つばさくんのプロポーズ
「あつかましいお願いをしてしまって、どうもすみません」
「いえいえ、とんでもない。元園児の家庭と個人的な付き合いなんて、先生に迷惑と思って遠慮していたんですよ。先生さえよろしいのなら、私たちは大歓迎ですよ」
その週末の二度目の食事会は、落ち込んでささくれだっていた私の気持ちを少なからず癒してくれるものだった。
そして、毎週末のつばさちゃん家通いは、私の新しいルーティンになった。
つばさくんの家にご飯を作りに行くようになって一か月くらい経ったある日、食後に、ちょっとしたサプライズがあった。
つばさくんが突然「花梨先生!」と元気な声を出した。
「ぼくのママになってください」
「こらこら、そんなことを言って花梨先生を困らせてはいけないよ」と言おうとしたつばさくんパパを制して、私はつばさくんに返事をした。
「ホント、うれしい。私もつばさくんのママになりたい!」
「わーい、やったー」とはしゃぐつばさくんに、私は言葉をつづけた。
「でも、そうすると私と一緒に暮らすことになるから、パパと離れ離れになっちゃうよ」
幼いつばさくんは、三人で一緒に暮らせる解決策を思いつかなかった。
「うーん、どうしようかなー」と頭をひねりながらうとうとし始めたつばさくんを寝かしつけ、私はつばさくんパパと対峙した。
「このままだと、私、つばさくんを連れてってしまいますよ」
さあ、つばさくんパパ、いえ、平林悟さん、あなたはどうするんですか。
「でも、私と花梨先生とじゃ、年が違い過ぎて釣り合わないですよね」
「どうしてですか。たった十歳しか違いませんよ」
「それに、ほら、バツイチで子持ちですし」
「私、子どもは欲しいけど、産むのは痛いっていうから嫌だなと思ってました。お腹を傷めずにちうばさくんのママになれるなら、私は願ったりかなったりです」
それでも煮え切らない態度で、自分を卑下し、私と結婚できない理由を並べ立てようとするつばさくんパパこと平林悟さんに、私の頭の中で何かがプツンと音を立てて切れた。
私は、履いていたジーンズを下着ごと脱いだ。
「花梨先生、な、なにを!」
慌てる悟さんをしり目に、私はソファに座る彼の前に膝立ちになり、ベルトを弛めると、力任せに彼のスラックスを押し下げた。
すかさず彼の下着の中に手を入れると、彼のものが徐々に反応を始める。
私の手から逃れようと体をよじって抵抗をしていた彼も、
「身体は正直ですね、悟さんのここ、もうこんなになってますよ」
と言うと、ようやく観念して抵抗を止めた。
私は、彼の下着を膝までずりおろすと、ようや可能な程度に準備ができた彼のものを私の体内に収めた。
私の動きに合わせて、彼が「ひっ、ひっ」と小さく悲しげな声を上げ、やがてうめき声とともに、最後まで少し柔らかいままだった彼のものが私の中で果てた。
やってしまった。
全てが終わってしまったと思った。
言葉もなくゆるゆると衣服を整える彼の様子は、性犯罪の被害者そのものだった。そんな彼を視線のはじっこに感じながら、私は身支度を整えて、無言で彼の家を後にした。