勇者と魔王がどうしてこうなった
どうしてこうなった
世界には二つの大陸が存在する。
一つは魔族と呼ばれるドラゴンや巨人といった凶悪な化け物が犇めき、それを絶対者である魔王が治める魔大陸。もう一つは人族と呼ばれるヒュームやエルフ、ビーストといった人型の生物がそれぞれに国を作り、お互いに終わりのない争いを続けている神大陸。
神大陸では戦争と休戦、歩み寄りと裏切りが繰り返される戦乱の世であるが、不思議なことに崇める神はただ一柱だけであり、百年に一度だけ神の名のものとに魔王討伐に挑んでいる。しかし未だ魔王は健在であり人族の悲願はいまだ成就する気配はない。
そして今、何度目かもわからない魔大陸への遠征が決まり、教会によって選ばれた一人の勇者が天幕の中、じっと瞑想し己の決意を確固たるものへと高めていた。そんな勇者の脳裏によぎるのは魔王にまつわる無数の噂だ。
誰に聞いても魔王が残虐で悪逆の限りを尽くす神の敵であることに変わりはない。しかしある歴史書では魔王は闇を纏った漆黒のドラゴンだと記され、またある石版には見るものを狂気に落とす怪物として描かれている。さらに百年前の遠征の生き残りは恐ろしいほどの美貌を持った不死者の真祖だと言うのだ。
魔王に関するあらゆるものが万事この調子であり、ある者は魔王が代替わりしているのだと言い、ある者は魔王は無数の貌を持つ混沌の化け物だと言う。
勇者は人族最強の戦士であるという自負がある。しかし敵が分からなければどうしようもない。ありとあらゆる備えはしているが、魔王にはそれでも届かないのではないか?勇者は瞑想をしながらそんな不安を振りきれないでいた。
しかし時は無情に進み、いよいよ決戦の時が迫る。
勇者率いる人族の精鋭十万に対して、魔族の軍勢はたった一人。誰かなど問うまでもなく、魔族の長、神の敵、勇者が倒すべき魔王その人であった。
はたしてその姿はドラゴンであろうか、それとも狂気の化け物か……。せめて人の身に抗える存在であってくれと誰もが願う中、魔王の姿を捉えた者たちからざわめくような動揺が広がる。
「美しい……」
誰が言ったのかはわからない。もしかすると誰もが一斉にその言葉を口にしたのかもしれない。誰よりも強靭な精神力を持っていた勇者でさえ、武器を構えるのも忘れて魅入っていた。
蕩ける様な白磁の肌、泉を思わせるアイスブルーの瞳、月光を束ねたように輝く髪、やわらか水気にあふれた桜色の唇、それが神が作り上げたと言ってもうなずける完璧な肢体の上に完成されていた。
そのあまりの美しさに誰もが忘我し、光に吸い寄せられる蛾のようにふらふらと魔王のもとへと近づいていく。その後人族の軍勢がどうなったかはあえて語るまい。とりあえず男として死んだとだけ言っておこう。
さて、そんな男として大事なものを失うことになった勇者たちは置いておいて、人外の美しさを纏った魔王だが、これは文字通り姿を纏っているだけであったりする。魔王そのものに形はなく、どんな姿も自由自在な不定形のナニカである。
ではなぜころころと姿を変えているのか、そこには実にくだらない理由があった。
「えーっと次の謁見希望者は……げぇ、あのロリコン悪魔かよ!たしかに自分でも渾身の力作だけどさぁ、目の前ではあはあされるとかあマジ鳥肌ものだって……ん?また勇者が来たの?はぁーめんどくさい……適当に魅了して追い返すか」
この魔王、実は相手によって都合のいい姿を取ることによって成り上がったハリボテ魔王なのである。実際には戦闘力皆無であり、驚くほどの小心者である。そんな頼りない彼は転生直後に助けた鬼の少女にどつかれながら、今日も魔王のふりを続けるのであった。
ちなみに他の転生者を探して「ニホンジン」と名乗っているが、肝心の人族相手に名乗ったことがないため、彼の努力が報われることは無い。
「なーなーイケメン吸血鬼だぜ(どやっ)!」
「はいはい、どんな姿でも私は魔王様の味方ですよー(棒読み)」
勇者「Yesロリータ!Noタッチ!」
勇者は男として大事なものを無くしてしまった……。(錯乱)




