悟さんのプロポーズ
私は自己嫌悪に悶々とした日々を送っていた。
ゲロにまみれて介抱された一回目の時以上の失態を演じてしまった。一回目とて女性として再起不能と思われる大失態だが、二度目のはさらにその上を行くどころか、あれでは準強姦、性犯罪と言われても言い逃れはできない。
そんな時、黒須パイセンから入れ替わり大作戦の結果報告を受けた。
一戦を終えて目隠しを外した時の園長先生の驚きぶりと言ったら、それはもう大変なものだったそうだ。
それでも、開き直ったのか、それとも黒須パイセンのナイスバディに我慢できなくなったのか、ピロシキは二回戦に及んだ。
事が終わって、鉄板の安全日は私であって黒須先生はその限りではないということに思い至り、さらに狼狽したそうだ。
「焦って確認してくる様子がかわいいので、しばらくは生理が遅れていることにしようと思っています」
この二人がうまくいく確率は高くはないだろう。それでもあきらかに一皮むけた感の黒須パイセンをみて、なるほどこういう荒療治もありだなと納得した。彼女が身に着けたしたたかさが少しうらやましくも感じた。
それに比べて、私の気分は、再び深海の奥深く沈んだままだった。ああ、いっそ深海魚にでもなってしまいたいとベッドをごろごろ転がっていた時に、スマホが鳴った。全く持って思いがけないことに、つばさくんパパからだった。
十秒ほどの逡巡の後、ようやくスマホのボタンに触れた。スマホの向こうから、つばさくんパパの声が聞こえてくる。
「あの、すみませんが、もう一度私たちとご飯をご一緒していただけませんか」
その週末、私は、再度平林家を訪問した。
いつも通りの晩餐となったが、私は、食事の最中もつばさくんパパと目をあわせることができなかった。
明らかに様子のおかしい私にはお構いなしに、つばさくんは今までと同じようにはしゃぎまわり、食事が終わるとうとうとしはじめた。
つばさくんを寝かしつけたところで声をかけられた。
「あの、先日のことなんですけど、」
私はとっさに椅子から下りてその場に土下座をした。
「重ね重ね申し訳ありませんでした。十分に反省していますので、どうか警察に通報するのだけは…」
悟さんは私の謝罪を遮ってことばを続けた。
「…そのことなんですけど、花梨先生は、子供を産むのは痛いからいやだとおっしゃいましたよね」
え、そっちですか?
キョトンとする私に、意を決して、悟さんが言葉を紡ぎだす。
「でも、やはり私たちは、つばさの弟か妹が欲しいと思っているんです。それで、その、花梨先生、産んでくれないでしょうか」
深海に沈んでいた私の心が急速浮上を開始した。私はいつもの私を取り戻し、モードは「穴があったら入りたい」から「穴に入れて」に急転換した。
「善は急げと言いますよ。早速今から作りましょう」
私は彼の手を取って寝室に誘い、すやすやと寝息をたてるつばさくんの隣の布団で抱き合った。
私は慣れた手つきで、彼はぎこちない手つきで、お互いの服を一枚ずつ脱がし、彼が上になって身体をつなげた。
テクの方は今一つで、時間も短かったけれど、でも私は快感とは別の種類の安心感のようなものに包まれ、十分に満足していた。
ま、持ち物は悪くないし、長い付き合いになるのだから、テクの方はこれから仕込んでいけばいいかな。
あ、そうだ、紗理奈と美和に祝勝会もやってもらわないとな。これで彼女らとも昔のような親友に戻れそう。
悟さんに腕の中で、私はそんなことを考えていた。