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模擬戦

 これは未だアイヴィスが第三聖騎士となって数ヶ月が経った頃の出来事であった。

 ある日、アイヴィスは国王の謁見を終え、宮廷内を歩いていた。

 同じく国王の謁見を終えたばかりのグレン宰相が向こうから歩いてくるのが見えた。

 普段であれば、幾ら相手が宰相であっても目礼で済ませているアイヴィスであるが、この日はグレン宰相のほうから声を掛けてきた。

「これは、これはアイヴィス殿。かねてからアイヴィス殿のご活躍は、私も国王から伺っておりますよ。第三聖騎士は、王都センチュリオンの守護者。北はノルガルド、南は蛮族、西には砂漠の民など、様々な外敵に悩まされております故、アイヴィス殿のご活躍が無ければ、国王も枕を高くして眠れないとか」

 グレン宰相とは何度か話しをしたことはあったが、この時は何時もと違い、何か企んでいるかの様な印象を受けた。

「その様なお言葉、誠に恐悦で御座います。私は聖騎士といってもまだ若輩者。国王の為に精一杯、忠誠を尽くしているだけでございます」

「それはご謙遜ですな。アイヴィス殿の剣技の冴えは、王国随一とも聞いていますぞ。銀十字聖騎士団で剣技と云えば、剣聖ヴァンクリフ殿が有名でございましたが、どうも最近では加齢による衰えが見え始めてきたヴァンクリフ殿を抜いて、アイヴィス殿が王国一の剣豪との呼び声が高いとか。そして手にされているロングソード、アンブレイカブルも稀代の業物と聞いておりますぞ。何しろ、他人が手にすると鋼鉄の塊の様に重く、持ち上げる事も困難だが、アイヴィス殿が手にすると質量を感じさせないとか。そしてまるでアンブレイカブル自体が意思を持っているかのように変幻自在の動きをするのだとか」

「それは全く根拠の無い噂でございます。私の剣技など、ヴァンクリフ様の剣技に比べたら児戯も同然。比べること自体が烏滸がましいことでございます」

 慥かに私の剣技は、通常の騎士の域を遙かに超えたものであったが、それは総てフィーネの存在があってのことであった。

 フィーネとの一件があってから、不思議な事が沢山あった。

 意識を失ってから再び目を覚ました時は、ウィルシャー家の自室に横たわっていた。

 後で奉公人に聞いたところ、私はフィーネの泉の辺で旦那様から託された書簡とともにロングソード、アンブレイカブルを抱いて意識を失っていたらしい。

 しかも、アンブレイカブルを私の手から離そうとしても全く動かなかったそうである。それは、重量が余りにも重く大人が数名がかりで持ち上げようとしても、持ち上げられないほどであったという。

 そして、その後、私はウィルシャー家に戻り、レイナの後継者として働く事となったのであるが、以前とは全く比べ物にならないほど奇跡の力が大きく強大になっていた。

 そしてアンブレイカブルは私が手にすると重量を感じるどころか、意識を先廻るほどの速度で剣戟を放てるほどであった。

 その噂は瞬く間に拡がり、ヴァルナから遠く離れた王都センチュリオンまで伝わるのに左程時間は掛からなかった。

 そして、噂を聞きつけた当時の第三聖騎士フランツは、直接、騎士団を経由せず直接、自身の従騎士として仕官したのであった。

 しかし、その後、第三聖騎士は遠征先の西の砂漠の国で非業の死を遂げる。

 本来、王都センチュリオンの守護者として遠征に加わることが無い第三聖騎士を砂漠の国への遠征に向かわせたのが、眼前にいるグレン宰相であった。

「まあ、そう仰らずに。私はあなたに不思議な縁を感じているのと同時に、あなたの能力に責任を感じているのです。奇しくも先代の第三聖騎士を死地に追いやることとなってしまったのは私の進言からなのです」

 慥かにグレン宰相の進言によりフランツは西の砂漠の国へ赴くこととなったが、それが直接の原因とは言い難いものがあり、グレン宰相の言い分には違和感を感じた。

「いや、責任を感じているというのはフランツの死ではありませんよ。慥かに彼は優秀な聖騎士でしたが、彼の死、そのこと自体は問題では無いです。結果としてあなたが第三聖騎士として繰り上げられた事に責任を感じているのです」

