初陣
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ダダダダ ダダダダ
いくつもの銃声と怒号が交錯する中で一人の男が声を枯らして無線機に叫んでいた。
「いいぞ、このままだ。第一小隊はこの隙に回り込んで後ろから攻撃しろ!」
「はっ、了解です。」
男の命令に動き出した第一小隊の数名は敵の前を迂回し、後ろに回り込む。それは成功し、彼らは目の前に敵の司令官の姿を見つけた。この機を逃さず、一気に司令部を叩こうとPDWを構えなおし、突入しようとした彼らは背後からかけられた声に凍りついた。
「動くな。」
「何!? お前は? いつの間に? ここに来ることを知っていた!?」
驚きを含んだ声で問い返す彼ら。その問いに男は答えず、黙って前を指差した。
「…な、んだと…」
目の前に見えた光景に彼らはまたも凍りつくことになった。数分前彼らを送り出した上官は拳銃を頭に突きつけられ両手を挙げていた。
「ど、どうして…確かに劣勢ではあったかも知れないが俺たちは負けてはいなかった筈だ。それが開始数分でこんな…」
「残念だな。これが結果だ。」
「何だ、何を言っている、そんなことは…」
「諦めろ。」
彼らはその言葉に膝をつき、崩れ落ちた。
ーー
「嘘だそんな、俺がこんな簡単に負ける筈がない! 何かの間違いだ! お前だ! お前が裏切ったから俺は…!」
彼らの少し前では先ほどの上官がついさっきまで側近だった男に拳銃を突きつけられ叫んでいた。
「諦めろ。この勝負、俺たちの勝ちだ。」
「そんな、そんなことはない!」
「いい加減にしろ、どうあがいてもお前は負けたんだ。」
その言葉に男は心底絶望したように頭を下げ、
「「…さあて、そいつはどうかな?」」
ニヤリと笑った。上官は手に隠し持っていた発煙筒を天高く放り投げ、彼らは立ち上がった。
「さあ、始めようか、君たちが敗北する戦いを!」
上官はすぐ横の男が持っていた拳銃を弾き飛ばす。彼らは立ち上がり、男を蹴り飛ばした。彼らはそのまま突然の出来事に固まっている司令部に入り込み、司令官を探した。司令官を守っていた近衛兵たちは必死で応戦したが、勢いは悪い。彼らの劣勢を見て取った司令官は混乱しながらも部下を見捨て必死で逃げ出した。
ーー
上官の男を裏切って拳銃を突きつけていた男は驚きと困惑で逃げ出そうとしたところをすぐに拘束された。
「知らなかったか?」
上官は拘束された男の前に立つと言った。男は既に戦意を喪失し、下を向いていたが、男がかけた言葉に男の顔を見上げた。
「なにが?」
「甘いんだよ。お前らは。MAXコーヒーかと思うくらいにな。」
「はぁ…」
見知らぬ言葉に男は首を傾げ、疑問の意を表した。上官は苦笑し、
「知らないか? また今度飲ませてやろう。自分の甘さを知るだろうよ。ま、俺もこの前飲まされて知ったんだけどな。」
そう言って無線機で誰かと連絡をとった。
ーー
「はあはあ、なんとか、振り切った、か…」
全力で走り続けた司令官は足を止め、肩で息をする。
「ここまで来ればもう…」
「もう、何だ?」
司令官はその声に立ちすくむ。ロボットのように恐る恐る首を回し振り返る。そこには真っ黒な軍服に身を包んだ男が意地の悪い笑みを浮かべ立っていた。
「…どういうことだ?」
慌てて辺りを見回すがそこに彼の部下は誰もいない。負けを悟り、座り込んだ司令官は問いかける。
「…全て読んでいたのか? 俺たちの行動を。」
「いいや、流石に今回は全て読んでたわけじゃない。だが、」
「だが、何だ?」
「初めから負けてたんだよ。お前らは。始まる前からな。」
「……そういう、ことか。理由はわからんがこの戦いを始めた時から既に俺たちに勝ち目はなかったということだな。」
司令官は諦めたようにため息を吐く。
「そういうことだ。理由はまた教えてやるよ。機会があったらな。」
そういうと軍服の男は司令官を拘束し、無線機を取り出した。
「ふう。ゲームセットだ。司令官が降伏した。戦闘終了をコールしろ。」
「了解です。」
無線機を仕舞うと男は呟いた。
「初陣にしてはよくできた方か。どちらにせよ俺に敗北はない。まだまだだな。」
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