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最早存在がチート




 街はこのゲームがデスゲームと化した時くらい、騒がしかった。

 この世界じゃNPCも普通の人間のように生活しており、自我もちゃんとある。だから最初らへんは、ただのNPCとして扱う奴らがいて、この世界から少しずつ除け者とされていくことがあったのだが、またそれは別の話。


『この街にいる戦闘職のプレイヤーは、街の広場へ集合してくれ!事態は一刻を争う!』

「だってよアリス。ヘレナ。広場行くか?」

「何故疑問形で?」

「質問に質問で返すなよ。まぁあれだ。なんだかんだで一週間くらい一緒にやってきているわけで、連携とかもこれでやっと出来るようになってきたわけだろ?あっちとは別に動くべきじゃねぇかなと」

「カズマ様。それでは味方識別マーキングをしていない方が出来てしまいませんか?」

「つっても相手はワイバーンだしよ。流石に敵を間違えることはねぇだろ?それより、空見てみろよ」

「え?」


 空は真っ黒な雲に覆われ始めていた。不意にポツリと一つの雫が、ヘレナの頬を濡らした。


「雨だ……」

「まぁ、いや、それは別に良いんだけども。まぁ少し見てようぜ。ヤバくなったら、魔法ぶち込むぞ」

「はい……!」


 眺めていると、黒い雲の間から五体のワイバーンが出てきた。


「ギャウンッ!!」


 一体のワイバーンが吠えると、他の四体のワイバーンが街を囲むように散開した。


「街のギルドはどうするのかね」


 俺達は宿の上に乗っかって、ワイバーンを眺め、動く時を待つ。


「ギャオオオオオオオンッッッ!」


 その一体のワイバーンの放った咆哮からワイバーンと人類の戦いが始まった。




 ある剣士は空にいた。雷や雨、暴風が荒れ狂う中、愛刀・崩閃と共に。


「……」


 剣士は腰を低くし、右手を崩閃の柄に添え、目を閉じた。




 ある魔導士は時計台の上に立っていた。漆黒のマントをはためかせ、その背にある白十字を周囲に見せ付けるかのように。


「さぁ始めよう。死へと続くパーティを!!」


 魔導士は杖を空に向かって構えた。




 ある人間は宿の上に、味方の二人と雑談していた。そして、空と時計台の上にいる人間を眺めていた。


反乱リベリオン軍団アーミーの副隊長ライトと先駆者の集い(自称)のシリウス。どちらも攻略組の一人だな。どんくらいつえーのか、見せてもらいたいな。アリス。ちゃんと見ておけよ。俺が死んだ時の為にもな」

「カズマ様、そんなこと言ってはいけません!」

「すまん。でも、もしもって場合があるんだよ」

「その時は私がそのもしもを打ち破りますから」

「ん。ありがとう」


 ほんとこの子は良い子だなぁ……。とか呑気なこと考えている中、ちゃんと戦闘は続いている。俺が落ち着いているのは、アリスがいるから。ヘレナはビクビクしすぎて非常に可愛らしいので、俺とアリスで手繋いでいる。ちなみに、雨が降っているが、ヘレナの小規模な結界のおかげで濡れることはない。


「あ、落ちたぞ」

「あぁ!!」


 ガシャアンッと家屋を壊しながら一体ワイバーンが落ちた。そこにすかさずシリウスが空から無数の雷撃を撃ち込みまくった。

 そこには見るも無残なワイバーンの死体があった。ん?死体?


「おかしいですね。死んだのなら消えるはずですけど」

「ちょっと見に行くか」

「あの家の人達の安否も心配です」


 ちょっとワイバーンが可哀想とか思ったからでもある。




「あれっ?」

「これはまたなんというか……カズマ様は目を瞑って後ろを見ていて下さいね?」

「はいいいい!!」


 そこには黒焦げたワイバーンでなく。


「た……し……へ……て……」


 ほぼ全裸でワニのような目をした、緑髪の女性がいた。

 人間に擬態したのだろうか。だがちゃんと大事なところを隠しているあたりが忌々し……しっかりしているな。更にちゃんと見ると腕にはコウモリの翼のようなものが生えており、尻の方を見ると、尻尾もある。擬態っつーより擬人化したって感じだな。