 ここでグレン宰相は意地悪そうな笑みを浮かべながらも、私からの視線を逸らし話しを続けた。

「だってそうでしょう。あなたはまだ若い。しかも騎士団としての実績もないまま従騎士に仕官されまだ数ヶ月しか経っていない。それはあなたも認めていたこと。第三聖騎士と云えば王都センチュリオンを守護する重責を担う者。実力の序列順に並ぶ銀十字聖騎士団に於いても三番目の実力者ということになる。実は私自身はあなたの実力自体に非常に懐疑的なのですよ。だから私としては、是非、あなたの実力を国王の前で披露して頂きたいと考えているのです。どうでしょう。非常に良い考えだとは思いませんか?」

 ここまで聞いて、ようやくグレン宰相の云わんとしていることが理解できた。

「そうですね。勿論、普通の騎士と戦って頂いても、全くあなたの力を披露する、という訳にはならないでしょう。どうでしょう。近頃、あなたも互角と比肩されるようになった第一聖騎士ヴァンクリフと模擬戦を行うというのは? あなたにとっても相手に不足はないでしょう?」

 やはりそうであったか。

 私を第一聖騎士ヴァンクリフと戦わせたいのである。

 しかし、何故なのか理由については、釈然としないものがあった。グレン宰相が云うように、第三聖騎士は大変な重責であり、聖騎士の中でも最も実力が必要な要職であった。しかし、私はこの数ヶ月の間に様々な功績を挙げることができた。勿論、その功績の影にはフィーネの存在が大きかったのは事実ではある。

 それでも執拗に私の実力を疑い、剰え第一聖騎士との模擬戦を行わせるということに違和感を感じていたのである。

「畏まりました。必ずや模擬戦で私の実力を証明させていただきます」

「宜しい。では日時が決まり次第、連絡させていただこう。私も期待しているぞ。模擬戦では是非、アイヴィス殿の実力を証明していただきたい」

 そう言い残し、グレン宰相はその場を離れていった。


 ほどなくして、模擬戦の日がやって来た。

 模擬戦は城内の闘技場にて行われることになった。

 第一聖騎士ヴァンクリフとは面識は殆ど無かった。第一聖騎士は立場上、国王と絶えず行動をともにしており、国王との謁見の際に顔を合わせる程度の間柄であった。

 年齢はもう、六十歳近いと聞いていたが、その外見からは年齢を感じさせない気高さを感じた。

 模擬戦と云っても、奇跡の力の使用は限定的であったにせよ、真剣にて勝負をすることに変わりは無く、油断をすれば命を落とす危険性もあった。

 といってもお互いに奇跡の力に長けているもの同士の戦いである。深手を負わされたといっても即座に治癒が可能であり、余程の事が無い限り命を落とすことは無かった。

「アイヴィス様、ヴァンクリフ様とは、模擬戦を戦うにあたってお話をされたりしたのですか?」

 従騎士に仕官されたばかりのアルバートが声を掛けてきた。

「いえ、特に。ヴァンクリフ様は忙しい方でおいでです。私が話しをすることで職務に影響があってはなりませんので。しかも、模擬戦の前にヴァンクリフ様を話しをしていたなどとグレン宰相の耳に入ろうものなら、談合を疑いかねられませんからね」

 自然と笑みが溢れた。

 アルバートは将来が楽しみな若者であった。若者いっても私と年齢は一つしか変わらない。しかし、私はもう既に私自身だけではなかった。

『あら、それはどうゆう意味かしら?』

 フィーネが直接、意識に話し掛けてきた。あれからフィーネは私の躰に宿り、様々な力を行使してくれるようになったのである。奇跡の力もフィーネが直接行使することにより、通常では考えられない力を行使出来るようになった。剣技も殆どフィーネが私の躰を操り繰り出されていた。よって第三聖騎士アイヴィスと云っても、その実力の殆どはフィーネ頼りの実力なのである。

