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邂逅

 トラミノへの道は平穏、そのものであったが、王国の南に行くに従って暑さが増してきたような気がする。

 街道沿いに生えている植物も熱帯地方独特のものが散見される。

「しかし、暑いなあ。この調子だとアレウス山脈の辺りは、もっと暑いのかな」

「ギル君、君は今頃、何を云っているのかね。アレウス山脈の付近は王国屈指の熱帯地方ではないか。その為、チェインメイルなど軽い装備に限られていたと、第三聖騎士の発表でもそう書かれていたではないか」

「慥かにそう書かれたいたけど、真逆、ここまで暑いとは思ってもいなかったから」

 歯切れの悪い返答となってしまう。決して、この旅に対する覚悟が無い訳ではないが、どうもケインやエリシアと比べると、世間を知らな過ぎる僕の見識の無さが如実に露わになってしまうことに、ばつの悪さ感じていた。

「でも、なんで急にアイヴィス様はトラミノの事を私たちに教えてくれたんでしょうね」

 気まずい空気を感じたのか、エリシアが急に話題を変える。エリシアはアイヴィスに逢ってからというもの、すっかりアイヴィスの魅力に夢中になっていた。

 アイヴィスは容姿の美しさは認めるところではあったが、どことなく、人間を超越しているというか、年齢とは懸け離れた落ち着きが、逆に居心地の悪さを感じさせていた。

 しかし、同世代の女性からすると、その超越した感じが、憧れの対象になるのかも知れない。エリシアが、あれから話題にすることがアイヴィスの事ばかりであった。

「そうだね。先ずは僕たちが、自身の従騎士であったアルバートの知り合いというのが大きいと思うけどね。矢張り、親しい人には、慥かな真実を知って欲しいという気持ちが多少なりともあるんじゃないかな」

 アイヴィスの話では、発表自体が和平を望む国王の意向が反映されたものになっている、と示唆していた。

「しかし、それだけの理由で私たちをそこまで導いて頂けるものなのかしら」

 エリシアは少し首を傾げてみせる。

「それにあの場所、カムロドンに何故、アイヴィス様はいらしたのかしら。まあ、私たちは、アイヴィス様のお陰で命が救われた訳だけど。アイヴィス様が、カムロドンを訪れた理由が良く判らないわ」

 アイヴィスはカムロドンを訪れていた理由を語っていなかった。

 第三聖騎士は本来、王都センチュリオンの守護が役目である。

 国王直属の近衛騎士団である銀十字聖騎士団は十二人の聖騎士で構成されており、それぞれの役目は明確に決まっていた。

 第一聖騎士は国王の護衛、第二聖騎士は城の警護、そして第三聖騎士は王都の守護がその役割であり、他の聖騎士も同様に役目が決まっており、ランベルトの様に王国にとって重要な都市を治めている聖騎士も何名かいるのであった。

 よって、本来、王都センチュリオンの守護が役目であるアイヴィスがカムロドンを訪れる理由は無いのである。

 しかし、アイヴィスはカムロドンを訪れている。王都センチュリオンの守護よりも重要な職務がカムロドンにあるとは到底思えない。きっと、カムロドンを訪れているのにも、グレン先遣隊の件が関係しているのではと、つい詮索してしまうエリシアの言い分も良く判る気がした。

「そうだな。慥かに僕たちはアイヴィス様の登場で命が救われた訳だけど、アイヴィス様がカムロドンを訪れた理由は不明のままだ」

「ギル君、意外とカムロドンを訪れていた理由など単純なことかも知れませんよ」

 ケインは何か確信を得ているかのような口ぶりで語り始めた。

「今回の件。宣戦布告から先遣団の派遣、そして王国政庁の発表については、兎に角、国王の意向が強く働いていると云うのは想像に難くない。そして、アイヴィスは、先遣団の派遣から襲撃の発表までの重要な人物であることに違いはない。よって、国王から直々にアレウス山脈の周辺で今回の件についての情報を収集するように密命を受けているに違いない」

