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【17話】ベイルとの再開


 アンバー、リゼリオ、ボールス。

 ゲストルームのソファーには、三人が横並びになって座っていた。

 

 その向かいへと、ベイルがやって来た。

 

(あれ? 少し痩せたかしら? それになんだか、疲れた顔をしているわね)

 

 半年前に比べて、ベイルの外見には変化が見られた。

 

 大嫌いなアンバーを婚約破棄したことで、彼の心はスッキリとしたはず。

 てっきり気楽な毎日を過ごしているのかと思ったのだが、そうではないのだろうか。

 

 不思議そうにベイルを見ていると、彼は恨めしそうに睨んできた。

 その恨みはとても深く、アンバーに対し、あからさまな敵意をむき出しにしている。

 

(……いきなりなんなのよ)

 

 会って早々そんなことをされるのは気分が悪い。

 これ以上視線をあわせたくないので、ベイルからサッと視線を外した。

 

「お会いできて光栄です。ボールス国王陛下。ラーペンド王国第一王子、ベイルと申します」

 

 ボールスに向けて、ベイルは深々と頭を下げる。

 

 彼の振る舞いには、いつもの横柄さがなかった。

 

 国王相手に対し失礼な態度を取れば、大きなトラブルに発展してしまう可能性がある。

 トラブルを避けるために、猫を被ることにしたのだろう。

 

 それくらいの頭はあるようだ。

 

「遠いところから、はるばるご苦労様でしたな。さ、お座りください」

「お心遣いをどうも」


 ボールスの対面のソファーに、ベイルが腰を下ろした。

 

 ボールスは口調こそ優しいものの、目が笑っていなかった。

 ベイルの出方を探っているかのような雰囲気だ。

 

 リゼリオはというと、警戒しているような目つきをしている。

 つぶさに視線を動かし、ベイルの一挙手一投足に注意を払っている。


「本来であればお食事の一つでもしたいところ。しかし我が国は現在、深刻な国難を迎えているのです。さっそくですが、本題に入ってもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ」


 ボールスが頷くと、ベイルは来訪の目的――つまりは、アンバーを連れ戻したい理由を話し始めた。


(異常事態が起きたのは私がいなくなったから、か。……そんな噂が流れているのね)


 噂の真偽はよく分からない。

 とりあえず思ったのは、ラーペンド王国民は噂を鵜吞みにしすぎている、ということだった。


「くだらない噂だと思いませんか? 私はそう思います。……ですが我がラーベンド王国は今、藁にも縋りたいような状況でしてね。可能性が少しでもあるなら試してみたいのですよ」

「なるほど。そちらの事情はおおむね理解いたしました」

「ありがとうございます。ではさっそくアンバーを――」

「ですが、その申し出を受け入れることはできませんな」

「…………は?」


 丁寧で腰の低かったベイルの雰囲気が、ガラリと変わった。

 ピリつきながら、怪訝そうにボールスを見る。

 

「今、なんと言いましたか?」

「ですから、アンバーさんの身柄を渡すことはできません。彼女はルータス王国の大切な一員であり、私の甥、リゼリオの妻でもあります。これからもこの国で、ずっと暮らしてもらいます」

「これは僕だけじゃなくて、国王からの要求でもあるんだぞ……! それでもあんたは、断るっていうのか!?」


 思った通りに事が運ばないことにイライラして、取り繕っていた化けの皮が剝がれてしまったのだろう。

 人を見下した横柄な態度は、アンバーにとっては嫌になるくらいに見慣れたものだった。


「誰からの要求であっても、私の意見は変わりません。アンバーさんは、絶対に渡さない」

「……ふ。ふははははは! これはこれは! とんだ愚王もいたもんだ!」


 ゲラゲラゲラ!!

 腹を抱えたベイルの大笑いが、部屋の中に響いていく。

 目の端には涙が溜まっていた。

 

「あんたはラーベンド王国の国王の頼みを断った――つまりそれは、たった今この瞬間から、ルータス王国がラーペンド王国の敵になったということさ! それが何を意味するのか、分からないはずはないよね!」

「戦争でも仕掛けてくるおつもりですか? 争いごとは嫌いですが……そちらがそのつもりであれば仕方ないですね。我が国は、全力で迎えさせていただくとします」


 ボールスの眼光が鋭く光る。

 表情に浮き出ているのは、たっぷりの威厳と恐ろしいまでの冷徹さだけ。

 それはまさしく、『王』の顔だった。

 

 間違っても、冗談で言っている訳ではないのだろう。

 本気で戦争する気でいる。


「馬鹿が! ラーペンド王国の力を知らないのか! そっちの勝ち目なんてある訳ないだろ!」

「お言葉ですが……知恵が足りないのはあなたの方では?」

「な、なんだと! あんた今、僕のことを馬鹿って言ったのか!?」


 立ち上がったベイルは、すぐに訂正しろ! と、大きく吠えた。

 

 しかしボールスは、それを綺麗に無視。

 いっさい謝らないまま、会話を続ける。


「国難を迎えている――あなたは先ほど、そう言いましたよね。つまり今のラーペンド王国には、戦争をするだけの体力がないはずです。そんな状態で戦争を仕掛けてきたところで、結果は見えているでしょう」


 額に青筋を立てたベイルは、強く握った拳をプルプルと震わせる。

 

 しかし、言葉は発さない。

 ボールスの言葉に反論するだけの材料が見当たらないのだろう。


「仮にそちらが万全の状態だとしても、世界最強の兵団を持つ我が国が負けることなど万に一つもありえませんがね」


 ボールスの眼光が、より一層鋭くなる。

 とてつもない威圧感だ。

 

「小僧。ルータス王国の力を、あまり見くびるなよ?」

 

 顔をひきつらせたベイルは、一歩分後ろに後ずさる。


「クソっ! ……おい、アンバー!!」


 今度はアンバーへと視線を向ける。

 ボールスには敵わないと知って、ターゲットを変更するようだ。

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