『それは違うわ、アイヴィス。私があなたに力を貸しているのは事実だけど、それが全てではないわ。第三聖騎士としてあなたは立派に重責を果たしている。それはこのフィーネ様が保証する!』

 フィーネが励ましてくれていることは、とても嬉しく感じていたが、模擬戦ではどの様に振る舞うか悩んでいた。フィーネの力を以てすれば、恐らくヴァンクリフを圧倒してしまうかも知れない。そうなれば私の力は王国中に知れ渡り、グレン宰相の疑いも晴れる。しかし、それは逆にヴァンクリフの剣豪としての地位を地に落としてしまうことになるのである。ヴァンクリフは先代の王から第一聖騎士として仕えてきた老練な聖騎士である。その彼の長年にわたる国王の信頼を一夜にして奪ってしまうことにも責任を感じずにはいられなかったのである。

『悩んでも仕方ないわ。ヴァンクリフは長年に渡って剣聖として第一聖騎士の地位に君臨してきた勇者よ。恐らく、その剣捌き自体は私と同等かそれ以上よ。相手の事を心配している場合では無いのよ。油断したらあなただって無事では済まないのよ』

 解っている。

 でも、考えずにはいられなかった。グレン宰相の真の目的が何処にあるのか。それを突き止める為にも、模擬戦は全力で挑まねばならなかった。


 闘技場は、普段、騎士団の剣技の教練の為に使用されている、円形闘技場である。

 今日は、多くの民も訪れ、第一聖騎士と第三聖騎士の模擬戦の行方を見守っていた。

 過去に聖騎士同士の模擬戦が行われたことは、少なからずあったが、第一聖騎士が模擬戦を行うというのは、王国史上初めてのことであり、アイヴィスもその美貌と銀十字聖騎士団の中でも群を抜いていると謂われる剣技で注目を集める存在であった。

 最下階の闘技場に一歩足を踏み入れると、観客席から歓声が沸き上がる。

 数万人は詰めかけているのであろう。地響きにも似た歓声に圧倒されそうになる。

 正面に目をやるとまだ、第一聖騎士は姿を現していないようであった。

『なんだ。まだ姿を見せていないのか。私を待たせるなど、人間にしては良い度胸だな』

 フィーネは、私の心配を余所にすっかり模擬戦を愉しもうとしているようであった。

『それはそうだろう。私だって王国最強の聖騎士の力量とやらが気になるところさ』

「でも、模擬戦の勝敗の結果によっては、色々と状況が変化するのよ。それにグレン宰相が何を狙っているか。序盤は様子を見ながら戦うことにしましょう」

『はいはい。了解ですよ。もう、アイヴィスは真面目な性格なんだから』

 愚痴を溢すフィーネであったが、アンブレイカブルの反応からは真剣に戦いたい意思が読みとれる。

 と、その時である。

 正面の扉が音も無く開かれる。

 静かに歩を進める一人の聖騎士――第一聖騎士、ヴァンクリフ。

 ショートソードとカイトシールを装備した姿は威風堂々とし、その存在感だけで私を圧倒する。

『やっとお出ましか、ヴァンクリフ。その右腕に握られているのが宝剣「イズガルディア」だな。ふむ。なかなかの業物の様だが、我が宝剣「アンブレイカブル」の足下にも及ばないかな』

 イズガルディアは代々の第一聖騎士の愛刀として王国中に知られた宝剣であった。何代にも渡り第一聖騎士が己の奇跡の力を封じ込め、刀身は星屑の様に眩い光を放ち、柄には見事な宝石の細工が施されていた。

『イズガルディアも気になる存在だが、あのカイトシールドの方が厄介な存在だな。アイヴィス、あれは何というシールドなのだ?』

「あれは『ヘブンズゲート』とよ。あのカイトシールドは、ヴァンクリフ自身による業物よ。全ての攻撃を無効化する完璧なシールド。剣戟はおろか『神罰』や『神意』ですら弾き返すと謂われているわ」

