後編
――子供を道具にする。
倫理的におかしいと咎める人は生活がまともなのだろう。もしかしたら、自分なら何でもできると万能感に酔っているのかもしれないが。
守るものがある人間は守るべきものに順位をつけて、優先順位が低いものはいつでも切り捨てられるようにする。
わたくしにとって子供はその順位が低いのだ。
それでも愛はある。三男のシェイドの婚約者が愛らしい少女でシェイドと相性が良かったことに安堵した。
そう、愛らしい少女。――少なくとも美人とか麗しいという雰囲気はなかった。
(良かった……)
今回はこのまま順調でいてくれるといい。
長男の婚約者は綺麗な顔立ちの子だった。
『あいつにはもったいないな』
夫の冗談めかした言葉が冗談に聞こえずに、身の毛もよだった。それ以来、王城で婚約者との交流時も、王族に嫁ぐための礼儀作法中もわざわざ時間を作って会おうとするのがますます危険に感じ、不安になったので補佐官に相談したら補佐官が念のためとある細工を………化粧で綺麗な顔立ちを隠すように伝えて、彼女の家族以外は長男だけ本当の顔を知っている状態にした。
女の子は成長期で顔立ちが変化する。それで納得した夫は長男の婚約者に会おうともしなくなった。
次男はもっと性質が悪かった。
身分と年齢で選ばれた女性は、母親と共に王城に来たが、夫に会うなり。
「陛下。あの時の子です!!」
母親が自分の娘を紹介したのだ。
夫は部下の妻にも手を出していて、認知していない子供が居る可能性にここで初めて気づき、調査をし直したら数人怪しい子供が出てきた。
あくまで怪しいだけで調べる道具は当時はなかった……。
「このままでいてくれれば……」
わたくしの人として当然の願いも、夫は人ではなかったようで聞き入れてくれなかったようだが。
「――妃殿下。お話が」
補佐官の頭が痛いとばかりの報告書。
「どうやら、人ではなかったようです」
報告書には、女漁りがますます過激になり、一部の娘も娘としてではなく【女】として狙っているという密告。
「金色の目を持っていないのなら倫理観に引っ掛からないだろうと言っていると陛下の側近から……」
「……辺境にすぐに逃がしましょう。だから、すんなり褒賞にしたのね」
一度王家から出せば娘扱いしなくてもいいとばかりに。
「それだけではなく……」
…………シェイドの婚約者に忠告しなかったことが仇になった。
「何か対策は?」
「ありませんね。――ああ、そうそう。マルガリッタ王女殿下の支援していた画家の絵が素晴らしいと有名なんですが、カーミラ妃は不満そうに他国の有名絵師から絵を購入したそうです」
「確かに予算申請はあったけど。何をいきなり……」
「鮮やかな色づかいで評判の絵師だそうで」
「……ま、まあ。それは」
自慢しそうね。
「そうですね。あと、わざわざウォッカやラムを取り寄せたとか……」
「我が国では禁止されているでしょう」
「王の妻だからと特別扱いしろと手を回したとか」
妻だからこそ守らないといけないことなのだが、それを理解していないだろう。
そして……。
「新しく手に入れた絵画。この国では輸入禁止の珍しいお酒………陛下を呼ぶ理由になるわね」
ほくそ微笑むさまが容易に想像できる。
本当に――。
(罠に嵌ってくれたわね)
いつも通りの公務に戻り、書類を片付けていると、廊下を慌てたように走る音が届き、ノックもせずに兵士が入ってきたと思ったら、
「大変です!!」
と恐ろしい報告を伝えてきた。
「そ、そんな……そんなのって……」
アルコール濃度が非常に高い酒を飲ませ泥酔させた。カーミラは信じたくないとぶつぶつ呟いている。
「輸入禁止の酒を持ち込むなどと……」
眉を顰め、それを口実に牢に連れて行くように指示する。
お酒のにおいが充満して、熱気の籠もっている部屋。長居したくないほど気持ちが悪くなりそうな悪臭に換気をするように指示する。
泥酔状態の夫……陛下が階段を踏み外して亡くなった。
「そんなの醜聞にしかならないから病気で急死と報告を」
「はっ」
「国葬を終えてすぐに王太子が即位できるように」
「了解しました」
補佐官を含む諸々の職員が動き出す。
(お酒の方だったわね……)
ならば、絵画の方はカーミラに渡しておきましょう。残していてもろくなことにならないでしょうし。
カーミラと言い、陛下と言い権力を得て、その為にするべきことを怠ったわね。
アルコール中毒と絵具の毒。
二重構えだったけど、まさかすんなりうまくいくなんて………。
カーミラ派も今まで王が居たから許されていた諸々は通じないだろう。
第四王女が婚約者である辺境伯子息が竜や魔獣に襲われていても支援が来なかったことで本気でカーミラ派を潰そうとするし、マルガリッタの信者がマルガリッタを不遇に追い込んだ王に思うことがあるだろう。
――それとなく情報を流したらそれぞれカーミラ派の打撃になるように動いていた。
「白アリに国を食い破られるわけにはいかないのよ」
女狂いの国王も贅沢を尽くそうとするカーミラ派も駆除をしないと。
そっと補佐官に視線を送る。
自分の共犯者。
婚約者であった夫に期待しないで、国を守るために尽力していた自分を支えてくれた存在。
視線を交わすだけで互いに言いたいことが伝わる。
金色の目を持っていないというだけで、誰よりも王として国を守れる存在だったのが飼い殺しになってた。
やっと自由に息が出来るようになった気がする。
誰も見ていないのを確認してそっと手を伸ばして相手に触れた。今のわたくしにはそれが精いっぱいだった。
肉体関係はないけど、思い合っていました。




