5 相談
ほんとすいません。
結局書き終らずテスト後になってしまいました。
ちょうど一か月あけてしまいました……。
もし待ってくれた人がいたのなら、謹んでお詫び申し上げます。
たどり着いた先は姉の部屋だった。
僕を部屋に招き入れた姉はささらな動きでベッドに腰掛けると、おいでと言いたげな目をしながら自分の隣をぽんぽんと叩いた。
僕はそれに促されるように姉に近づき、示されたところにゆっくり腰を下ろした。
「それで、どうしたの?」
「うん……」
そう言って、僕はうつむいた。
言っていいのかどうかが分からない。
確かに一人で抱えるのはつらいけど、でもそれでこの姉を、家族を危険な目にさらすのもどうかと思う。自分がつらいからって、それよりつらい目を自分の我儘で家族にさせるわけにはいかない。
「話してみて」
僕を安心させるためか、姉は笑顔を作る。
「話してくれないと、私何もしてあげられないよ?」
「…………」
何も言うことができない。
こんな優しい姉に、いや、こんな姉だからこそ言えないのである。
こんなに自分を大切に思ってくれていて、こんなに自分に優しくしてくれて、こんなに自分のためを思ってくれる姉。
そんな姉だから、今回のことばかりは言えない。そう心に誓った。
「もぅ……」
姉がゆっくり僕の背中の後ろを通して、右肩に手を添えた。
優しさは、時に毒にもなる。そう感じた瞬間だった。
あれだけ強く誓ったものを、一瞬にしてないものにしてしまったのだ。
「今日、学校で……」
そうつぶやくと、緩んでいた姉の顔が引き締まり、真剣な眼差しを向けて来た。
僕はすべて話した。名前以外は何も包み隠さず、すべて。
「そっか……」
僕が話すのをやめると、少し間をあけて姉はそうつぶやいた。
「勇君は、私たち家族のことを思ってそのことを言わなかったんだね……」
学校のことは全て話した。でも、話したのはそれだけで、僕がいまなぜ話さなかったのかは言っていない。そのはずなのに、姉にはそのことが伝わっていたようだ。
「小さいことからずっと見ているもの。それぐらいわかるよ」
考えているのが表情に出ていたようで、姉はそう言ってきた。
「それで、勇君はこのことをどう思っているの?」
「えっ?」
「悪いことだって思っているのは分かったし、それがほかの人にさらに迷惑をかけるかもしれないことだと思っていることも分かった。でもそうじゃなくて、このことを、勇君がそれを作った時にどう思ったの?」
「そりゃまあ、放水器作るはずだったのに違うものができてがっかりしたけど……」
「けど?」
「でもなんかかっこいいなって思っちゃった」
「男の子だもん。それは仕方ないよ。他に何か思わなかった?」
「なんだろうって思った。いつも失敗するときはうまく形にならなくて崩れちゃうことが多かったから、魔法を止めても形を保っているこれは何だろうって」
「なるほどね……」
「なんでそんなこと聞くの?」
「私の夢は学校の先生だからね。生徒になる子供……って言っても私だってまだ成人の十五になったばっかりだけど、でも実際生徒である勇君の話を聞けば経験詰めると思ってね」
この世界で成人と言われるのは十五歳以上である。なぜこの年になったかは定かではないが、成人になると家の仕事ではなく自分から仕事を探したり始めたりしてもよくなり、また結婚と呼ばれる、血の繋がっていない異性同士で家を持ち、ともに住むことを許されるようになる。
「あ、でももちろんそれが理由じゃなくて、私の可愛いかわいい勇君が不安そうな顔していたから心配で話しかけたんだよ? 経験ってのはついでの話。ほら、先生って言っても私みたいに若い女の人だとすぐなれないじゃない? だから経験はほとんど積めないからね」
「でも、僕の担任は若い女の先生だよ?」
「そうなの!? ……でも女の人を外見だけで判断しちゃだめだよ? ごまかしている人だっていっぱいいるんだから」
「でも、性格だってどう見ても若いと思うんだけど」
「そんなの嘘ついて演技している人もいるよ。まあ、勇君がそう言うならその担任の先生は若いんだろうけど……でもごまかしている人は多いから、勇君は騙されないでね?」
「うん。わかった」
僕がそう言うと、姉は微笑んで頷いた。
「もう、大丈夫みたいだね。表情も、いつも通りに戻ったし」
いつの間にか、僕の中から不安や恐怖、心配の気持ちがなくなっていた。
「……ありがとう」
「ふふっ。私はそんなたいしたことはしてないよ」
そう言って、姉は立ち上がった。
僕もそれに続いて立ち上がる。
「今度また、何かあったら、いつでも相談に来ていいからね」
「うん」
姉が部屋の扉を開ける。
「じゃあまた、夕飯の時に、ね?」
「ありがとう……」
「それはもういいって。じゃあ私、勉強しないとだし、部屋に戻るね」
「あっ……ごめん」
僕のせいで、姉の勉強時間を減らしてしまったことに気付いた。
その瞬間、とっさに謝罪の言葉を口にしていた。
「気にしないで。私は別に勇君を怒ってるわけじゃないし、もとはと言えば、私が話しかけたんだから。もし責めるとしたら、それは自分だよ? だから、そんな顔しないで」
姉が僕の頭をなでる。
僕はうれしくなって、つい笑ってしまった。
「やっぱり、そうやって笑ってる顔の優君が一番好きだな」
そう言って僕の頭をポンポンと叩くと、姉は扉の向こうへと姿を消した。
ふんわりとした、そんな気持ちだった。
さっきまでの気持ちが嘘みたいに、僕は自分の部屋に向かって歩き出した。
☤
事は進んでいた。
奥泉誠人のもたらした情報は、一日で武器の製造が完了するほどのものだった。
分からなかったのはその方法だけ。
どうすれば、より強いものが出来上がるか。
そして、何か言われないように、訴えられてもうまく言い逃れることができるかだった。
今出来上がったものは人を傷つけない。
一時的に、行動を不能にするだけ。
何も問題はないのだ。
人間なら、たとえ平和主義だとしても、戦うのは好きなのだ。
それが悪時ではないと知れば、その盛り上がりも計り知れないものになる。
きっと繁盛することだろう。
どう転んでも、失敗はしない。
そんな商売を知って、実行しないわけがない。
武器ができて三日後。
まだ簡易的ではあるが、試合会場が完成した。
そしてついに、奥泉誠人が動き出した。
選手を探すこと。
それが誠人に与えられた役割だ。
初回で人数は少なくてもいいとはいえ、試合一回では何の面白みもない。
だから、与えられた役割は『選手となりうる人物を十人さがすこと』だった。
実験して安全が確認されているとはいえ、もしかしたら、事故に発展するかもしれない。
そんな危険意識を相手に持たせてはいけなかった。
いくら誠人とはいえ、相手をだますようなことはしたくない。
それは、あとでそのことを相手に逆取られてしまったら大変だからだ。
幸い、誠人に一人目の選手候補はすでに誠人の中で決まっていた。
きっと、その人物なら断らないだろうと、そう思っているのだ。
「別に悪い話じゃねえんだ。
待ってろよ。
――――――鬼原勇太」
残念ながら、これからもミュージカルや入試などいろいろあり、定期的には難しいと思います。
ですが、一応これを持って序章終了なので、書きやすくなることを期待しつつ、執筆したいと思います。