第二話
僕は家に帰っていた。
あのあとあいつは明日の水泳の授業で行われる25m自由形のテストで僕と勝負する事を提案すると、「じゃあそういうことだから」とだけ言ってその場から走り去ってしまった。さっきまでの僕ならすぐに追いかけようと思った筈なのだけれど、僕がその場から動くことはなく、ただあいつの後ろ姿を見送る他無かったのだから。
この僕と水泳で勝負……?
僕の頭の中はそれだけでいっぱいで、他のことを考える余裕が出来てはいなかった。
僕はスイミングスクールに通っていて、上級クラスで練習している訳で、そこらへんで水に浸かるだけのお遊び連中とは違うのだった。
正直僕は、つまらないなあと思った。
僕はいつも水泳の授業ではお手本を見せてる側で、学年で一番水泳が上手かった。
でもそれは当然の事だろう。スイミングスクールに通って、自分よりも一回りも大きい体格の上級生と一緒に毎日練習しているのだから、もはや水泳が“上手い”と言う言葉では、当てはまらないのだ。
だからこそ、僕はこの勝負はつまらないと思った。
「こんな勝負、僕が勝って当たり前じゃないか」
水泳の授業。一連の準備運動を終え、シャワーを皆で浴びたあと、先生が今日の25mテストの説明を始める。僕は先生の話を聞くよりもやはりあいつのことが気になり、目をやる。
あいつは後ろの方で他の生徒とふざけあっていて、本当に今日僕と勝負する気があるのかと少しイライラした。
先生が二人を注意する。あいつはヘラヘラとしながらもその場に座った。勿論体育座りでは無かったけれど。
そこから簡単な準備体操を終えプールで水になれるバタ足などを終えて、出席番号順で25メートルのテストが始まった。
いつも思うがこの出席番号順と言うのはなかなか残酷なもので、『あ』で始まる者は先陣を宿命づけられていて、気の毒になってくる。たまに先生が気分でじゃあ今日は一番後ろから行くぞーと言う事もあるが、まあ稀だ。真ん中よりやや後ろの名字が一番安泰だろうという、僕の持論なのだった。
そんな事を考えていると真ん中よりもやや後ろの僕の番が近づいてきた。そこで僕は先生にアイツが僕と一緒に泳いで、少しでもタイムを上げたいと言うようなそれなりの理由を付けて僕はアイツと横に並んで勝負する環境を整えた。
「この勝負で俺が勝ったら、この前のことは信じるってことで良いな!?」
「良いよ、それに追加で今後君には言及しないことにする。」
「そんな事どーでもいいんだよ。そんな事より勝ったらアイス奢れよ!ハーゲンダッツ!」
「そんなんで良いのか。じゃあ僕が負けたら君の言うことを1つだけ聞いてやるよ。何でもな」
「マジで!?言ったぞ!?」
あぁ、いいさ。だって僕は
「負けるはずがない」