第十五話 世界への反旗
泉での一件からまた暫く経って、私は一世一代の決心をしました。
暫くと言うと‥‥‥そうですね。
時間としては私がこのおうちで目を覚ましてから体感で一週間は経ってしまっているような気がします。
あくまでも体感なので正確にはわかりかねますが、そもそもこの延々照り続ける日差しによって私の体内時計というのは早々にはっちゃけてしまっているので、本当に頼りになりません。
ここに来る以前のことをあまり覚えていない私ではありますが、時間というものが有限であるということくらいは当然理解をしていました。
しかしここに来てからというもの、私の時間に対する価値観が乱れに乱れてしまいまったのです。
よくわからないことに、ここでは全く時間の流れというものが感じられないのです。
そう、それは例えるなら正に時間が止まっているような感覚です。
最初はとても馬鹿馬鹿しい考えだと自分でも思っていたのですが、もう今ではそれを疑うことができません。
が、証拠と呼べるものが何もないのもまた事実ですから、つまり私はまた何もわからぬまま見なかったふりをしなければならないのです。
こう言ってはなんですが‥‥‥思わず私は「そんなのくそくらえだ」と思ってしまいました。
思わず少し汚らしい言葉を使いましたが、それほど黙って分からないままでいようとする私に、私を隔絶するようなこの世界に、無性に腹が立ったのです。
ここまであんまりな扱いをされておいて黙っている私ではありません。
とまあ、ここで最初のお話に戻ります。
ずばり私の決心というのは、ここを出るということです。
危険だというのも百も承知ですし、なんだかこの控えめなおうちにも少し愛着が沸いてきた頃ではあったのですが、ここで行動を起こさないと男じゃないと思います! ‥‥‥女なのですが! ついノリで言っちゃいました。
話が逸れましたが、とにかく私はこのただ待つだけの日々に終止符を打ち、現状を打開するためにもこの決心を固めたんです。
そ、し、て。なんと私なりにこの作戦に向けてきちんと考えを練らせてもらっています。
まず、危険という面です。
もし森に入ったとして、恐ろしいのはきっと森に住む動物達だと思います。
熊などが出てきたら私では到底叶いませんし、その他にも危険な動物なら幾らでもいるでしょう。
しかし、私は気付いたのです!夜寝ている時に‥‥‥いえ、正確には昼ですね。
日は沈まないのでした。
つまり明るい中、なんとかおうちのベッドで寝るのですが、耳を澄ましても獣の声どころか虫の鳴き声さえも聞こえてこないのです。
これは私が感じている「時が止まっている」という感覚が本当であると裏付ける一つの根拠だと思います!
他に食料面。
これは家にたっくさん置いてあるのでそれを持っていけば良いだけの話なのですが、相も変わらずここには必要最低限の物しか揃っておらず、持ち運びに使えるバッグなんて便利な物は置いていません。
そこで私、考えました!
それは、ここら一帯を少しずーつ探索していくということです。
幸いここにいる限り餓死することはまずないので、幾らか時間が掛かるとしてもここを拠点として辺り一帯を調べ尽くしてしまえば、いずれ良いルート、もしくは人にだってえ会えるかもしれませんから。
食料もここに戻って来て食べるので、運搬する必要がなくなり、かつ手に持つ物がなくなるため、自然と行動はよりスピーディーになります。
さあどうです? 私はこの作戦を企てた自らを賞賛したい気分です。
「はあ~~~なんだかこうも完璧な計画を練ってしまうと早く行動に移したくなってしまいます‥‥‥」
思い立ったが吉日、と言いますが、準備もおざなりに森へ向かうのはどう考えても無謀なので、とにかく完璧な準備が整うまでは出発は控えなければなりません。
しかしまあ、こう、なんと言うのでしょうか。
この興奮は遠足の前日のような‥‥‥本来こんなことではしゃいでしまうのもおかしなことなのですが、私はこの状況を打破できると心のどこかで信じて疑っていませんでしたし、そのせいで浮き足立ってフワフワした感じでした。
「作戦名は‥‥‥そうですね。『謎の場所から脱出大作戦』! うん、なかなか良い名前です!」
その興奮の度合いは、自らが付けたとてつもなくダサい作戦名にも気付かないほどでした。
いいえ、もちろんこのようなセンスはいつもの私とは違いますよ? そのような事実は、決してありません。
しかし、そんな作戦も結局はあんな異形の存在により無に返されてしまうということを、その時の私はまだ知る由もありませんでした。
リザ主観もあと僅かで陽太くん主観にバトンタッチです。
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