秋の青さ
お月さまが、きれいですね。
気がついたら。
”君は誰?”
朝7時を回ったくらい。
携帯のアラームが鳴る。
頭がぼうっとしていて、背が縮んだ気分。
皮脂はアルコールを噴霧したように、くらくらする。僕の隣に寝ている人は誰だろう。
”よくねむれた?”
一応聞いてみる。記憶は後からいくらでも脚色される。
「何度か起きたわ。眠れないわね。」
僕はよく眠れた。記憶の糸口をなくしてしまうくらいに。
話をしたら。
君は誰?-彼女はこう言った、それは難しい質問ね―
そう。彼女は人間ではなかった。
人間、つまり人と神との間の存在、それは男だ。
紀元前には女性と男性が存在していた。
この世界の人間は男だけだ。女性は神になった。
紀元前、世界中のシステムが新陳代謝に耐えられなくなり、あっけなく崩壊した。
システムが崩壊しても、人間とその技術はまるで遺跡のように存在し続けた。
崩壊の時、肉体的にも精神的にも強い女性は、人類延命のために遠い宇宙を目指して旅立っていった。
残ったのは、遺跡と人間。そこにはただただ失われる運命にあるものが、細々と、まるで何度も二度寝するかのように、存在していた。
唯一絶対の愛、信仰、救い、それらをもたらすのは神だ。
”神様はいるのかな”
「神様はいない。けれど、私はここにいるわ!」
空を仰げば
薄暗いホテルの一室。ココが一種の休憩宿であることは容易に想像できる。
彼女はアンドロイドかもしれない。
泥酔した僕は、昨日のうちにそういうプログラムを選択して、
目覚めて、二日酔いに耐えなければいけなかった僕に、せめてもの罪滅ぼしをしたのかもしれない。昨日の僕。
ならば、今日一日はこのアンドロイドを好きにすることができるはずだ。
一日中犯しつくしてもいいし、迎え酒を浴びてもいいし、家で膝枕をさせてもいい。
とりあえず、このカビ臭い建物を出ることにする。
「ねえ、」
”なんだい?”
彼女はその白い肌を半分あらわにしながら、半身をこちらへ向ける。
「着替えてもいいかしら?」
”それはつまり”
「風呂場でいいわ。」
つまり着替えの邪魔になるから風呂場へ行けということ。
シャワーでも浴びることにしよう。このアンドロイドの性格タイプは、とても自分勝手で、まるで野生の猫のようだ、いや、ちがう。
飼い猫だ。飼い主や、その周りの環境にあくまでも服従するように見せかけておいて、一切の命令を受け付けない、あの意地の悪い飼い猫だ。
―まるで昔、小説で読んだ女性のようだ―
風に吹かれれば
夏が終わり、地軸の傾きのせいで、そろそろ太陽の熱エネルギーが減少してきた季節。
季節の風は、すっかり湿り気を失い、乾燥した風がコンクリートの上を通り過ぎる。
火をつけた煙草の煙が狼煙のように、まったくもって直線に空へ昇っていく。
「で、どうするの?」
”どうするといってもなぁ”
何も考えていなかった。財布には3千円。
道路をタクシーが走り去る。眠そうに少しよろけて。
追い風が、逆ベクトルを通り抜ける。
「さむっ!」
すかさず彼女が私に抱きつく。
胸の辺り、腕、上腕二頭筋が柔らかい。
そうだ、これは昨夜感じた、乳房の柔らかさだ。
彼女の柔らかさ。しなやかさ、母性。
「なに、変な顔して。」
”とても、コオヒィが飲みたいね”
「私は紅茶!」
出鼻をくじかれた気がする。
あの乳房の感触が、頭を離れない。
欠陥を一つずつ摘まんでいくような、繊細さ。
交響楽の、コントラバスのように。包み込む響き。
コンビニには、まだ温かい飲み物がなかった。
私は彼女の分までお金を払った。
彼女は大事そうに缶を抱え、私が差し伸べようとした手を掴んで、手繰り寄せる。
そうだ、私は今母性に手繰り寄せられている。
冬だ。寒さというなかで、肉体的暖かさと、それよりも精神的ぬくもりを求める、冬。
秋、それは落日の瞬間。
女心と秋の空。
駅に着くまで、手をつないで歩く。
電車に乗るためにきっぷを取り出す。
「それじゃあ、またね。」
”どこへいくんだい?”
「秘密。」
彼女をどういう風にプログラムしたかは、未だに思い出せない。
私は思わずやってきた展開に驚きを隠せない。
まん丸に見開いた眼を瞬きすると、
今まで”彼女”がいた、私の目の前には、一本の羽が落ちている。
きっぷは定期券で、東京の隣まで。
僕の青春はいったいどこで終わったのだろう。
そして、この落日の黄昏に、一体どこまでが自分の時間なのだろう。
白秋。それは時間が流れていく時の言葉。
今のことのはでは、青秋。
天使の絵の具で、未来を塗りつぶせ。
宜しければ感想をば。
この話はフィクションです。




