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第十三話 少女の見た世界

 急に前話で出てきた少女視点です。


 気が付くと私は見知らぬ天井を見ていました。



 どうやら私は寝てしまっていたようです。

 むくり、とベッドで上半身だけを起き上がらせます。周りを見ると、全く知らない光景です。

 部屋は質素な木材でできているようで、窓辺に置いてある花瓶の花が綺麗ですね。



 あれ? どこのお宅なのでしょうか。

 確か私は……、あれ、どうしてでしょう、思い出せませんし、そもそもここは私の家ではないのでしょうか。自分の家を思い出そうとしても、さっぱり思い浮かびません。



 それでもやはり、ここが私の家ではないというのはなんとなくわかりました。

 本当になんとなくですから、根拠はありません。



 とにかく私はベッドから立ち上がり、この部屋から出てみることにしました。

 なにか行動しないとわかることもわかりません。

 若干の好奇心も相まって、私は何も臆することなく部屋を出て行きました。



 部屋を出てすぐに、また部屋が。

 見た感じ、さっきの部屋の三倍はあるかもしれません。



 部屋の中心にはこれまた質素ですが大きな机に、椅子が四つ。

 部屋の端にはキッチンがあり、その反対には玄関がありました。

 それから少し高そうな赤い靴が一組だけ置いてあります。

 あれは……私の靴なのでしょうか? まあ、見た感じここがダイニングなのでしょう。

 なんだかほのぼのしてしまう場所ですね。



 部屋の中心付近、机の辺りに近付いたところで、私はキッチンの足場の所に扉のようなものがついていることに気がつきました。



 地下へ繋がる扉……ま、まさか外への抜け穴、つまり脱出なんかに使うのものでしょうか! こういうのはなんだかロマンがあって胸が高鳴ります! 早速開いてみましょうか。



 はっ! しかしこれは緊急用なのであって、こんな興味本位で開いてはいけないのでは? でも凄く興味が……! 私の中で天使と悪魔が戦っています! ……ええい!私は悪魔に魂を売ることにします。

 いざ、開けごまあ!



 扉を開けた先には大量の食料が入っていました。

 どういった原理なのか中はとても冷えていて、食料が腐る心配はなさそうです。

 ‥‥‥へ? 抜け穴? 脱出口? 何の話でしょうか。

 おっしゃっていることがよくわかりません。



 さて、これなら私は食料に困ることは無さそうですね。

 続いてもう一つ、さっき私が寝ていた部屋と対象に設置された扉。

 ここにもう一つ部屋があるはずです。

 早速開いてしまいましょう。



 扉を開きました。

 なるほど……寝室、と言いましょうか。

 先程私が寝ていた寝室と家具に間取りにすべて同じです。

 強いて言えば窓の場所が違うだけのようです。

 少しがっかりしてしまいました。



 さて、全ての部屋を見て回りましたがどの部屋も共通して時計がありませんでした。

 非常に不便です。

 ここに住んでいらっしゃる方はとても時間にルーズな方に違いありません。

 会ったらお伝えしておかなければなりませんね。



 それにしても、こんな訳のわからない所に居るにも関わらず私は思いの外落ち着いていて、ふと小屋の外がどうなっているのかが気になります。

 外に行けば誰かがいるかも、なんてことを思いましたが、私はその時点でその可能性が薄いということを、どうしてか心でわかっていました。

 ですがきちんと目で見てしまわなくては私としても納得がいきません。



 しかしいざ自分しかいなかったらと考えるとドアへ向かう最中にも怖くて、何度もやめようかと思ってしまいましたが、それでも私は現実から目を逸らさないよう己を鼓舞し、歩みを止めませんでした。



 ドアノブに手を掛けます。

 一つ、深呼吸をします。

 ドアを開いた先に見える光景が想像通りでも、深く悲しまないように。

 大丈夫、きっと誰かがいてくれます。

 落ち着いて、落ち着いて、落ち着いた後で、覚悟を決めた私はドアを開きました。



 そこにはやや開けた土地に、お世辞にもあまり大きいとは言えない泉が一つ、あるだけでした。



 それだけ。

 本当にそれだけ。

 それ以外には何も。振り返ると私のさっきまでいたおうち。

 中にいた時からなんとなく思っていましたが、やはりあまり大きくはないようです。



 この土地の周りは木で囲まれていました。

 どうやら私のいるここは森の中にあるようです。

 ますますここが何処なのかがわからなくなってしまいました。

 人も、店も、道路もない。



 どうしよう、死んじゃうのかな、私。

 嫌だ、死にたくないよ、でも全くわからない。

 ここがどこかも、なんでこんな所にいるのかも、お友達のことも、お父さんにお母さんの名前も、他に家族が居るのかも、私がいくつなのかも。

 わからなすぎて、わかりません。

 私の名前でさえも……って、え? 名前?



 なんだか頭がもやっとします。

 今までには無かった感覚。

 思い出せそう……これなら思い出せそうな気がします

 。誰かが私を呼んでいた気がする

 。確か‥‥‥名前は、名前は‥‥‥。



 「うう‥‥‥。ディザ……リザ? そう、そうだ! リザ! リザです!」



 リザ。

 リザだった気がします。

 遂に一つだけ思い出せました。

 嬉しさが全身に込み上げてくる感覚です。



 なんだか自ずと元気が沸いてきました。

 自分の名前がわかった。

 たったそれだけのことなのに、それがとても無知な私にはとても嬉しく感じられたのです。

 こんな場所でも頑張って生きようと、そう思えてきました。

 リザ……力強くて、とても良い名前です。



 「簡単に負けてたまるものですか!!」



 天にむかって笑顔で私の決意を叫びました。

 なんせ今私の声を聞いてくれるのは太陽だけですから。

 もう大丈夫、私は挫けません。

 いつか全てがわかるその日まで。

 希望が見えるその日まで。



 ―――来たるであろう孤独な日々にピリオドを打つ、その時まで。


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