『それは注意が必要だな。まあ、しかし要は防御されなければ関係無いということだな。それは腕が鳴るな』

 やはりフィーネは完全に模擬戦を愉しむ気でいるらしい。そんな奔放なところが彼女らしいと感じる。

「こうして相見えることになるとは。嬉しく思うぞ。第三聖騎士アイヴィス」

 ヴァンクリフが声を掛ける。良く響く声は、民の歓声を縫って私の耳に届いた。

「私も第一聖騎士と戦えることを誇りに感じております」

「世辞など良いわ。アイヴィス、いざ尋常に参らん!」

 掛け声と同時に間合いを詰めるヴァンクリフ。

 その速度は見掛けからは想像出来ないものであり、次の瞬間には眼前に迫り、水平に一太刀を浴びせてきた。

 ヒュン。

 風切り音が遅れて耳に届く。

 イズガルディアの切っ先が私の頬を僅かに掠める。

 速い。なんて速さなの。と感じている次の瞬間には二の太刀が襲う。

 辛うじてアンブレイカブルで弾き返す。

『何を油断しているの、アイヴィス。相手はヴァンクリフなのよ。このくらいの剣戟は想定の範囲内よ!』

 フィーネが叱咤する。

『次は私の番よ。これが人間に躱せるかしら』

 アンブレイカブルが目にも止まらぬ速さでヴァンクリフに襲いかかる。

 キーンと金属と金属がぶつかり合う音が谺する。

 ヴァンクリフの躰を左右からアンブレイカブルが襲うが、涼しい顔でヴァンクリフがヘブンズゲートで弾き返す。

「流石ですね。得物のロングソードを拝見して、近距離戦なら圧倒出来ると確信したのですが、ここまで完璧に対応できた方は初めてですよ。そして、ロングソードを使った攻撃も見事としか云いようがありません。あなたは素晴らしい聖騎士のようです」

 私の攻撃を受けながらも平然と言葉を投げかけてくるヴァンクリフ。この程度は、彼にとって余裕ということらしい。

「では、次に進ませて頂きますよ」

 アンブレイカブルの剣戟を仰け反るように躱し、右腕を高く掲げる。

「来る!」

 本能的に危険を察知した私は、即座に後方に宙返りをして距離をあける。

 次の瞬間、上空からハンマーの形をしたオーラの塊が襲来する。

「神の裁きを与え給え!」

 ヴァンクリフの詠唱と同時にハンマーの形をしたオーラが五つ上空より降り注ぎ、私を襲う。一つ一つが強大なオーラの塊であるため、アンブレイカブルでは弾ききれないと判断した私は、後方宙返りを繰り返し、距離をあけてやり過ごす。

『おおお。人間如きが『裁きの鉄槌』を使ってくるか。あれはなかなな高位の力の筈だぞ。いやあ、ヴァンクリフって云う奴は、剣戟も凄いが奇跡の力も凄いんだな』

 フィーネが無邪気に感激している。『裁きの鉄槌』は噂で聞いたことがあったので、事前に察知して躱すことが出来たが、反応が少しでも遅れていれば、確実に仕留められていた筈である。

『さてと。ここからどうする? ヴァンクリフの云うように近距離での戦いは、どうやら彼方に分がありそうだ。ヘブンズゲートの防御とイズガルディアの攻撃は、かなり厄介だ。そして、距離を開ければ『裁きの鉄槌』が飛んでくる。第一聖騎士っていうのは本当に伊達じゃないな』

 この程度のことは覚悟の上であった。

 慥かに近距離戦では、ヘブンズゲートとイズガルディアの両方を使用できるヴァンクリフの方が有利であった。

 しかし、刀身の長いロングソートのアンブレイカブルが届いて、ショートソードのイズガルディアの届かない距離であれば一方的に攻撃できる筈である。しかも、間髪入れずに剣戟を加えることで『裁きの鉄槌』を放つ猶予を与える事も無い。

 勝機は、その間合いで戦い続けることしか、無いように思えた。

『そうね。その戦い方には一理あると信じたいところね。きっとこちらの放つ奇跡の力はヘブンズゲートによって遮断されるでしょうし、剣戟よって圧倒しなければ活路は見いだせないわね』

