頭の可笑しい元令嬢のソロライブ
アルルは屋敷を出る所で兵士長に呼び止められた。
村の防衛のために自警団に訓練の協力をしてくれている人物である。
「ダンジョンの調査でお前が自警団のメンバーから選ばれるだろうから渡した方がいいと思ってな」
布に包まれたものを受けとるとずっしりとした重みが伝わってくる。
「これは...」
「お前の戦い方の悩みはそれで解決できると思ってな、相手が魔物なら尚更必要だろう」
アルルは感謝を述べ屋敷を後にした。
そして次の日自警団の調査メンバーから選ばれ出発数日前に兄が帰ってきた。
* * *
アルルの兄、クウガが所属しているクランは大陸でいくつもの功績をあげている。
その活躍は村でもラジオや新聞から知られている。
アルルは兄も調査に加えられないかと相談されていた。
アルルはそれに消極的だった、なぜなら兄の身体は回復系の魔法や回復薬の強制的な治りでの影響でかなりガタがきてる。
兄が家を出たのは10年前、その10年でここまで身体を悪くするのは過酷な戦いを繰り広げてきたんだろうとアルルは思う。
「調査には俺も参加する」
兄にも直接参加して欲しいと言われていたようで兄はそれに了承した。
「でも兄さんの身体、自分で思ってるよりかなり悪くなってるよ。回復系統に頼るような大怪我を負うようなことは避けた方がいいよ」
「まだ身体は持つんだろ?今回の調査ぐらいなら大丈夫だ」
クウガは異世界人ともダンジョンとも関わってきた。
今回のダンジョンが未完成のできたばかりなら危険度はそこまで高くないと思っている。
「アルル用の薬ができたぞ」
現れた大根が喋り出すが大根ではない。
アルルの父は見た目が大根のようなマンドラゴラである。
夫を亡くした母が再婚した結果産まれたのがアルルである。
新しいお父さんよと紹介されたときに幼いクウガは「ええ~...」と思った。
* * *
家にクウガと一緒に車に乗って来た猫族の少女が家に来た、どうやらダンジョン探索に使いそうな道具を渡しに来たようだ。
「ランプさんはダンジョンに行かないの?」
ランプとは猫族の彼女の名前だ。
「猫族は色覚、色が分かりにくいから調査は向きませんわ」
「だがクランにいた時夜目が効くから夜の仕事ではとても使える奴だ」
「お、お兄様!私が夜でとても使えるなんて!でもお兄様なら妄想じゃなくて実際に使って頂いても...」
「クランでの仕事と言っただろ!碌でもない聞き間違いするな!」
「ランプさんが村に住みに来たのってそういうことね...、猫族って環境が変わるのがすごい嫌で冒険者とか旅をするのは嫌うのにどうして冒険者に?」
「こいつの住んでた国はかなり劣悪でな、他種族や異世界人と物も嫌ってる文明の遅れてる独裁国だ。環境の変化を嫌う猫族でも次々逃げ出すような所らしい」
「あの国はほんと最悪ですわ、逃げ出したけどほとんどお金もないし学もなかったので簡単になれると言われてる冒険者になりましたの。でもまさか冒険者が廃れた職業になってるなんて」
この世界は異世界人の手によってほとんど冒険されつくされ、あらゆる問題がもたされた知識によって多く解決されてしまったのだ。異世界人を受け入れなかった国を除いて。そのため冒険者が廃れてる情報が入ってこなかったようだ。
現在では冒険者ギルドは露頭に迷わないため異世界人の知識を取り入れ職業安定所、ハローワークにほぼなってしまっている。元々冒険者ギルドはハローワークのようなもののためそれなりに苦労があったが今は定着している。一般的な職業紹介がほとんどで昔ながらの冒険者業の枠は少ないのが現状だ。
「廃れてるなんて知らずに冒険者の仕事ばかりを受けて続けてたところをお兄様のクランに誘われましたの。有能だと認められたクランにはギルド経由で仕事が直接依頼が来ますし、お金が儲けやすくなると思って入ったのですわ」
