No.003 弱者
大幅では無いですが、ストーリーは右折しました。
「おらぁ!!」
そんな男の怒号とともにドゴォと鈍い音、狂喜に顔を歪めた男どもはボロボロの少女に攻撃してゆく。
奴等のレベルは16、少女のレベルは1、とても耐えれるものではない。更に少女は小柄なため体格差もあり不利も良いところだ。
男は5人、ぶっちゃけキモい。女性に手を出すキモメンとか死ねば良いのに。
てか、こいつらの隣は公園だぞ、子供もビックリだよ。ちゃんと自重して。見てみて思ったけど異世界の遊具も案外普通なんだな。ジャングルジム、鉄棒、砂場、噴水?ベンチ、ゴミ箱、ブランコ、水のみ場。俺的には一番の遊具はタイヤだな。
閑話休題
因みにレベルはそのプレイヤーの頭上に名前が出ててその横に書いてある。スキルの中にはそれを偽装することも出来るらしい。
話を戻そう。
街ではPK出来ないためHPは減らない、そのため、ひたすら苦痛に耐えなくてはいけない。まさしく地獄だ。
しかし、誰も止めようとはしない。
何故なら彼等は今のところここら辺では一番のレベルを誇っていて、他のプレイヤーは2や良くて3ぐらいなもの。因縁付けられて巻き添えで殴られたくないのだろう。
俺だってそうだ。
学校でもこうゆう理不尽な暴力、それを止めようとしたら矛先がこっちに向かいフルボッコは請け合いだ。
分かっていた、分かっていたのにリアルでは止めてしまった。いじめていた奴等に止めろ と言ってしまった。
結果このざまだ。
助けた人も苛める側に回った。
まあ、概ね間違った判断ではない、弱者は強者に従う、当然の選択、悪いことではない。
不意に少女と眼があった。
青なのか紺なのか、深い海の色。でも黒ではない。そんな色。じっと俺を見ている。そして心なしか安堵、そんな表情を見たような気がした。
そしてよそ見をした少女は男の攻撃を受け流し損ね、10mくらい吹き飛び。壁にぶつかる。そして立ち上がろうとしても微かにしか動けない様だ。まさに絶体絶命。
確かにこっちを見たような気がした。
でも気がしただけだ、だってあの子、今物凄い窮地に立たされてるんだぜ?しかもキモメン代表の俺の顔を見て安堵ってお前。勘違いも良いところだ。もしかしたら本当にそんな表情をしてたのかもしれない。そしてその隙を突かれて戦闘不能とか、どうしようもないだろ。
どちらにせよ、俺は勘違いの方が確率が高いと思うよ、実際。
「あ゛ぁ゛!?なんだてめぇは!!」
だってレベル1の俺が出たところで拳でドンドコやられてフルコンボだどーん♪だぞ?しかも鬼でだ、逆に光栄かもな。そんなやつを見付けて安堵は無いだろう。
「俺?通りすがりの通行人ですけど……ちょっとそこの子に用があるんで、止めていただけませんかね?」
まあ、殴られないかもしれないし、殴られたとしても、もしかしたら物理耐性とか、良い感じのスキルが出てくるかもしれんし、ちょっと頑張ろーかなってね。ほら、最初の1歩が重要だから。男の意地って案外強固だから。
こら、そこ!頑固とか言うんじゃない!もしかしたらあの少女がパートナーかも知れないから助けようとしただけであって。決して赤の他人だったら助けないんだからね!
うん、俺はカスのようだな。生まれてきてすいません。
え?余裕かましてる場合かって?やだな、足がガクガクを通り越して直立不動の俺に余裕?ちょっと何を言ってるのか分からないな。
もうね、高校に入るときの面接の時みたいな、ロボットみたいなそんな歩き方だけど、動けるだけ良しとしよう。
先日のバイトの面接では上手くいったんだけど。どっかに度胸とか自信とか忘れてきたかな?取りに家に帰っても大丈夫かな?
そんな無駄話っていうか無駄思考をしながら男どもの前に立つ。
「おいおい、こいつ見事な醜男じゃねーか、ここまで酷いのは始めてみたぜ、ギャハハハハ!!」
うっせーし、余計なお世話だ。俺と似たり寄ったりのブサイクフェイスしやがって。ゲーム買う金あったら整形してこいや。ばーかばーか!
