衝突
僕は当時、スイミングスクールに通っていた。
もちろん泳ぎには自信があったし、スイミングスクールでも上級クラスで自分よりも学年が上の人達と一緒に練習していた。
僕は元から勉強が出来る方で、友達もそれなりに多く、皆から慕われ、何不自由ない小学生ライフを過ごしていた。
だが、そんな僕の学園生活を脅かす輩が、僕の目の前に現れたのである。
その僕の学園生活を脅かす輩は、小学校でも有名な奴で、授業中にいきなり廊下に飛び出して走り回ったり、女の子が大事にしていた消しゴムを盗んだり、勝手に人の給食を食べたりと、要するに悪ガキなのであった。
先生達も手に焼いていて、色々対策を取っているようだが効果は無いに等しかった。
僕はそいつとは余り接しないように普段過ごしていたのだが、それは唐突に僕の目の前で起こった。
学校の帰り道、僕らがよく行く田村屋
と言う駄菓子屋がある。
僕らはいつもその田村屋でお菓子を買って、遠足のおやつにしたりと、馴染みの深い駄菓子屋だった。
その店からあいつが走って出てきた。
この時僕は小学生ながら、この状況を瞬時に理解できた。
『これは万引きだ。』
「ーー!!」
僕は叫んだ。
そしてそのままあいつを追いかける。
あいつは僕の方を一瞬見るとそのまま走り去っていく。
「逃がすか!」
この時僕は、なぜこんなにもムキになったのだろうと今では思う。
あいつは有名な悪ガキで、自分からは関わらない様にしていたし、そもそも意識すらしてなかったように思う。
なのにあの時僕はあいつを許せなかった。万引きをしたからとかじゃなくて、もっと何か他の理由が僕を突き動かした気がするのだが、それが何だったのかは、今でも分からずじまいだ。
あいつは公園に着くと走るのを止め、僕に振り返って言った。
「何でいつまでも付いてくんだよキモチワリイなあ」
「……そんなの決まってるだろ!田村屋からお菓子万引きしたろ!」
するとこんな返答が帰ってきた。
「してねえよ!」
ウソだ。僕はそう思った。
「じゃあそのポケットの中のお菓子はなんなんだよ!」
「そんなもん買ったに決まってんだろ!?バカなのお前?」
「バカなのはお前だろ。田村屋はお菓子を買ったら田村屋の袋が貰えるんだ。お前はそれをもってないじゃないか。」
「いらねえって言って返したんだよ!」
僕はこいつの言うことは信じられなかった。
こいつはたくさんの人に迷惑をかける悪ガキで、そいつがさっき僕の目の前で駄菓子屋から走って出てきた。
その事実だけで十分なのだから。
「これ以上みんなに迷惑かけるな、今からでも田村屋にお菓子を返しに行こう」
「だから取ってねえんだって言ってんだろ…。」
この期に及んでまだそんな事を言ってるのかと僕が思ったそのとき、こいつはあっと何か閃いたとでも言う顔で僕に近づいてきた。
「お前、俺と勝負しろよ。」
「……、勝負?言っとくけど、僕は喧嘩ならするつもりはないよ。」
「喧嘩なんてお前みたいな奴が出来るわけ無いってことは俺も分かってる。」
この言葉に僕は何か下に見られているような気がして、内心イライラしていたのだが、そんな僕のイライラを吹き飛ばす提案をこいつはしてきたのだ。
「お前、水泳得意なんだろ?」
「え?」
「水泳で勝負しようぜ」