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つばさ父子

 胃の中のものをすべて吐き、熟睡もした私は、昨夜の惨状の割には比較的まともな朝を迎えた。

 

 私の衣服は、洗濯されて風呂場に干されていた。下着まで干されているということは、まさか、もしかして、風呂場で粗相をする以上の失敗をしてしまった可能性もあるのかと背筋が凍る思いであったが、とてもそれを確認する勇気は持てなかった。


 つばさくんパパは介護の仕事をしているそうで、道理で、私の介護もお手の物だったわけだ。ともあれ私は。、私一人をベッドに寝かせ、自分は狭いソファで朝を迎えたつばさくんパパに土下座して謝罪をした。

 

「この上ないご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありませんでした」

「いえいえ、飲んだら吐くのは当たり前ですから、お気になさらずに」

 そんなことはない。普通の女性は吐くまでは飲まない。しかも一人で。


「そんなお気遣いは無用にお願いします。もはや女として二度と立ち直れないレベルの醜態を見せてしまったことは十分に自覚しています。かくなる上はどんなお礼でもさせていただきますので、どうぞ何なりとおっしゃってください」


「やらせろ」と言われたらすぐにでも股を開く覚悟はしていたが、

「そんな、気を使っていただ無くても結構ですよ。当然のことをしたまでですから」とつばさくんパパはあくまで謙虚だ。


 何かさせてくださらないと私の気がすみませんとさらに懇願したところ、「うーん、それでは」と切り出した彼のお願いは、私の予想外のものだった。


「花梨先生は、料理、お得意ですか?」


 つばさくんのお家は父子家庭だ。噂では、つばさくんが生まれて間もなく、奥さんが男を作って逃げたとか。

 園が休みの土日に仕事のシフトが入ることがあって、私を拾ってくれた昨日も遅番の仕事帰りだったそうだ。

 土日に仕事が入ったときは実家の両親のところに預けている。つばさくんは祖母の作る手作り料理がいたくお気に入りで、「パパ、作って」と言われているらしい。


「私はどうも、レトルトや冷凍食品ばっかりで」


 二つ返事で引き受ける以外の選択肢を私は持たなかった。

「お、お安い御用でございます」


  一週間後の週末、私は100グラム千円のステーキ用のお肉をラブホ代相当分購入し。つばさくん宅を訪問した。

「わー、花梨先生だ」「お肉だー」とはしゃぎまわるつばさくんと三人で食卓を囲んだ。香ばしい肉の香りにつばさくんパパのお腹が鳴り、思わず食卓に笑い声が満ちる。

「花梨先生はいける口ですよね」とビールを勧められたが、そのいける口の結果が先週の惨状を招いたのだ。丁寧に辞去した私は、つばさくんパパへのお酌を献身的に務めた。

 

 この程度であの失態がチャラになったとは全く思えなかったが、それでも父子には大いに感謝された。

 大失敗に深海の底に沈んでいた私の気分は、自宅に帰りつくころには、水面近くまで浮上していた。

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