第十一話 こんな世界なら
投稿予定日を越えてしまい、申し訳ございません!おそらく三連休で本気出します。‥‥おそらくですよ?
「うわ、かなり危なかったな」
アプリを開いてからほんの五分くらいで俺は家の前にたどり着いた。
なんと奇跡的にも俺の家だけは木による被害から逃れていたが、案の定俺の家の周りの方は木で覆い尽くされていた。
つまり近所の家はほとんど木に飲み込まれている。
「あ、でもうちの車が……」
しかし車だけは、その車体から木を生やしていた。
正確には貫かれていた、かな。
でも、ここに来る最中にもここまで無事な家は見なかったな。
ほんと、ラッキーだ。
早速中に入ろう。
鍵は確かポケットにあるはず……っと、あったあった。
俺は鍵を使って扉を開いた。
「ただいまー」
――――。
返事がない。
この時間帯なら母さんがいてもいい頃だ。
俺は最悪の場合も想定した上であくまでも冷静に行動する。
始めにリビングを見た。
ここは我が家における母さんの定位置なので、最もいる可能性が高いのだが、
「いないか」
ここにはいないようだ。
その調子で全ての部屋を回ったがどの部屋にも母さんの姿は無かった。
どこに行ってしまったのだろう?
ちなみに俺たち秦瀬家は六人家族で、上から父、母、兄、姉、俺、妹という家族構成なのだが、父さんは出勤、兄は大学、姉は俺とは別の高校へ、そして妹は中学校へ行っているため、やはりこの家にいるのは母さんだけのはずだ。
「家の前でうちの車に木が貫通してたし、車内に誰もいないのは確認済み。ってことはその辺にいるんじゃないかな」
そういえばまだ庭の方は見てなかったな。
母さんは趣味で家庭菜園をやっているため、この時間帯はよく庭に出てきていたりする。
母さん曰く、「ずっと家にいると退屈だし、外に出て汗を流せて、その上採れた野菜が少しでもうちの家計を助けてくれるって考えたら、ホント家庭菜園さまさまよねえ」だそうだ。
まあ俺としても家にずっと篭っているよりはそっちの方がうんと良いと思うので、これからも頑張ってもらいたいと思う。
因みに妹は家庭菜園否定派で、理由は「私、ピーマン嫌いだもん。」ということらしい。こちらも健康のためにもぜひ頑張ってもらいたい。
さて、
「母さんはいるかなあー?」
俺はあまり期待はせずに庭に顔を覗かせた。
だっているとは限らないからなあ、母さん。
最悪の場合母さんは時間という名の鎖に囚われているわけで。
しかし、そこには俺の予想を大きく反した、大きな花が咲いていた。
大きく、鮮やかで、真っ赤な花が。
だが、そもそもこの花が他のそれと根本的に違うのは花の中心の辺り、本来花粉などが詰まっているところう。
そこにあったのは、
「へ? か……あさ‥‥‥ん?」
今朝俺を見送ってくれた顔、幼い頃からよく頭を撫でてくれた優しい手、あまり外に出ないがために今にも折れそうな足、全てが俺の母さんと一致した。
だけど一つだけ違うのは、母さんの周りには赤い、紅い液体が弾けるようにそこらに撒き散らされているところだ。
なんだ、これ。血? 血か? 血なのか? これは。
じゃあなんでこうなってる?
そういえばさっきから辺りが暗い。
俺は空を見上げる。
そこには高くそびえ立つ木があった。
俺はなんとなく悟った。
おそらくこの木の成長に巻き込まれて突き上げられ、そこから落下した衝撃でこうなってしまったのだろう。
家さえぶち抜くのだから、人にだって例外じゃないだろう。
あっはは、そんなことも危惧してなかったのかよ俺の頭は。
馬鹿だな、もう。
ほんっとうに馬鹿で、どうしようもないほどに‥‥‥。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!!!!!!」
……‥‥‥。
……。
…。
===========================================
「ぐずっ……はあ……はあ……はあ……ずずっ」
あの後俺は母さんだった物から目をそらし、何も考えずに走った。
頬を伝うなにかも無視し、邪魔な木を怒りのままにぶん殴ったら倒れたので、何かで紛らわしたかった俺は木を倒し続けた。
というよりも砕き続けた。
でもやっぱりおかしいよ。
あんなの母さんじゃないだろ。
何で偶然足元から木が生えてくるんだ。
ありえないだろ! あれはきっと……あれだ、たまたま母さんのそっくりさんがうちの庭に忍び込んでたんだ! よくあるよな! そういうこと! ……よく、ある‥‥‥よな?
しかしその破壊衝動も今は収まっている。
なぜって、俺の少しむこうに、学園で見たあれと同種に見えるやつがいたからだ。
サイズとしては前のやつより少し小さいくらい、つまり勝てない相手じゃあないな。
この騒ぎを聞きつけてやってきたのだろう。
散々暴れたからなあ、そりゃあ来るか。
まあでも丁度良かった、好都合だ。
―――もう終わりにしよう。
そう思った。
世界がこんなになってまだ少しだが、もう心が持ちそうもない。
さっきのあれはきっと母さんではないが、それでもあんな残酷な経験はもうしたくない。
初めて死に直面して俺はようやく気付いた。それが俺の知らない人であろうと辛いし、自分のちっぽけさを痛感する。
むしろ今までが上手くいきすぎていて、俺が死ぬ可能性も大いにあった、というかむしろその可能性の方が高かっただろう。
そう思うと、俺のしていることはただの延命処置のようで、なんだかもう馬鹿馬鹿しいじゃないか。
それに俺はきっとこれからもずっと一人で孤独なままなんだろう。
辛いと言う相手もおらず、悲しいだけなんだろう。
みんなで笑って泣ける日々を、心から幸せだと思える今日の訪れに、密かに微笑を湛えて。
だんだんとこちらへやって来るそいつに身を委ねる。
そして目を閉じて思う。これまでの人生悪くはなかったな、と胸を張って言える。
楽しくはあった。
――もっとも、こんなふうになるまでは。
「みんな、ありがとう。俺はもうだめみたいだ……。最後に……皆に会いたかったな」
そう告げた後、一瞬何かに飲み込まれるかのような感覚を感じ、俺はこの世界にお別れをした。
やっとここまできました‥‥。まだ終わりじゃないですからね!これからもよろしくお願いします。