現在冒険者の仕事に就くのは過去の冒険者のイメージへの憧れやロマン、まだ発見されてない財宝などを求めて、ダンジョン探索のため、他の仕事に就けない何らかの事情がほとんどだ。
兄であるクウガは冒険者になるのを家族に厨二病的な理由をならべ島を出た。
そういう時期の年齢だから理由に納得されてしまった。
本当の理由は話してはいない。
「そういえばお兄様、調査にあの人が加わるって本当ですか?」
「...ああ本当だ、不安だが調査のためには必要なんだ」
アルルも調査のメンバーのためその会話を聞いて誰だか分かった、あの人だと。
「ランプさん知ってるんですか?この村来たばかりなのに」
「お兄様に村を案内された時出くわしましたわ、強烈な方でした」
* * *
そしてダンジョン調査出発日、集合場所にギャーギャー喚く人物がいた。
「いい!!あたしの鍵開けの技術がなければ調査はまともにできないんだから命かけてでもあたしを守りなさいよ!!あと手に入れたお宝は全部あたしのものなんだからね!!」
調査のための動きやすい服装をしているが彼女は修道女だ。
元貴族で何等かをやらかしこの村に追放された女だ。
知らない人のために言っておくが修道院はゴミ箱ではないので不法投棄をしてはいけない。
「やっと逆転のチャンスが来た!!沢山の財宝と功績の元にここの領主様に会えるチャンスが!!私を見てイケメン領主様はこう思うの!!」
裏声「おや、誰だい?あの美しいお姫様は?」
裏声「あんな美しい清らかな女性が追放されただなんて何かの間違いに決まっている!」
裏声「何!?他の修道女と村人に酷い虐めを受けているだって!!今すぐそいつらを処刑しろ!!」
裏声「残念だったな王太子、お前の彼女への悪行は全部バレた地獄に堕ちるがいい!!」
「そしてあの糞王子は処刑されるまでずっと後悔するの」
汚い裏声「ああ、なんで俺はあんな美しい女神を追放してしまったんだ...。死ぬ前にもう一度だけでもお姿が見たいよぉぉ」
「そして優しい私は一度だけ姿を見せるの!!領主様と一緒に。眼の前で領主様と真実の愛のキスをして本当の愛をわからせてあげた後、領主様との愛のある生活を送るの!!」
この女の名前はグリーン、ただの頭がアレな人である。
領主は彼女が村で問題をお越しシャーロック・ホームズの格好で推理を始めた時に会ったが領主だとは気づかれてはいない。イケメン領主(爽やかな高身長金髪イケメン)は全て彼女の妄想である。
美しいと言っているがそれほどでもない、自信があるのは良いことだが限度をぶち破り過ぎである。
追放も自由になりたい(大金を得て贅沢三昧したい)ために城の宝物庫の鍵を開け忍び込み金銀財宝と貴重な魔道具を売り飛ばしたためだ。
修道女の虐めもサボらずに料理や掃除をするように言われただけである。私に少しでも辛いことをさせるのは虐めだと言う理論である。
村人からの虐めだって相手を平民扱いして命令したり勝手に持ってるものを貰ってあげると言って奪おうとして怒られたことだ。私が貰ってあげるのになんで?理不尽だという気持ちのようだ。
突然の妄想ソロライブに周りの人達は皆ドン引きだ。皆こんなのが参加するなんてという気持ちだが元令嬢でありながら何故か鍵開けの腕が確かなので仕方がないのである。
「絶対こっちの指示通り動けよ、宝箱もこっちがいいと言うまで開けるな」
「ええ、わかったわ」
グリーンは胡散臭い笑顔で返した。
馬車に乗せるが今度はか細い声で何かぶつぶつ言っている。よく聞こえないがどうせ大したこと言ってないだろうと皆思った。
「今までのループはこのためにあったのね、鍵開け学んでおいて正解だったわ」
9章まで書き溜めてます
全12章予定です