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プリンストンの戦い

 トレントンでの勝利の後、一度態勢を立て直した僕達は、トレントンに陣を張っていた。

 そんな時、敵の様子を探っていた斥候が、ある報告をした。


 ――コーンウォリス将軍の部隊が、トレントンに攻めるつもりだ――。


 コーンウォリス将軍は、確かニューヨークに滞在していたはずだ。しかも、隣町のプリンストンにもイギリス軍の部隊がいる。

 つまり、このままでは挟撃され、やられてしまう。

 そう考えていると、ワシントン司令から呼び出しを受けた。

「来たか、エアハート大尉。早速だが、この状況、どう打開する?」

 やはり、司令もこのことについて頭を悩ませているようだ。助けになりたいが、具体的なプランはまだ出ていない。

 だが、指標となる考えならある。それだけで勘弁してもらおう。

「作戦の方針となる物しか出来ていませんが、よろしいでしょうか?」

「構わん。続けてくれ」

「孫子の兵法によれば、敵が準備を整えて攻めてきた場合、『感づかれないように、考えつかない道を通り、考えつかないような手立てで攻める』のがよいそうです。まあ、『兵は詭道なり』の一種だと思いますが」

「考えつかない方法で、か……」

 司令は少し考えると、こう宣言した。

「よし、今夜中に陣を引き払う。陣はそのままにしておき、明かりを灯し続けろ。その間に、プリンストンを攻略する!」

 なるほど、空っぽの陣は囮。コーンウォリスをだましてトレントンに釘づけにし、その隙にプリンストンの部隊を駆逐するのか。まさか、こちらは攻められる側なのに攻めてくるなんて、誰も想像できないだろうから。

「その作戦の方が、勝算は十分あるでしょうね。では、すぐに部隊中に触れまわりましょう」




 一七七七年一月二日夜、大陸軍は陣と明かりを残し、プリンストンに急行した。


 プリンストンに近付くと、僕は望遠鏡でプリンストンの様子を観察した。

「なるほど……まだ敵はこちらに気づいていないな……。司令、仕掛けるなら今です」

「わかった。では……」

 司令は、馬上で剣を抜くと、その剣を空に掲げ、そして叫んだ。

「全軍、突撃! 私に続け!!」

 なんと、司令自ら先頭に立ち、プリンストンへ駆けていったのだ!

 それに呼応し、士気を上げまくって突撃を敢行する兵士達。今まで見たことのないテンションの上がり方だ。

 司令、なんとしても勝ちたいんだな。というか、勝たないと独立の気運が下がり、色々とヤバくなる。そう考えれば、司令のあの行動も、適切なものだといえる。

 だったら、僕はそれを成功させるため、別の手を打っておきますか。




「敵は?」

「この大学構内に逃げ込みましたよ。まあ、すぐにでも降伏してほしいところですけれどね」

 市街戦に敗北したイギリス兵達は、ここプリンストン大学の構内に立てこもっているのだ。

 僕達はそれを包囲しているわけだが、ハッキリ言って、さっさと終わってほしい。っていうか、終わらないとまずい。

 トレントンの罠だって、いつまでだませるかわからない。もしかしたら、もう見破られているかもしれない。

 そうなったら、敵援軍の襲撃を受ける可能性だってある。だから、さっさと降伏してほしい。

 そう思っていた時だった。一人の兵士が、報告にやってきたのだった。

「申し上げます! コーンウォリス将軍の部隊、ニューブランズウィックへ向かった模様!」

 よし、打っておいた手が、成功した!

「大尉、何かしたのか?」

「そうです、司令。あれだけの罠では、少々不安だったものですから。偽の伝令を仕立て上げ、ニューブランズウィックの主要補給庫が攻撃されていると伝えたんですよ。引っ掛かってくれるかどうかは半々でしたけど」

「そうか。なら、勧告もやりやすくなるな」

 そして、司令は講堂に向かい、宣言した。

「大学構内に立てこもっているイギリス兵諸君らに告ぐ! ニューヨークからの援軍は来ない! ニューブランズウィック防衛を優先したのだ。このまま待っていても、食料が尽きて緩やかな破滅を迎えるのが関の山。おとなしく降伏することをお勧めする」

 しばらくすると、立てこもっていたイギリス兵が降伏した。


 こうして、プリンストンでの戦闘は、幕を閉じた。




 その後、イギリス軍はニュージャージー邦を手放した。どうやら、イギリス兵達が働いた狼藉による、市民の不満が抑えきれなくなったためらしい。

 司令は、本陣をニューヨークに程近いモリスタウンに構えた。ニューヨーク奪還に意欲を示しているようだ。


 だが、それがかなうことはなかった――。





















~その頃~




「くそっ、またしてやられたか!」

 コーンウォリス将軍は、かなり悔しがっていた。

 そりゃそうだ。トレントンに着いたと思ったら、実はもぬけの殻で、そうとは知らずに慎重に攻めていたのだから。

 そのおかげで足止めを食らい、気づけばプリンストンを逆に攻められている始末。しかも、偽の伝令によってプリンストンから遠ざけられ援軍に行けなくなった挙句、前々から行われていたイギリス兵による狼藉のおかげで、要地であるニュージャージーから撤退しなければならなくなりそうだ。

 それにしても、コーンウォリス将軍、作戦前はかなり紳士的だったのに、悔しがっている姿はそれを微塵も感じさせない。あれが本性なのだろうか?




 ニューヨークに戻ると、ハウ将軍がある情報を話した。

「コーンウォリス将軍、キャヴェンディッシュ大尉、どうやらバーゴイン将軍が大々的な作戦をイギリス議会に承認させたようだ」

 大々的な作戦? それは一体どのような……?

「バーゴイン将軍は、ケベックからニューヨークまでの各地を攻め、大陸北東部を分断しようという大遠征計画を実行しようとしているらしい」

 ケベックからニューヨーク? 壮大すぎて頭がついて行けん……。

「……失礼ですが、ハウ将軍。私は、とても成功するとは思えないのですが……」

「そう思うかね、大尉? 実は、私も同意見だ」

 驚いたことに、ハウ将軍は私と同じ考えだった。

「そこでだ、大尉。私は、別の作戦を実行しようと思う」

「別の、作戦……?」

 その作戦とは、一体……?

「フィラデルフィアを攻めようと思う」

 フィラデルフィア……、大陸軍を統括している、大陸会議がある場所か。

 つまり、ハウ将軍は首都を攻める気でいるわけか。

「ハウ将軍のお考えは、よくわかりました。私も、その作戦に喜んで参加いたします」

「このチャールズ・コーンウォリスもです。大陸軍には、煮え湯を飲まされ続けたものですから」

「二人の同意を得られて、私はうれしく思う。だが、その前にワシントンを叩いておかねば、後々に支障が出るかもしれん。まずは、そこから始めようではないか」


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