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ウォーターガン  作者: はる
序章
2/6

1 元凶

本編としては初投稿です。

矛盾を解消しました('15,09/17)

名前を変更しました('15,10/20)

誤字脱字等編集しました('16,6/19)

 はじめは憎いと思っただけだ。馬鹿にしてきたやつに仕返ししたいと思っただけだ。

 それなのに、こんなものが生まれてしまった。作ってしまった。



 この世界の魔法は、他の人には失敗か成功かなんて見分けがつかない。それは、失敗して何も生まれない、ということがないからだ。製作者の思い通りにならなければそれは失敗。だからと言って、ただの水に戻るのではなく形あるものができる。そのほとんどは不恰好で使い方が分からない、意味のないものになる。

 極希に新しい発明品として出回ることもあるが、それは本当に珍しいことだ。それを作り出すことはおろか、他の人がそれをつくる場に遭遇することすら、まずできない。それを見ることのできたものは幸運の持ち主だという。もちろん、それをつくった製作者はもっとだ。

 とはいえ、新しいものはすべて偶然に生まれるということはない。魔法の研究は進められていて、新しいものもどんどん開発されている。日常の不便とちょっとしたアイデアで便利グッズ、もとい発明品を作り出している。珍しいのは、それが失敗作としてできることだ。

 僕の目の前にできたのは、何やらL字の物だった。見た目は機械的で、手でつかむ馴染む。そして、その丁度人差し指があるところに、何やら輪っかのようなものがついていた。もちろん、今までこんなものは見たことはない。それは、僕はもちろん、ここにいる全員、先生を含めて同じだった。

 先程まで馬鹿にしていた男子が、さらに冷かしてくる。

 今は放水器をつくる実技の時間だった。

 この世界で作られるものは大まかに二種類あり、一つは使用時に魔力を使わない「道具」、もう一つはその反対で魔力を使う「魔道具」だ。ここでいう魔力とは、地球でいう電力のようなものだと考えてもらっていい。つまりは、使う時にエネルギーが必要か必要でないかと言うことだ。ただ、そのエネルギーが魔力というだけあって、電力とは異なるものが多い。例えば、電力は発電所から電線を通って届いているが、魔力は使用者本人から供給される。この世界にはたとえ量が少なくても魔力を持たない人はいないから、誰でも使用することができる。

 この放水器も、そんな魔道具の一つである。蛇口のようなものに小さいタンクが付いたそれは、魔力を通すことで水を出す。使い方はシンプルだが、つくるのはなかなか難しい魔道具だ。

 そうは言えど、今このクラスで習っている生徒にとっては簡単なくらいだ。失敗するのは出来の悪い僕ぐらい。失敗して落ち込んでいる僕に、先生は新しい魔道具なんじゃない? と声をかけてくれる。優しい女の先生だ。

 僕はそう言われて魔力を流す。だが、何も反応しなかった。先生は困り顔だ。

 僕としては、慣れたものだった。失敗が当たり前な僕は、珍しく形のいい失敗作だったので、期待はしてみたが、残念ながらガラクタのようだ。

「ほぅーら、やっぱりお前はゴミしか作れないんだ」

 馬鹿にされる。これも慣れたものだ。ただ、先生がさらに困った顔をしている。

 実はこの先生新人だったりする。それも今日来たばっかりだ。だからこそ慣れてないのだろう。小刻みに揺れ、今にも泣き出しそうだった。

 僕はそれが許せなかった。別に女性だからと言うわけではない。年上の人にそういうことをするのが許せなかった。つい力が入り、馬鹿にした男子の方に伸びた失敗作をつかんだ手の人差し指が曲がり、わっかの中にあった引き金を引いてしまう。


 パンッ!


 突然の破裂音に、僕は鼓膜が破れそうになった。でも、その音源が失敗作だということに気付くのには1秒もかからなかった。引いたとき、音に合わせて揺れたので間違いないと思う。怖くて閉じてしまった目を開き、その失敗作を見る。だが、何の変化もなかった。さっき音を鳴らしたというのが分からないぐらい何も変わらない。

 その時、あるものが視界に入った。それは赤い滴が垂れる様子だった。

 何かと思い僕は前を向いた。そして思わず、息をのんだ。

 あの男子の頬が切れて、血が流れている。

 顎まで流れ、ぽたりぽたりと床に赤い染みをつくっていく。

 傷自体は深いものではなく、すぐ拭いて、何か止血手当をすれば、どうにかなる程度の物だった。

 だからと言って、今僕には何が起こったかが分からない。

 そして、なんであの男子が怪我を負っているのかもわからなかった。

 僕はただイラッとしただけだ。つい力が入ってわっかの中にあったものを引いてしまったようだが、それ以外何もしていない。動物だって周りにはいない。他の生徒は身動き一つした様子がない。あの破裂音の後、この部屋の時間は凍り付いたかのように、誰も動かず、ただ怪我をした男子から流れ落ちる血の音が聞こえてくる。

 きっと僕なんだろう、あの男子にけがをさせたのは。

 確証はないけど、それこそ見つからなければいいけど、でも、きっと僕なんだと思う。

「おい! てめえなんてことしてくれんだ!」

 その時、怪我をした男子生徒が、我を取り戻し、僕に向かってどなり歩いてきた。

「ぼ、僕じゃっ」

「わかんてんだよ。それだろ。お前が手に持ってるそれ! 確かにわからなかったなら仕方ねえな。でもお前、それ知ってたんじゃねえのか?」

「そんなことはっ」

「んでも、いきなりできたもの、そんなに早く使いこなせるはずねえもんな。それともなんだ? たまたまって言いたいのか? 」

「…………」

「あぁっ! 図星かっ?」

「それくらいにしておけ、」

「なぜ止める。こっちは怪我してんだぞ!」

「どう見ても彼には動機がないではないか。これはただの事故だ。運悪くあなたが怪我をしただけで、彼には問題はない。制作に失敗して事故死なんてこともあるのだから、これぐらいで騒ぐのでない」

「ちっ……しゃーねえな。こいつのおかげでお前は無事なんだ。せいぜい礼でも言っておくんだな」

 そう言って、僕が怪我をさせてしまった男子は、教室を出て行った。

「なに、怯えることはない。制作の魔法にはこういうことも起きる。大きな失敗だったら、爆発が起きてもおかしくないのだ。今回は運が悪かっただけ。そう気を落とさなくてもいい」

「うん……」

「だが、それは危険なものだ。早いうちに戻しておいた方がいいぞ」

「わかった」

 優等生の成田君に言われた通り、僕が作り出したこの危険なものを壊した。魔法の破壊は制作者本人のみが使えるもので、魔法のかかる前の状態、すなわち水にすることができる。

「先生も怯えていないで。今日は皆疲れているはずだ。解散の指示が欲しい」

「え、ええ。わかったわ。じゃあみんな、今日はこれで授業やめるから、しっかり休んで明日も来るのよ。じゃあ、解散」

 先生のこの言葉でみんなは教室を去っていく。

 教室には僕と先生と成田君が残った。

「えっと、鬼原くん。一応今日のことを報告しないといけないのだけど……」

「私がやる。彼も一人の被害者だ。ショックだってある」

「そうね。本当は当人がいいのだけれど、今回の場合は仕方がないわね。わかったわ」

 そう言って二人は教室を出て行き、僕が一人残された。

「帰ろう」

僕はそうつぶやいて、教室を後にした。


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