「かひゅー……かひゅ……」

「アリス」

「はい」

「アリスさん?!ダメですって、治したら殺されちゃいます!」

「そうなったら、守りますから」


 と言って、瀕死状態の女性人間型ワイバーンを手当てした。




 しばらくしてもう一体ワイバーンが討たれた時、目を覚ました。


「……死んで、ない?」

「感謝しろよー?アリスがいなかったら今頃本当に死んでたんだから」

「……」

「お、おいどうした?」

「私はシュカだ。貴女達は……ここの家の者か?」

「いーや。ただ駆け付けただけの人間とその仲間達って感じだな」

「そうか、では貴方が私の主になるのか」


 そうだな。俺が主に……。


「って何言ってんの!?主?」

「そうです」


 シュカは頷き、肯定する。そして言葉を紡いでいく。


「私達ワイバーンは倒されれば経験値に。生かされれば、その生かした者へ従属するようにと命じられている。それは他の階層で街を襲っているワイバーンも同じだ。だから奴らはここまで出張って来ているのだろう。そして、私は敗れた」

「が、運良く体力が残っていて、運良く俺達に助けられたと」

「そうだ」

「けど、助けたのって俺じゃなくてアリスじゃね?アリスに従属すべきじゃないか?」


 シュカは「いえ」と首を振り、横にいたアリスを見て言った。


「アリス……さんはヴァルキリーですよね?ヴァルキリーがこんなところにいるとは思えませんし、普通に考えれば、貴方か、彼女の主人で、そのパートナーであることが考えられます。この子にはそのリスが付いていますので、必然的にアリスさんは貴方のパートナーであることがわかる」

「ほうほう」

「そして、私はアリスさんをパートナーと言ったが、本来は従属しているはずの関係。順列を付けるのは大丈夫ですが、従者であるアリスさんに、また従者を付けるということは出来ない。結果として、私はアリスさんではなく、アリスさんの主人である貴方様に仕えるのだ」


と最後に土下座をして、上目遣いに俺を見るシュカ。


「長い説明サンクス。じゃあ順列つけるのはおっけーで、アリスをシュカのマスターにするのはダメなんだな?」

「はい」

「んじゃあ早速よろしく。俺はカズマだ。こっちがアリス。こっちがヘレナ。細かい紹介はワイバーン達を助けてからだ!」

「「「え」」」


ん?なんか皆ハモったな。


「いやいやいや。一体だけで満足して下さいよ」

「そんな欲に眩んで助けに走るなんて、カズマ様……見損ないました」

「私は……知りません」


 お、おかしいなぁ。俺はただの善意で助けようとしてるんだけどなぁ。


「勝手に決めんなよ。俺はただこんなイベントの為に殺されるワイバーンが可哀想なだけだよ」

「可哀想……ですか」

「そっ。だから早く行こうぜ」

「それはわかりました。けどカズマさん。どうやってワイバーンを助けるんですか?今回はたまたまシュカさんが生きていただけで、他のワイバーンはどうするんですか?」

「……」


 どうしようか。落っこちたワイバーンをそっこ助けるとして、それをどうやって成し遂げるかだな。シリウスの魔法を凌ぎつつ回復は中々難儀なものがあるな。説明の為に奴らを呼び出したら……。いや、ワイバーンの相手にアリスを……いや、駄目だ。もしものことがあったら俺は……。


「私があの方達に説明してきます!」

「あぁそれがい……って待てぃ!!」


 俺が振り向き、止めにかかると同時、凄まじい速度で跳躍し、あっという間にワイバーンの上まで行った。


「つかそれじゃ落ちるだろ!シュカ!早速だがアリスの元に行って乗せてやれ!」

「はっ」


 シュカは再びワイバーンの姿になるとアリスの元へ飛んだ。


「ぶっ」

「きゃっ」


 その飛翔する際に発せられる風に吹き飛ばされたのは言うまでもない。


「皆さん、聞いて下さい!!」


 アリスがワイバーンの上に着地し、叫んだ。まぁ既にそれに気付いて、ライトとシリウスは手を止めてるんだけど。ついでに言うと、俺達の知らぬ間に二体程落とされていたらしい。


「金色姫だ!!」


 誰かが叫んだ。そこにアリスが笑顔でライトニングを放った。


「次にそれを貴方の口から発せられた場合。本当に消し炭にしますよ」


 その者の隣には真っ黒に焼け焦げた家屋。おい、そこに人がいたらどうするんだよ。


「ご、ごめんなさいいい!!」

「わかれば良いんです。さて話というのは」


 と、アリスが話始めようとした時に一体のワイバーンが待ちきれないとばかりに炎弾を放った。


「アリス!!」

「はぁっ!!」


 俺が叫んだ瞬間、その炎弾は素手で打ち消された。素手で。

 その光景には流石に俺もヘレナも絶句していた。もちろん空中にいるシリウス達も。そして炎弾を放ったワイバーンなんてちょっと引いてすらいる。


「話––––。して良いですか?」


 この時のアリスの笑顔はとても恐ろしいもので、この場の全員がコクコクと頷いた。


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