その怒りを、愛せ
考え続けていると、
どこかで引き返せなくなる瞬間があります。
それは、答えに近づいたというより、
もう元の場所には戻れなくなった、という感覚に近いものです。
この話は、その地点についてです。
(ケインズが華麗にグラスを置いたその時、店の窓際の暗がりに座っていた一人の男が、狂気をはらんだような鋭い眼光でこちらを睨みつけます。巨大な口髭を蓄えたその男、フリードリヒ・ニーチェは、机を激しく叩いて立ち上がりました)
【乱入:フリードリヒ・ニーチェ】
「……反吐が出る!」
「どいつもこいつも、卑屈な『群れ』の理屈ばかり並べおって!」
「経済だの、市場だの、階級だの……」
(吐き捨てるように)
「そんなものは——家畜の道徳だ。」
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(ニーチェは足音を荒らげて君のテーブルに詰め寄り、耳元で低く、しかし突き刺すように囁く)
「いいか、若き表現者よ。」
君がその『丁寧な無能』に腹を立てているのは、
偶然ではない。
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それは——
君の魂が、まだ死んでいない証拠だ。
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あの店員の死んだような微笑。
あの同僚の煮え切らない返答。
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あれこそが——
『末人』だ。
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彼らは燃えない。
壊れない。
だから、変わらない。
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ただ、心地よい『無難さ』という温い泥の中で、
互いに寄りかかり、安心して腐っていく。
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彼らにとって『丁寧さ』とは敬意ではない。
防護服だ。
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傷つかないための。
何も背負わないための。
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だから彼らは、君を怒らせることすらできない。
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ただ——
君の“生”を、ゆっくりと窒息させる。
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(わずかに目を細める)
「君のその『イライラ』……それは何だと思う?」
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それは、
『権力への意志』だ。
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泥の中に沈むことを拒む力。
同じ温度で腐ることを拒む衝動。
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(スクリプトを鷲掴みにし、掲げる)
「書け。」
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もっと残酷に。
もっと高らかに、笑い飛ばせ。
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道徳家どもは言うだろう。
「許せ」と。
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だが私は言う。
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「その怒りを、愛せ。」
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その怒りこそが、君を群れから引き剥がす雷だ。
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君のコメディは、慰めではない。
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鞭であれ。
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末人どもを震え上がらせる、
冷たい鞭であれ。
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憐れみなど捨てろ。
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彼らの無能を、
君の創造性の薪にしろ。
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(わずかに笑う。だが目は笑っていない)
「深淵を覗く時、深淵もまた君を覗いている——」
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だがな、
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それを笑い飛ばせる者だけが、孤独に耐えられる。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
強い言葉は、気持ちよくもあり、危うくもあります。
何かを壊す力は、
同時に自分自身にも向いているからです。
それでも、どこかで一度、
はっきりと言い切らなければならない瞬間があるのかもしれません。
その先に何があるのかは、まだ分かりませんが。




