虚像
君が最後に僕を抱いたのは、いつだったろうか。
僕にはそれが、どうしても思い出せない。
(……今日も来なかった)
一人暮らしの若者には丁度良い、古ぼけたアパートの一室に敷かれた布団。君とまぐわうのはいつもこの場所だった。
寒々とした部屋の中、僕は静かに身を横たえる。くたびれた布団は、ホテルに置いてある豪華なベッドとは比べものにならないけれど、僕は君に初めて抱いて貰ったこの場所が一番好きだ。
君の腕が、僕を抱く。
君の指が、僕に触れる。
君の唇が、僕を包み込む。
そして――
暗闇しかない僕にとって、君は僕の全てだった。
君に抱かれているときだけ、僕は生きていられた。
それなのに。
(君は……どこへ行ったの?)
気がついたときには、隣に君がいなかった。
いつの間にか、君が消えていた。
残されたのは、君の温もりの記憶と、この布団だけ。
(……最後に君に抱かれたのは、いつだったろう)
冷たい布団の中で、君の熱い身体を思い出す。
僕は一人、呼吸を止めた。
初めまして、こんにちはこんばんは。
もね太です。
閲覧頂き、ありがとうございました。
こちらは、某友人から「いっしょにねる」をお題に何か書いてと言われたのでやってみました。お題提供、ありがとうございます。
いっしょにね……てないわけじゃありませんよね?(笑
書きながら、田山花袋の「蒲団」を思い出しました。挫折したから読み直したい←