プロローグ
そこは白い世界だった。
穢れのない、まっさらな白い世界だった。
それ故に、赤い色がどうしようもなく映えた。
それを意図してか、あるいは別の意図があったのか、その世界がその色である理由は知る由もない。
赤。
それは熱の色。温かい色。
しかしその赤が白い世界に広がる度に、一つの熱が奪われる。おぼろげにそれを感じながら、自分自身にもその熱がないことを理解する。
そして奪われた熱にもまた、元々熱などなかったとも。
そこにいる人間は皆、その白色のように冷たい。どれだけ熱の色を広げても、決して温まることのない人間ばかりだ。
そこにいた。
熱を持つことも、凍てつくことも知らないまま、そこにいた。
そうしていつ終わるとも知れない長い時を、ひたすら繰り返し続けた。いや、終わるとか続けとかそういった感覚すらなかったのかもしれない。ただその時その時に命じられたことをする、それだけだった。
冷たい人間と、熱すら持たない人間。
それが自身の知り得る世界の全てだった。それ以外は何も知らなかった。
だからこそ、初めて見た本当の世界はあまりにも鮮烈だった。
厚い雲に覆われた重苦しい空。
延々と広がるガラクタの山。
鼻をつく異臭。
しかしその殺伐とした景色は自身の知るあの世界よりも遥かに色鮮やかで、あの曇り一つない白より遥かに輝いて見えた。
呼吸をするごとに、自身の中で何かが目を覚ましていく。あの世界の空気に比べれば、汚れきった空気に違いない、しかし身体はそれを欲して止まなかった。
その瞬間、目覚めた。
その瞬間、生まれた。
新たな生を受けた、濁りきった混沌とした世界。初めて見たその鮮やかさを、一生忘れることはないだろう。
たとえこの先どんなことがあろうとも、ずっと……




