その不満は、役に立つ
違和感の理由が見えてきたあとでも、
それがすぐに「間違い」だと決まるわけではありません。
むしろ、その違和感そのものが、
何かを動かしている可能性もあります。
この話では、その少し厄介な側面を扱います。
(エンゲルスがスマートに会計を済ませようとしたその時、奥のボックス席から、控えめながらも理路整然とした、スコットランド訛りの落ち着いた声が響きます。アダム・スミスです。彼はティーカップを置き、穏やかな微笑みを浮かべて立ち上がりました)
【乱入:アダム・スミス】
「おやおや、お二方。少々、話を大げさにしすぎではありませんか?」
(軽く肩をすくめる)
「……やあ、若きコメディアン。君のその『イラ立ち』、私には極めて自然で、むしろ健全な市場原理に見えるよ。」
(スミスは椅子を引き、あなたの向かいに座り直します)
「君が店員や同僚に腹を立てる。それは彼らが『不道徳』だからでも、『疎外』されているからでもない。
単に——
『見えざる手』が、彼らのサービスの質を調整しようとしている過程に過ぎないんだ。」
⸻
店員のあの空っぽな褒め言葉を見てごらん。
彼は君を喜ばせたいのではない。
自分の仕事を大過なく終え、給料を得たいだけだ。
そして君も、彼と深い友情を結びたいわけじゃない。
ただ、迅速で正確なサービスを、支払った対価の分だけ受け取りたい。
⸻
「我々が食事を期待するのは、肉屋や酒屋やパン屋の慈悲心に頼るからではなく、彼ら自身の利益に対する関心に頼るからだ」
⸻
君がイラついた理由は単純だよ。
彼が『利益(給料)』のために払うべき
『労力(誠実な接客)』を少し節約した。
つまり——
品質が落ちた。
⸻
欠陥品に腹を立てるのは、消費者として極めて健全な反応だ。
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そしてあの、質問に質問で返す同僚。
彼は情報の市場において、
『情報の非対称性』を利用して、自分の時間という資源を守っているだけだ。
——実に合理的だ。
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(少し微笑む)
「いいかい、君。」
社会を動かすのは、慈悲でも革命でもない。
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不満だ。
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君のような人間が、
「もっとまともに働け」
「もっと分かりやすく喋れ」
と苛立ち、より良い代替を求める。
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その利己心こそが、結果として社会を洗練させる。
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(スミスはあなたのノートを指差す)
「君がそのスクリプトで彼らを風刺する。」
それによって彼らは学ぶ。
「ああ、この振る舞いは損をする」と。
⸻
これもまた——
市場の調整機能だ。
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君の毒舌は、単なる攻撃ではない。
停滞した社会に風を通す、
『公平な観察者』の働きなんだよ。
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(カップを軽く持ち上げる)
「……さて、カール。」
(わずかに笑う)
「ビールを君のツケにするのは自由だが、
その価値に見合うだけの議論を我々に提供してくれないか?」
⸻
「市場原理によれば——」
(ほんの少し間を置く)
「タダ飯ほど高いものはないからね。」
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
不満や違和感は、
できれば持たずに済ませたいものです。
けれど、それがあるからこそ、
変わっていくものも確かに存在します。
それが良い方向かどうかは分かりませんが、
少なくとも「無意味」ではないのかもしれません。




