ダンジョン(未完成)発見、騒がしい村人とシャーロック・ホームズな領主
アルラウネのアルルの兄クウガが帰ってくる数日前、ピーコロ村にダンジョンを見つけたとの報告がきた。報告者はほぼゴリラの獣人のみが住むゴリラの獣人。ゴリラの獣人はストレスに弱いため他の種族に気を使う多種族との生活や忙しい都会生活を嫌う種族だ。
報告によれば釣りに出かける途中今までない場所に大きな穴が空いておりこの世界の文字の書かれた看板が立っていたと言う。
書かれていた内容は
『ドラゴンのダンジョン(未完成)』
『パーティーは6人まで』
としか書かれてなかったと言う。
この世界ではダンジョンが生まれる経緯は色々あり性質も色々だ、放置しておくと何が起こってからじゃ遅いと思われピーコロ村の村長と領主まで報告が届いた。
その報告を受けた時、領主は村で唯一の道具屋兼喫茶店で店に置いてあるラジオを聴きながらお気に入りのシャーロック・ホームズの格好をしながら推理小説を読んでいた所だ。
報告を聞いた領主は付き人の1人である見習い執事の青年【ワトソン】に会議をするため彼らを集めるように指示をした。
「僕はワトソンじゃありません」
ワトソンはワトソンであることを否定した。
しかしシャーロック・ホームズ気取りの領主は「頼んだよ、ワトソン」と聞く耳を持たない。
「だからワトソンじゃありませんって」
しかし自分をシャーロック・ホームズだと思い込んでる異常者には聞く耳持たれず。
「頼んだよ、ワトソン」と同じこと言うNPCとなっている。
この格好をしてるときの彼には何を言っても無駄である。
もう1人の付き人の高身長の筋肉質の老執事にあきらめろと言う表情を向けられワトソンはため息を吐いた後、村の会議メンバーの収集に向かった。
* * *
「村長さんはいますか?」
「お父さんに用事ですか?今呼んできます」
足に大きな花を咲かせたアルラウネが村長を呼びに行く、その速度は歩くよりも遅い。
村長に告げた後、ワトソンが訪れたのは自警団の屯所だ。
「アルルさんは居ますか?」
今日の訓練が終わって帰ったぞと言われアルルの家に向かう途中、村のパン屋から亀人が投げ飛ばされてきた。
ワトソンは衝撃を流す動きで素手で受け止め流すと地面に置いた。
2人の若者が言い争っている。
「この野郎ぶっ殺してやる!」
「私が買ったんだから私のに決まってるでしょ!」
投げ飛ばされた亀人が起き上がり2人の元に向かい言った。
「ちげえよ!俺が買ったんだ!」
そして罵詈雑言が飛び交い掴み合いが始まり殴り合いが始まろうとしていた。頭の悪そうで民度の低そうな若者達の争いのようだ、どうせ大した理由もない喧嘩だろう。
誰もガラの悪いチンピラのような人間なんかいつまでも見ていたくないだろう。だが不快な連中がわざわざ描写されたのにはちゃんと意味がある。ワトソンがこの物語の主人公、アルルを探しに自警団の屯所を訪れている、つまりこの醜く争い合う連中を自警団員のアルルが華麗に倒すよくある展開だ。
「この前もその前もお前は食べただろ!アルル!!」
「ピザにこの前もその前もない、1つ1つが違うピザなんだよ!私はその1つ1つを大切にしたい!」
「ふざけんな!この頭お花畑!それを寄越せ!」
どうやら争ってる程度の低そうなのが主人公のようだ、残念。主人公が争うならまともな理由ならともかくピザの奪い合いだったらしい。誰か他の自警団の人呼んできて。
「待て、一旦落ち着こう。自警団内での争いは禁止されてるし周りにも迷惑だよ」
どうやら3人とも自警団らしい、まさかこれが自警団の民度なわけがないよな?それにしても流石主人公、冷静になれて提案をし始めたぞ。
「地面に膝や体や手や腕をついたら負け、武器の使用は禁止でいこう。このコインが落ちたら開始」
そしてアルルはピザを近くの机の上に置いた。
荒っぽい提案だがこのまま争い続けるよりはマシだ。
それとルールを決めて解決をしていくのはいい考えだ。
人は野蛮な獣とは違いルールを守り、その中で社会性を守りつつ生きていくものだから。
アルルがコインを指で弾いた。
その瞬間3人はコインが落ちるより前に周りに置いてある樽や椅子等で相手を攻撃し始めた。
そうだ!いいぞ!
結局大事なのは勝つこと、殺るか殺られるかだ!人とはどこまで言っても結局は獣なのだ!
ルールなぞ知ったことか!
