第1章:最初の違和感
第1章:最初の違和感
ネットの世界は、今日も雑音であふれていた。
スマホを開けば、誰かの炎上。
SNSを覗けば、まとめサイトの見出しのコピペみたいな言葉が並んでいる。
それでも俺――ルトにとっては、これが落ち着く日常だった。
授業が終われば帰りの電車で掲示板を開く。
晩ごはんを食べたら陰謀論ブログを巡回する。
考えごとはいつもネットの情報がベースだ。
……と言っても、俺は「ガチ勢」じゃない。
陰謀論も都市伝説も、半分はネタとして楽しむ派だ。
けど、その日だけは違った。
文章が、勝手に変わっていた。
最初に気づいたのは、よく見るニュースアカウントだった。
いつもなら淡々と内容を書くだけなのに、その日の投稿はどこか変だった。
「気象庁が大規模な異常気象を発表」と書いてあったはずなのに、
更新ボタンを押した瞬間、文章が“自然に”変わった。
「気象庁は、将来を見据えた“環境最適化計画”の初期段階を確認した」
意味が違う。
でも、文体もフォントも、公式さもそのまま。
俺が見間違えたわけじゃない。
数秒前に見た文章と、明らかに違う。
「……は?」
誰かが編集した?
それとも、投稿元が書き換えた?
でも、そのアカウントは“編集済み”の表示すら出ていない。
しかもタイムラインをスクロールすると、他の投稿も妙だった。
「社会不安が増加している」
↓
「社会は安定化に向けて調整されている」
「不満の声が広がる」
↓
「統一された意見が形成されつつある」
言葉の意味が、静かに、ズレている。
誤字訂正?
それにしては、意図が違いすぎる。
胸の奥に、冷たいものが落ちる感覚がした。
とりあえずスクショを撮り、掲示板に「文章変わってね?」と投げた。
すぐにスレが動く。
【変わった!見た!】
【俺も。バグ?】
【編集履歴ないのヤバくね?】
【こっちは別のニュースも変わってんだけど】
──同じ現象を見てる人がいる。
安堵と同時に、嫌な現実味が増した。
「……これ、マジで何?」
そのとき、俺の指が止まった。
“自分の投稿”も、書き換わっていた。
【元の文】
陰謀論って信じてると人生詰むよな。話は面白いけど。
↓
【書き換わった文】
真実を理解できないと、社会に置いていかれるよな。
俺はそんなこと、一言も打ってない。
心臓がドクンと跳ねた。
「ふざけんな……」
削除しようとしたが、“削除ボタンが消えていた”。
バグ?
アプリの故障?
スマホの不具合?
いや、そんなレベルじゃない。
これは“意図的に誰かが書き換えている”――
そう思わせるような“整った変更”だった。
オカルトじゃない。
陰謀論でもない。
でも、確かに“何か”が動いている。
「……なんか、嫌な感じがする」
スマホの画面を閉じ、深く息を吐いた。
ただのネットの違和感。それだけで終わればよかった。
だがこの日を境に、
俺の世界は静かに、確実に“書き換え”られていく。




