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汚泥にのまれる覚悟があるので  作者: 高月水都


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1/2

前編

一話にするには話が長くなりそうなので。

 政略結婚に愛を求めない。


 いや、婚約者が出来た時は期待はしていたけど、すぐに失望に変わった。


『まあ、見れた顔だな』

 婚約者との初顔合わせの時の言葉がそれ。すぐに婚約の話を無しにしてほしいと父に告げたが、婚約は解消されなかった。


 わたくしの祖母がとある国の王族だったのが理由で、その国と結びつきを強くしたかったという思惑があり、婚約者自身もこの婚約の重要さを理解していたのだ。


 そこでもう少しおつむが残念だったらなかったことになっていたのにそこら辺は優秀だったようだ。………いや、悪知恵が働いたというべきだったのか。





「待っていてくれ。カーミラ。あの女が子供を二人産んだら、直ぐに迎えに行くから」

「ええ。――待ってます」

 と夜会の途中で逢引しているのを見かけた時の感情は【無】としか言えなかった。


 王族は正室が子供を二人産んだ後は側室も持てる。………または、正室が二年間子どもを孕む様子が見られない場合は側室を持てる。


 前者の理由は正室の子供が正当な王位継承権を持てるように。後者の場合は王家の血が途絶える心配があるため。


 王族の中には愛する人を迎えたいために二年間白い結婚をする者も居たようだが、夫はそれをしなかった。

 

「…………」

 まあ、別にいい。まだ弁えているのだと必死に納得させていたのだが、すぐに失望に変わる。いや、もう何度目かの失望だが心がいつまでも揺さぶられるのは自分がそこまでの極致に至っていないからだろう。


「王妃なんだから。出来るよな」

 二人目の子供が出来たことで安心された先王は玉座を夫に譲り、隠居した。すると、自分の好きなように出来ると思ったのか夫は公務をすべて丸投げして、側室を迎えた。


「やっと、迎えに来れたよ」

「待っていました」

 悲劇の恋人のようなことをしていたと侍女から聞かされた時にわたくしを悪女に仕立て上げたいのかと思ったものだ。


 側室になったカーミラは自分こそが夫の寵愛を受けていると暇さえあればマウントを取ってくる。

「暇があるのが羨ましい……」

 夫がすべき公務を丸投げされている立場では、嫉妬とかをしてもらいたいのだろうけど、そこまでの気が回っていない。いや、嫉妬するほど愛はないのだ。


「そうですね。暇……休暇が欲しい……」

 補佐官が同じように疲れた顔をして呟く。


 そんな日々の中でカミーラが妊娠したら欲求不満だったのか、またわたくしの寝所を尋ねに来て、カーミラの妊娠が発覚した数か月後にわたくしの妊娠した。


 すると、正室も側室も手が出せないからかまた別の側室を城に招くようになった。


 その事実を知ったカーミラが暴れているとか報告があったが、侍女たちの怪我を確認して後は放置する。なんで側室のアフターフォローまでしないといけないのだ。こちらも妊娠中なのに、夫の放置している公務に日々追われている現状で。


「いつもお疲れさまです」

 身体によい……妊娠中の時にリラックスできるお茶ですと補佐官が渡してくれるものに感謝して口に運ぶ。


「いつもありがとう」

「いえ……」

 柔らかく、だけど困ったように微笑む補佐官。


「本当は産休に入ってもらってゆっくり休んでもらいたいのですが……」

 それが出来ない申し訳なさがありましてと言葉を濁されて告げられる。


 目の前には王の印待ちの書類たち。王族ならば大丈夫なものもあるのでわたくしでも……同じく王族である補佐官でもよかったのは幸いだ。


 金色の目を持っていないというだけで身分があやふやで縛り付けられている立場だが、わたくしにとっては信頼できる存在だ。


 そう――。共犯者として。





「………白アリが暴れて大変なのよね」

「――シロアリは早めに駆除しないといけませんね」

「ええ。――でも、殺虫剤がなかなか手に入らないのよ」

 困ったわねと含んだ言葉を彼は理解している。


 補佐官が視線をドアに向ける。

「ああ。そう言えば、出産のお祝いに絵でも贈りましょうか?」

「絵?」

「はい。――綺麗な絵を描く画家がいて、()()()()()を出す。()()()()()()を使っているモノとかどうでしょうか?」

 鮮やかな色の絵を部屋に飾る……。


「絵で癒されたいのは確かにあるけど、じっくり鑑賞する暇もないでしょうね。ーーそれよりも、出産後はしばらくごたごたしてあなたの負担になるわね。お詫びとして、テキーラでも贈るわ」

「テキーラもいいですけど、それよりもラムとかウォッカですかね。高いので買う勇気がないのですが、くださるのならじっくり楽しみたいですね」

「何を言い出すのかしら。それは我が国では禁止されているでしょう」

「まあ、そうですけど、特別にというのは」

「そんなことさせるわけないでしょう」

 ドアの外でその場から去って行く足音。


「「…………」」

 探るように気配を殺していたのに最後で足音を立てるのは密偵として優秀ではないようだ。


 さて、種が芽吹くのはいつになることか――。


「――フォルテ王妃。御身を大事に」

「………ええ。分かっているわ」

 心配そうに告げてくる補佐官にと強気な笑みを見せた。






 それから約半年後。三人目の王子をわたくしは出産した。

 カーミラの産んだ子供。カーミラ派に対する罠として。


フォルテ王妃と最後に名前が出た。

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