【10話】気持ちのこもったプレゼント
リゼリオに引っ張られる形で、人でごった返している路上をアンバーは歩いていく。
そんな二人が向かった先とは、ジュエリーショップだった。
(どうしてジュエリーショップなんかに……)
という疑問が浮かぶ。
しかしそれは、店内に入った瞬間、彼方へと吹き飛んだ。
「うわぁ、綺麗……」
どこもかしこもキラキラで、ゴージャスな雰囲気。
きらびやかな光景にうっとりしたアンバーは、感嘆の声を漏らした。
豪華な内装が施されている店内には、宝石を使用したネックレスやイヤリングが飾られていた。
こういった店には今まで入ったことはなかったが、見ているだけでも楽しい気分になれる。
テンションが急上昇していく。
「この店がお気に召したようだな」
「はい! とっても!」
「気に入ったものはあるか?」
「……そうですね」
困惑した顔を、右へ左へキョロキョロと動かしていく。
店内に飾られているアクセサリーは、どれもこれもが素敵だった。
いっそのこと、全部気に入りました! 、と言いたいくらいだが、きっとそういうことではないのだろう。
であれば、どれか一つを選ばなければならない。
そうして、しばらく時間が経過した頃。
(これ……! すごく素敵だわ!)
キョロキョロ店内を見まわしていたアンバーの目に留まったのは、ガラスケースの中にあるアクセサリーだった。
それは、サファイアのネックレス。
トップの部分には、大きなサファイアが飾られていた。
控えめな地金のつくりも相まってか、とてつもない存在感を放っている。
その美しい青の輝きは、気高いリゼリオの瞳を想わせる。
見つけた瞬間、これだ! 、という直感が走った。
素敵なものばかりが飾られている店内で、ようやくお気に入りを見つけることができたのだ。
「そのネックレスでいいんだな。ではさっそく購入してこよう」
「どういうことですか!?」
ビックリしたアンバーは、大きな声を上げてしまう。
お上品な店内にそぐわないマナー違反とも呼べる行為かもしれないが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
「俺からのプレゼントだ」
「そんな……悪いですよ」
アンバーが選んだネックレスには、とてつもない高額な値段がつけられている。
高級品ばかりが飾られているこの店舗の中でも、頭一つ抜けているような値段だった。
つまりは、高級品の中の高級品。
そんなものを買ってもらうというのは、どうにも気が引けてしまう。
「それに、どうして私にプレゼントなんて……」
そもそもとして、リゼリオからプレゼントをもらう理由に心当たりがない。
理由も分からずに、高級なプレゼントを受け取る。
そんなこと、できるはずもなかった。
「疲労がたまっていた俺を心配して、君は癒しの力を使ってくれた。おかげで、仕事を片付けることができた。本当に感謝している」
「感謝の言葉は既にいただいております」
「君への感謝は、それだけではとても足りない」
「私にとっては十分でしたよ」
「これは俺の気持ちの問題だ。どうか頼む。感謝の気持ちを受け取ってくれないだろうか」
真剣な瞳でまっすぐに見つめられる。
そんな視線を真正面から受けては、逆に、断る方が悪いような気がしてしまう。
それに、嬉しい、という気持ちもあった。
リゼリオの真剣さは、感謝の大きさだ。
これまでに癒しの力を使ったことは数えきれないほどあるが、こんなにも感謝されたのは初めてだった。
「ありがとうございます」
真剣なリゼリオの気持ちに、私も正直に応えたい。
そう思ったアンバーは、リゼリオの感謝の気持ちを素直に受け取ることにした。
会計を済ませてきたリゼリオからネックレスを受け取ったアンバーは、
「一生大事にしますね!」
満面の笑みでお礼を言った。
こんなにも気持ちのこもったプレゼントを貰ったのは、生まれて初めてだった。
体の芯から、喜びの気持ちが湧き出る。
その感情をまったく隠すことなく、アンバーは全て表情に出した。
「そ、そうか」
リゼリオが慌てて視線を逸らした。
頬が少し赤くなっているように見える。
もしかしたら、褒められて照れているのかもしれない。




