表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/25

【19話】窮地を切り抜けるために ※ベイル視点


「僕を見下しやがって! あんな国、絶対に滅ぼしてやる!!」


 ラーペンド王国へと戻る馬車の中で、ベイルは怒声をまき散らした。


 王太子であるベイルに対し、あの三人は失礼極まりない態度を取ったのだ。

 それは決して、許されることではない。

 

 思い出すだけでも、はらわたが煮えくり返る。

 報いを受けさせなければ気が済まない。

 

 しかし現状では、そうすることは難しかった。

 

 今のラーペンド王国には、戦争をするだけの体力がない――ボールスに言われたそれは、紛れもない事実だった。

 

 降りかかっている災いにより、兵士も多く死んでいる。

 今の兵力は以前の二割ほどにまで減っており、とてもじゃないが戦争できる状態ではない。

 

 悔しいが、ボールスから言われたことを認めざるを得なかった。

 

 見下されても何もできないという状況に、やりきれないイライラが蓄積されていく。

 今すぐそれを解消したくてたまらなくなる。

 

 しかしベイルには今、その方法を考えている余裕はなかった。

 早急にやらなければならいことがあるのだ。

 

(父上になんて報告すればいいんだよ……!)


 アンバーを連れ戻す、という国王の命令を、ベイルは果たすことができなかった。

 しかしながら、失敗した、とありのままを報告することはできない。

 

 そんなことをしたら、国王の信用を大きく損なってしまうだろう。

 そうなれば、王太子の座を失いかねない。

 

 今のポジションを守るためには、事実をありのまま報告してはいけないのだ。

 失敗の責を問われないよう、何らかの対策を考える必要があった。

 

(側近たちに相談するか)


 王子の側近になれるのは、ほんの一握りのエリートのみ。

 多くの競争を勝ち抜いた先に、側近という役職に就けるのだ。

 

 そのため、常人の何倍もの知識を側近は有している。

 窮地を切り抜けるためのアイデアを、彼らであれば知っているかもしれない。

 

「ベイル様。ご相談があります」


 右隣に座っている、大柄の男が話しかけてきた。

 ベイルを警護する護衛兵の集団――護衛団の団長だ。

 

「これより先のルートを変更したいのですが、よろしいでしょうか?」

「は? なんでだよ?」

「山道を通る予定でしたが、雨脚が強まってまいりました。雨中の山道は地面が滑りやすく、大変危険です。遠回りとなってしまいすが、下道を通っていきましょう」


 車窓から外を見てみれば、確かに強めの雨が降っていた。

 大きな雨粒が窓を打ちつけている。


「遠回りって、どれくらい遅れるんだよ?」

「一週間ほどになります」

「はぁ!? 一週間って、そんなにかかるのかよ!」

「はい。しかし、安全を考えれば――」

「却下だ」


 側近たちと対策を考えなければならないベイルは、今は一刻も早く王国へ戻りたかった。

 一週間も無駄な時間を過ごす余裕など、どこにもありはしない。

 

「ルートは変えない。予定通りに山を通って、最速で帰る」

「それは危険です!」

「なに? 僕の決定に反対するの?」

「……いえ。そういう訳では」

「だったら余計なことは言わないでよ。突っかかってこられると、気分悪いからさ」

「…………申し訳ございませんでした」


 聞こえてきた謝罪は、喉から絞り出したようなか細い声をしていた。

 顔が引きつっているところを見るに、納得していないのは明らかだ。

 

(下僕の癖に生意気だな。国に帰ったらすぐ、コイツはクビにしてやる!)

 

 下僕が主人に意見するなどあってはならない。

 不敬な態度を取ればどうなるかというのを、知らしめてやる必要があった。

 

 

 山道に入ってから数時間。

 

 雨脚は先ほどよりもずっと強くなっており、外は土砂降りになっていた。

 

 横殴りの激しい雨が、車体を殴りつけている。

 大きな雷の音も聞こえる。

 

「この雨、かなり危険だぞ」

「団長の言う通り、下道を通った方が良かったんじゃ……」


 車内にいる十人ほどの護衛団員の表情は、全員同じく引きつっていた。

 大きな不安感が、車内に広まっている。


 馬車は今、切り立った崖路を登っている。

 こんなところで滑り落ちでもしたら、大変なことになってしまうだろう。

 

 その状況に、団員たちは恐怖していた。

 好き勝手に、不平不満を口に出している。

 

(無能な下っ端どもが調子に乗りやがって!)


「僕を誰だと思ってるんだ!」

 

 我慢の限界を超えた。

 立場を分からせてやろうと、席を立つ。

 

 そのとき。

 

 馬車が大きく傾いた。

 同時に、宙に放り出されたような浮遊感が襲う。

 それは、致命的な感覚だった。

 

 宙に浮いた馬車は、地面に向けて落下していた。

 地面を滑ったことで道を踏み外し、崖路から落ちてしまったのだ。

 

「クソが! 馬鹿王子の言うことなんて聞くんじゃなかった!!」

「なんとかしろよ無能王子!!」


 護衛団の団員たちから上がる非難の声に、

 

「黙れ黙れ黙れ!!」


 とベイルは叫び散らした。

 

「僕は無能じゃない! お前らみたいな無価値なゴミとは違うんだ!!」



 それが、ベイルの人生最後の言葉となった。

 彼は最期まで周囲を見下し、自分が特別な人間なのだと信じて疑わなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