初めてのお茶会で正論で泣かされた話
アレンと初めて出会ったのは母親と共に参加したお茶会の場だった。
お互いまだ六歳の頃の話である。
どの貴族のお茶会だったかは、正直記憶がおぼろげだ。
けれど同じ年頃の令息令嬢たちが初めて家以外の場所にでる、軽いお披露目の意味があったのだと思う。
私はパープルのドレスを着たかった。
けれどお母様はこの色が一番似合うからとピンクのドレスを着せるから、お茶会に参加した時に他の子のパープルのドレスを見て悲しい気持ちになった。
私だってパープルが着たかったのに。
テーブルに並んだお菓子も紅茶も頂く気分じゃなくて、その子は悪くないのに見るのも嫌になって庭園に抜け出した。
「どうしたんだ」
色とりどりの花に隠れるようにいじけていた私に声をかけてきたのがアレンだった。
浮かない顔をしてお茶会から離れた私を追いかけてきてくれたのだと言う。
「本当はパープルのドレスが着たかったの。でもお母様は私はピンクが似合うからと私の言葉を聞いてくれなかったの」
「それは嫌な気持ちになるな。でもだからといって逃げるのはよくないだろ」
アレンはこの頃から正しいことを言う男の子だった。
けれど幼い私は、初めてのお披露目の場に好きな色を着れなかったことも、自分の気持ちの整理もつかないのに正面から正しいことを言う男の子の言葉に、自分勝手に傷ついてしまった。
「私の気持ちはどうなるの」
ポロポロと流れる涙を手でぬぐう。
私が一番可愛く見えるようにとドレスを選んでくれたお母様にも、張り切って着飾ってくれた侍女たちにも、パープルのドレスを着たあの子にも、自分の嫌な気持ちをぶつけたくなかったから一人になりにきたのに。
一度我慢できなくなったら止めどなく涙は流れてしまう。
そんな私の手を彼は掴んだ。
「擦ると赤くなる」
「うぅ……」
「……なんで泣くんだ」
困ったようにポケットからハンカチを取り出して私の涙を拭いてくれた。
そこで初めて私は彼を見た。
銀色の髪が太陽に当たってキラキラしていた。
髪と同じ銀色の瞳がじっと私を見つめていた。
「君のアプリコット色の髪にそのピンクのドレスはよく似合ってる。君の母上は君の良さをよく分かってる」
「でもパープルも似合うと思う。君の瞳と同じグリーンも、きっと似合うだろう。女子のドレスの良さは俺にはわからないが、俺の持つ面白みもない色より、君の持つ春色はどんな色のドレスも似合うと思う」
慰めようとしてるのだろうか。
でも幼い私は単純なもので、男の子からピンクもパープルも、他の色も似合うと言われて涙は止まったのだった。
けれど私たちがいないと探しに来た侍女が来て、泣いた跡のある私と彼を見てお互いのお母様が呼ばれてしまった。
事情はお母様にバレてしまって、ほんの少し注意されたものの次はパープルのドレスを作ろうと約束してくれた。
そして事情はわかったけれども泣かせた事実はあるからと、彼からお詫びに銀の刺繍が入ったリボンが贈られた。
その時に彼の名前がウィンザー公爵嫡男のアレンということがわかった。
そうして何度か手紙のやりとりを続け、時々アレンとウィンザー公爵夫人がキャンベル侯爵家に遊びに来るようになる。
お互いの家の繋がりを深める意味もあるのだろう。
けれどアレンとは家のことがなくても、気持ちはお互いを向いていた。
「クレアは今、何色が好きだ」
「今は落ち着いた色が好きかな。どうしたの?」
「新しいリボンを贈ろうと思ってる。好きな色じゃないと泣かれるのも嫌だ」
「もう泣かないよ」
「どんな理由でも、俺はもうクレアを泣かせたくない」
婚約してからも、貴族学園に入学してからも、アレンの時間が出来たら開催する不定期のお茶会。
いつまでも出会った頃の話をするアレンの目線が私の髪に向けられてる。
アレンから初めてもらった銀の刺繍のリボンを、未だに大切に使ってることがアレンは気になるらしい。
「アレンが私に似合うと思って選んでくれたのなら何でも嬉しいよ」
「俺も、クレアが丹精込めて作ってくれた刺繍を貰うと嬉しい気持ちになる」
ハンカチやタイに刺繍したものをアレンも長く大切に使っていることを知っている。
貴族は一度表に出したものを再び身につけることを良しとしないのは暗黙のルールのようになっているから、このリボンをつけるのもアレンとのお茶会の場だけ。
アレンも刺繍を施したタイをつけるのはこのお茶会だけというのを私も知ってる。
ふわりと春の風が吹く。
目にゴミが入ったのか、痛みで目を閉じると自然と涙が出る。
「クレア」
ガタッと椅子の音がしたかと思うと大きな手が私の頬を包む。
涙で滲む視界には、真剣な顔で私を見るアレンが私の目を覗き込んでいた。
涙が塵を流したのか異物感がなくなると、アレンは白百合の刺繍が入ったハンカチで私の涙を拭った。
「ゴミが入っただけだよ」
「だとしても、クレアに泣かれると焦る」
私の瞳に傷がないことを確認したアレンの銀色の瞳が、段々熱を帯びたような色気が出てきた。
そのまま彼の長いまつ毛が触れるほど、二人の距離は縮まる。
ゆっくり離れたアレンは椅子に再び座ると少し冷めた紅茶のカップを手にした。
アレンの銀色の髪の隙間から見える耳が赤くなっていた。
それに気付いたら私も、忙しない心臓の音が聞こえないようごまかすように、彼と同じくカップに口つけた。
それが私たちの初めてのキスだった。
気になってた女の子を泣かせてしまって内心ものすごい焦ってたのはアレン本人しか知らない




