけて言います。



 「どうして‥‥‥どうしてまた!私は立ち止まるわけにはいかないのに!さっき決めたのに‥‥‥なんでまた私はこうっ!」



 震える膝に怒りをぶつけます。

 さっき最悪の結末に抗おうと、この世界に抗おうと決めたのに、自分はまたもこんなことになっている。

 それが許せない。

 許せないのはそうなのですが‥‥‥



 今回の怒りは森の入口での時とは少し違います。

 なぜなら、



 「疲れ果てて膝が震えて歩けなくなるなんて、情けない!」



 今私が膝を震わせているのは決して恐怖などといった類のものが原因ではなく、恥ずかしながらただの疲労によるものだからです。



 「失念でした‥‥‥。あの土地で過ごした時間、ろくに運動なんてしていませんでしたからね‥‥‥。こうなるのも当然と言っては当然ですっ」



 これは本当に想定外でした。

 ですが振り返るとあの土地が見えません。

 結構歩いたみたいですね。



 まあ、これだけ歩いたのなら及第点かもしれませんし、少し悔しいですが引き返すとしましょうか。

 というか引き返せるのでしょうか、この子鹿のように震える膝を抱えて。

 帰り道に関しては大丈夫でしょう。

 きっちりここまで真っ直ぐ進んできたので、真っ直ぐ帰ればたどり着けるはずです‥‥‥恐らく。



 「帰りますか」



 振り返って帰路に着くことにします。

 その時、



 「ふぇ?」



 さっき進んでいた方向に何か黒い影が見えました。

 も、猛獣でしょうか‥‥‥。



 それが何かわからない私はやや警戒しながらも、一歩。

 私は前へ進みます。


 変な切り方ですが、都合上こうせざるを得ませんでした。申し訳ありません。

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