「待って下さい、ケインさん。アイヴィス様が先遣団襲撃の発表に関わっていたのは事実だけど、先遣団の派遣にはどう絡んでくるのさ?」

「どうって。決まっているじゃないか。君の兄上のアルバートが師事していたのが、件のアイヴィスだろ? ということは、その護衛隊長への推挙に大きく関わっていたと考えるのが妥当ではないかな?」

「でも、ファラードさんが云うには、護衛隊長への推挙はグレン宰相の意向だったと」

「だから、そのグレン宰相の推挙の前に、アイヴィスが絡んでいたんじゃないか、と云っているんじゃないか。ギル君は本当に鈍いんだな」

「ということは、グレン宰相とアイヴィス様が、共謀していると云いたいの? そんな訳無いじゃないか。慥かに、ファラードさんの話ではグレン宰相の言動に疑問を感じる場面は少なくはないけど、アイヴィス様は、少なくとも共謀して何かを為そうとしているような感じは微塵も感じられなかったんだけど……」

「ギル、あなたの気持ちは判らないでもないけど、今回の事についてはケインの考え方にある程度、賛成よ。私はどちらかというと、グレン宰相の陰謀にアイヴィス様が巻き込まれた――という見方の方が納得がいくのだけれど」

 エリシアも二人の議論に割って入る。

「でも、事実はどうであれ、グレン先遣隊の真実を知る人物を私たちに紹介していただいたのも、また事実よ。だから私たちに議論をしている余裕など無いわ。アイヴィス様から紹介していただいたランベルト様に会って話を訊く。これがまず、私たちの出来る最善の手段だわ」

「そうだね、エリシア。それは十分に判っているつもりなんだ。でも、なんとなく上手く話が出来過ぎていることに不安を覚えるんだよ。カムロドンでの襲撃とそこに偶然にも現れるアイヴィス様、そして生存者であるランベルト様の出現と、どう考えても出来過ぎだよ。更に辿れば、ファラードさんの件だって十分に出来過ぎだよ。まるで運命が僕たちを真実に引き合わせようとしているみたいに感じられるんだ。そんな出来過ぎた偶然の連続を素直に信じることが出来ないんだよ」

 僕は素直に自分の気持ちを二人に告げた。

 ここまで、順調すぎる旅が何か薄気味の悪さを感じさせていた。

 そして、この旅をこのまま続けることで二人の身に何か良からぬ事が起きるのではと不安で仕方なかったのである。

「ギル君、何度も同じ事を云わせないでくれよ。決して私は君の為にこの旅に出ることを決意したのではないのだよ。君の兄であるアルバート君の不名誉を晴らす為にもグレン先遣隊の真実を解き明かす必要性があると考え、この旅を同行しているに過ぎないのだ。勘違いしてくれるなよ。だから、私は私なりの理由があってこの旅をしているのだ、たとえこの結果、どの様な不幸が訪れようと、私は君を責めたりしない。これは約束しよう」

「そうよ、ギル。私だってケインほど云うつもりはないけど、ギルを責めたりするつもりは微塵もないわ。きっとこの旅を通じてアルの死の真実を掴んでみせる。私の決心も決して揺るぎはしないつもりよ」

 二人の力強い言葉に胸が詰まる。

 やはり、真実を解き明かすには一歩一歩、着実に前に進んでいくしかない。

 先ずはランベルトに会って真実を訊く――

 如何なる真実も受け入れる覚悟は出来ている。

 いや、二人がいてくれれば、どんな真実だって構わない。

 三人でこの旅を無事に遣り遂げる。

 そう信じて顔を上げると、小さいながら城門らしきものが目に入る。

 ランベルトが治療の為に一時、駐留している小さな街、トラミノの城門であった。

 今度こそ、真実は目の前にある。

 そう信じて三人は城門を潜った。

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