表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/25

【4話】思っているよりも悪い人じゃないのかもしれない


 二人の友達ができてから、一週間が過ぎた。

 ジャックとモルガナの手伝いを、アンバーは毎日行っている。

 

 シェフとメイドの仕事をするのは結構忙しいが、二人が明るいおかげで疲れを感じない。

 感じるのは、やりがいと楽しさだけだった。

 

 

 その日の夕食。

 

 食堂のテーブルに座るアンバーの正面には、リゼリオの姿があった。

 つい先ほど、屋敷に戻ってきていた。

 

(正面に人がいるのって、なんだか変な感覚ね)

 

 リゼリオと一緒に食事を摂るのは、実に一週間ぶりとなる。

 この一週間、正面の席には誰もいないことが当たり前だったので、不思議に思えてしまう。

 

 そんなことを思いながら、アンバーは食事を口に運ぶ。

 

 今日の夕食はサンドイッチ。

 ジャックと一緒に作ったものだ。

 

「うん! 今日のご飯も良い感じに出来たわ!」

「さすがアンバーだぜ!」

「ねぇアンバー。今度私にも料理を教えてよ!」


 席の近くで、ジャックとモルガナが盛り上がっている。


 食事をしながら、二人とワイワイ話す――この一週間、食事の時間はずっとそんな感じで過ごしていた。

 いつもと変わらない日常だ。

 

 しかしリゼリオにとっては、その光景が理解できないらしく、

 

「どういうことだ……」

 

 と、愕然としていた。

 

(一応、経緯を話しておいた方がいいかしらね)

 

 変な真似をするな、と言われている以上、いらない誤解を招きたくない。

 どうして二人と仲良くなったのかを、アンバーは報告することにした。

 

「私は今、ジャックとモルガナの仕事のお手伝いをしているんです。二人とは、そうしているうちに仲良くなりました」

「は? 使用人の仕事を手伝っているだと……君がか?」

「はい。二人のおかげで毎日が充実しています!」


 心からの本心だったので、つい弾んだ声色が出てしまう。

 耳障りな声を出すな! 、なんていう注意が飛んでくるかもしれない。

 

 しかしリゼリオは、それについて無反応。

 不機嫌とはまた違う、深く思案しているような表情をしていた。

 

(……よく分からないけど、とりあえず報告はしたからこれで問題ないわよね)


 リゼリオを無視して、アンバーは夕食の続きを始めた。

 

 

 午後十一時三十分。

 

(そろそろ寝ようかしら)

 

 そんなタイミングで、来訪者がやって来た。

 アンバーの私室に、ノック音が響く。

 

「俺だ。少し話があるのだが、入ってもいいか?」


 ドアの向こうから聞こえたきたのは、重厚な低音。

 リゼリオの声だ。

 

(話って何かしら?)


 予想していなかった来訪者に少し戸惑いつつも、断る理由は特にない。

 やや強張りながらも、どうぞ、と返事をする。

 

 部屋に入ってきたリゼリオは一番に、

 

「なぜあんなことをしたんだ?」


 と聞いてきた。

 

「あんなこと――というのは、私がジャックやモルガナの手伝いをしていることでしょうか?」

「そうだ。理由をずっと考えているのだが、どうにも答えが見えてこない。もう少し詳しく聞かせてくれないか?」


(もしかして、夕食のときからずっと考えているの?)


 夕食からは既に、五時間ほどの時間が経っている。

 どうやらリゼリオという人間は、かなりの生真面目な性格の持ち主らしい。


「私、『暇』というものに慣れていないんです。ですから、ジャックやモルガナに無理を言って、お手伝いをさせてもらっていました」

「暇が耐えられなかった……そういうことか?」

「はい。リゼリオ様の許可なしに勝手なことをしてしまい、申し訳ございませんでした。もしご不快なようでしたら、もういたしません」

「いや、別に不快という訳ではない。ただ、不思議な女――と、そう思っただけだ」

「……そうですか」


 困惑気味に返事をする。


 いったいそれはどういう意味なのだろうか。

 褒められているのか馬鹿にされているのか、よく分からなかった。

 

「使用人の仕事をしたければ、これからも好きにやってくれ。俺にとって不利益な行動をしないのなら、止めるつもりはない」

「ありがとうございます」

「話はそれだけだ。邪魔してすまなかったな」


 リゼリオが背を向ける。

 そのまま歩きだすのかと思いきや、「そうだ」と、口にした。

 

「君の作った夕食だが、中々に美味しかったぞ」


 そう言って、今度こそリゼリオは部屋を出て行った。

 

(まさか、褒められるとはね)


 アンバーに対し、リゼリオは嫌悪感を丸出しにしていたはずだ。

 

 それなのに今は、夕食の出来を褒めてきた。

 裏があるようには思えなかったので、きっと本心だったと思う。

 

 好印象を与えるようなことは何もしていないはずだが、いったいどういう心境の変化だろうか。

 

「それは分からないけど……ふふふ」

 

 一週間前に失礼な態度をとられたことで、リゼリオの心証はかなり悪かった。

 でも、思っているよりも悪い人間じゃないのかもしれない。

 素直にお礼を言ってくれた彼のことを、アンバーはそんな風に思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