「残念だけどなぁ、そいつは出来ねぇ相談だ。わかったらその汚ねぇ面をかくして消えな」
そんな事言われたら落ちこんじまうぜ、あっと靴ひも結んどこ。しっかり紐を結んで。強く手を右手を握る。そんで立ち上がり確りと俺の意思をニヤニヤしている奴等に伝えてやる。
「悪いけど、それは断ろう。お前らが消えろ」
声震えてないかな?顔はポーカーフェイスっていうか既にボロボロだから問題ないか。
「あんだと?てめぇ、こっちが優しくしてりゃ調子に乗りやがって、もう一度言うぞ二度はねぇ、その汚ねぇ面を無様に隠して消えろ」
くそ、不良は苦手だ、眼力凄いし、何より俺、人と目を会わせると涙出てくるから、不得意科目なんだよ、不良との会話。
立ち位置的には少女と不良の間に立ちはだかるみたいな感じなんだが。どうしたものか。俺の武器は極振りした速さ。そしてこの握った右拳。この手を開いてはいけない、何故なら流れ出してしまうから。
なんだ?こいつらの周り全員男じゃん。非リア充か?穢れた魂の奴には女性アバターにならないのか?
「いつまで黙り決め込むつもりだ?なんとか言ったらどうだ?おらぁ!」
……とそんなことを言われ顔に1発。横から腹に2発の攻撃。
……を確りと避けちゃいます。
そこで複雑そうな顔をした男のパートナーアバターっぽい奴が後ろに回り込んでいて背中を蹴られる所を体を捻り、かわす。
その間に俺に向かってくるのはラリアット。しかもダブル。半径85㎝か、狭い、狭すぎるぞ!!
ラリアットの腕を掻い潜り、すれ違いざまに足払い。
ズザァ!!と相手が倒れる音がする。倒れたようだ。しかし、問題がある。
足が痛い!!折れるんじゃないかってぐらいの激痛だ!奴等の足は強化骨格で出来ているのかも知れないな!
しかし俺ってこんな貧弱だったっけ?
そして痛みに悶えている間に最初に頭を攻撃してきた奴に殴られるアッパーかな?その場所、水月。
効果は抜群だ~!
ガハッ!!っと1発。胃液をリリース。それでも拳は開かない!!そこに痺れ……ないわ。無いわ、うん。
膝を地につけ俺は何を思うのか……
そんな馬鹿なことを考えていると顔になんかベチャァって付いた。唾だ、汚ないし臭い。なにこればっちい。
ゲラゲラと笑い声が聞こえる。
汚ね顔も少しはましになったんじゃねぇか? とそんな声も聞こえる。
煩いな、ガンガン頭に響くんだよ。馬鹿でかい声出しやがって。
男が一人こっちに来た、俺はフラッとしながら立ち上がる。残りの四人は後ろでニヤニヤしている。
例の少女は俺の後ろでまだ動けないでいる。
この立ち位置キープするの存外キツい。
しかし、ここで反撃の狼煙をあげてもいい頃だろう。目の前には完全になめ腐ってる男。
男は余裕ぶっこいてる為か力任せのストレートを俺の顔面目掛けて打ってきた。
しかし、殴ってくるだろうなと予測していた俺は僅かに首を動かし、紙一重で避ける。そこですかさず封印していた右の握りこぶしを解放する。
「喰らえ!必殺!サンドスウェット!!」
何て事はない。靴ひもを結んだ時からこの砂を握り続けてきたんだ。汗も染み込んでる。その砂を奴の顔、主に目の辺りに擦り付けてやっただけさ。
「ぐぁぁあ!!目がぁ!目がぁぁあ!!!」
ふん、ざまあ見やがれ!
そこで俺奴の頭を鷲掴みにする。
みなさん。俺のスキルを覚えているだろうか。
職業スキル:【識別変化】掴んだもの、触ったものの、識別を一定時間詐称する。
それと
特殊スキル: 【ダストシュート】ゴミはゴミ箱に、ダスト・トゥ・ダスト☆
これを!
つまり、俺の作戦は、【識別変化】でこの目の前の奴の種別を《ゴミ》にする。
そして【ダストシュート】これはゴミをゴミ箱に入れるスキルと見た。
そして隣には公園。そしてゴミ箱!!!
エンディングが見えた!!!
「止めだぁぁあ!!!」
そして思いっきり投げ飛ば……
「ふざけるなぁぁ!!!」
「ひでぶ!!?」
……せなかった。
そして、場違いにも思い出すのはあの有名な台詞。
『ぶきは そうびないと いみがないぞ!!』
やっちまった!!スキルはそうびないとダメなのか!!
後悔を胸に、激しく後ろにぶっ飛んだ俺は、壁にぶつかり仲良く少女の隣に不時着する。
そして、少女と目が合う。
そして、やっと俺は気付いたんだ。
そう、とても大切なことに。
「三十六計なんちゃららってな!」
俺は少女をおんぶして全力で逃げ出した。
別に袋小路って訳じゃねぇし。まともに戦う方がおかしいんだよ。レベル上げて出直します!
結果、五分で撒けました(笑)