攻撃する赤毛の少年にアルラウネは素早い足捌きでの回避をする、アルルの足にはアルラウネでありながら花が生えていない。村長の家にいるアルラウネと違い俊敏な動きだ。
しかし青年もそれに負けじと迫る。
実はこの3人は自警団の若者の中でも1~3を争う実力者である。
「ピザは俺のものだー!」
亀人がアルラウネに向かってタックルすると同時に頭と手足を引っ込める。
アルルは甲羅の体当たりされる瞬間腕から植物のツタを出し攻撃を和らげるが吹き飛ばされる。
吹き飛ばされたアルルは体からツタを生やしパン屋の煙突に絡み付け地面を強く蹴り屋根に絡みつけたツタで体を引っ張り屋根へと登った。
2人は気づく、机の上にピザがないことに。
吹き飛ばされた時に生やしたツタは煙突だけでなくピザにも伸びていたのだ。
そして見せびらかすようにピザを食べた。勝者と敗者を分からせるのは大切な行為なので仕方がない。
「ふざけんなテメェ!!降りてこい!!」
「ピザを人を煽るのに使うなんて最低だぞ!!」
罵倒してる2人だが2人も勝利しピザを得た時に同じようなことをやっている、同レベルなのである。
パン屋から肌も白目部分も黒く角の生えた魔族の女性が店員が出てきて呆れた表情で言う。
「あんた達、いつも奪い合ってるけど仲良く分け合うってできないの?」
「ピザを分け合う?ピザは1人一枚だろ?」
もぐもぐ
「そうだよ【アネット】姉、ピザは1人一枚だよ」
亀人の言葉にアルルは頷く。
「でもあんた達、3枚あっても全部手に入れようと奪い合うじゃん」
ワトソンはいい加減声を掛けることにした。
「アルルさん、会議が開かれるんですぐ来てください」
アルルはピザを頬張りながら頷いた。
* * *
会議に集まったのは領主と執事、兵士の上位が数名、自警団のリーダーと村長、町の唯一の商人の雑貨屋そして各種分野の職人達だ。
領主はホームズの格好をしていない、ちゃんとした格好だ。
アルルの家は村で唯一の薬屋で父がこういった話は苦手なこととアルルの趣味による知識が認められこの場に選ばれている。
ちなみに趣味はピザではない、あくまで好物だ。
領主の口からダンジョンが現れたかもしれないことを告げられ皆驚愕する。
自然発生か?異世界の人間が作ったものか?それとも誰かのイタズラか?
完全に本物だと肯定し金持ちになれる妄想を垂れ流すもの等話の脱線があったが話し合いの結果は腕と信頼の厚い兵士と自警団が組んでの調査結果次第となった。
ダンジョンはダンジョンを形成するコアからなるものがこの世界ではほとんどだ。
だが異世界の人間が絡んでる場合パターンは色々存在する。
ダンジョンの外まで何らかの力が干渉するもの、作った者がダンジョン内でしか行動できないもの、作った者が亡くなると崩壊するものやモンスターがダンジョンから解放され外に溢れだしてくるもの等が実際にあった。
ダンジョンの前に看板があったが自分の手でやったのか外の範囲もダンジョンに含まれてるのか、全ては調査であきらかにできるのか不安に思われた。
会議が終わるとアルルは領主の執務室まで来るよう呼ばれた。
部屋には領主とアルル以外に執事2人とメイドがいた。
「君に見せたいものがある」
何を見せたいのかアルルは部屋に入ったときから気づいていた。
気づいたときからそわそわと興奮が押さえられなかった。
「遂に手に入れたんだパソコンを!」
「おお~!」
アルルの趣味は異世界文化等だ。
そういったのを調べるため個人的に島の外から異世界に関する物や雑誌や取り寄せている。
「こうやって文字を打つことができる!」
領主はマニュアル本を読みながら左右の人差し指で文字を打っていく。
「おお~!」
「打った文章をすぐに紙に印刷できる!」
「おお~!」
スキャナーとプリンターの複合機も入手済みだ。
「紙そのものを読み込んで印刷できる!」
「おお~!」
「紙だけじゃなく顔も読みとって印刷できる!」
「おお~!」
領主の顔が印刷された紙が何枚もでてくる。
「アルルの顔も印刷できるぞ!」
「おお~!
領主に顔をスキャナーに突っ込まれ喜びの声を上げる。
自分の顔が印刷された紙を見て再び喜びの声を上げる。
キャッキャとはしゃいでるなかワトソンが声をかける。
「僕も触ってみていいですか?」
見習い執事は若い好奇心を押さえられなかったようだ。
「止めろ!何をするつもりだ!」
「この子に近寄らないで!」
領主はパソコンの前に立ち塞がりアルルはデスクトップの方を我が子のように抱えた。
驚くワトソンにそりゃそうなるなと思う老執事、ワトソンは不器用なのだ。
食器や調度品をよく落とし、料理は見た目も味も闇属性、領主の趣味の木彫りや木材加工品を壊したことが何度もある。
アルルはお土産に顔を印刷した紙を貰い解散した。
その後テンションの高かった領主は屋敷中に顔が印刷された紙を張るがゴミとしか思われず全てメイドに処分された。
アルルの貰った紙は父にトイレの紙が切れ尻を拭くのに使われることとなった。
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