 フィーネも私の考えに同意してくれたようである。

『でも、それはヴァンクリフも同じ考えに至っているわ。お互いの得物の長さの違いが明暗を分けるとね。だから、距離をおいた戦いを選択してき――』

 フィーネが言い掛けた時にハンマーが目の間に落ちる。そして続けざまに、ハンマーが落ちてくる。

 躰を大きく前方に投げ出し、ハンマーを躱す。

『――ったく。油断も隙もあったもんじゃないわね。問題は、どうやってその距離で戦い続けられるか、ということね。それなら私に考えがあるわ』

 でも、それは。

 フィーネの考えを聞いて私は絶句した。

『大丈夫よ。レイナは不完全な形で行使していたけれど、私の力があれば完全な形で行使する事が可能よ。心配ない、安心して頂戴』

 でも、それを使う事はグレン宰相に私たちの正体を教えてしまうことになりかねなない。グレン宰相の目的が解らない以上、それは避けたいのも事実であった。

『仕方がないわね。アレは使わないことにするわ。でも、神速のアイヴィスの本領を発揮させてあげようじゃありませんの』

 そうよ、私たちは神速のアイヴィス。私たちの動きについてこれた者は皆無の筈。

『では、行くよ。これで一気に勝負を付けるわよ』

『裁きの鉄槌』を躱し、反撃にでる。左右に大きく跳躍を繰り返し、ヴァンクリフに接近する。フィーネの力により、躰が浮いている状態でも、足を蹴り出すことで、跳躍が可能となっていた。よって、ヴァンクリフの目には、文字通り、空を駆けているいる様に映っている筈である。

「ほう。まだ、そのような業を隠し持っていたか――」

 一瞬、驚きの表情を浮かべたヴァンクリフであったが、私の跳躍に合わせて『裁きの鉄槌』を浴びせてくる。

『いやあ、それでも、これだけ奇跡の力を行使できるとは、ヴァンクリフも捨てたもんじゃないね。次の瞬間で倒してしまうのが勿体無いよ』

『裁きの鉄槌』を次々に跳躍で躱し、ヴァンクリフに肉薄する。

 あと数回、跳躍を繰り返せば、アンブレイカブルの射程に捉えられる。その距離まで詰めた瞬間に、ヴァンクリフの顔から笑みが溢れる。

「私の攻撃が『裁きの鉄槌』だけだと思っているのですか?」

 罠だと、直感した。

 跳躍を繰り返し、正面に接近してきた私たちに対して、最も有効な奇跡の力の存在を忘れていた。

『神罰』

 跳躍で距離を詰める私たちに向かって、真っ直ぐに放たれる『神罰』の光。

 跳躍の途中では方向転換することも出来ない。

 やはりヴァンクリフは、私たちの狙いを読んでいたのだ。

 そして敢えて跳躍を繰り返すように『裁きの鉄槌』を放ち、この瞬間を狙っていたのだ。流石は長い間、第一聖騎士の座に着いていただけの事はある。

『感心している場合かよ! こうなれば最後の手段だ!』

『神罰』の光に包まれる瞬間、私の躰も自ら黄金の光に包まれる。

 ――天使降臨

 一瞬であったが、背中の羽を羽ばたかせ躰を強引に捻る。

『神罰』の光が躰を掠める。

 突然の出来事に反応が一瞬遅れたヴァンクリフの首元にアンブレイカブルを当てる。

「勝負ありです。ヴァンクリフ様」

「これは驚きました。真逆、あなたが―― この事は秘密にしておきましょう。私も『天使』に負けたのであれば本望です。グレン宰相をこちらを見ています。彼に何かを気取られる前に、離れましょう」

 驚いたことにヴァンクリフは一瞬で『天使降臨』の秘密を暴いていた。そしてグレン宰相が何かを企んでいることも、察知しているようであった。


「勝者、第三聖騎士アイヴィス!」

 闘技場内では、勝者の名前を呼び上げられる。

 観客席からは声援と怒号が入り混じっていた。

 グレン宰相が恨めしい顔をして退場してゆく。

 グレン宰相が何を目的として私とヴァンクリフを戦わせたのか、理由はわからなかったが、彼が何かを企んでいる、その事は紛れもない事実であるように思えるであった。

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