思わずやったことにまで手応えを求めてはいけません
地下20階で見つけた神殿の中に大扉があった。間違いなく、この大扉の向こうはボス部屋だろう。緊張している訳ではないが、漸くここまで来たんだな、と大きく深呼吸する。……そういえば、今日は他の生徒を見なかったな。オリエンテーション後だから休んでいるのかもしれない。あるいは、地下12階が元に戻るまでは様子見とかだろうか? ……まあ、数日中には戻るらしいし、そこまで気にかけなくてもいいか。そんなことを考えながら大扉を開けようとして止めた。いやいや、この先にボスが居るはずだ。ステータス的にはまだ余裕かもしれないが、油断してはいけない。心構えの問題だ。もう一度深呼吸して頭の中を切り替えてから大扉を開けて中に入ると、金属同士を軽くぶつけ合うような音が響く。
視線を向けると――銀の全身鎧が立っていた。その大きさは俺の倍くらいはあって、筋骨隆々といった体格に、大剣と大盾を持っている。でも、妙な感じがするというか……わかった。重そうに見える見た目の割に、動く音が軽いのだ。まるで中身がないように――。
《――動く鎧ですね。アレから得られるものはありません。さっさと倒すことを推奨します――》
「全適応」さんが興味なさそうに教えてくれる。なるほど。それか! 鎧の魔物か! と思った瞬間、動く鎧が襲いかかってきた。見た目の割にかなり素早い。以前の俺よりも速いと思う。でも、今の俺ほどではない。動く鎧が大剣を振り下ろしてきたので避ける。そのまま動く鎧はナイフでも振るうかのように素早く大剣を振るってきたが、それもすべてかわす。
途中、軽くだがカウンターの拳を放つが大盾で防がれた。まあ、その大盾は受けたところが大きく凹んだのだが……回復するように元に戻ったのには少し驚く。まさか――と飛び込み、振るわれる大剣をかわして動く鎧の大剣を持つ腕を掴み、引き千切るように力を込めて引くと多少の抵抗は感じたものの、二の腕辺りの継ぎ目からすぽっと取り外れたので、そのまま持って下がった。
新たな腕でも生えてくるかと思ったがそうではなく、持ち去った大剣を持つ腕が暴れ出したので放り捨てると、動く鎧本体がその腕を拾い上げて外れたところに引っ付ける。継ぎ目が消えたのでくっ付いたようだ。……ふ~ん。そういう感じね。
………………どうやって倒せばいいんだ。一応、大盾を凹ませることはできるから……。
「ぺしゃんこになるまで叩き潰せばいけるか?」
「!」
動く鎧がビクッと反応した。心なしか震えているようにも見える。あれ? 言葉を理解している? と首を傾げると、ぺしゃんこになってたまるかあ! と言わんばかりに動く鎧が襲いかかってきた。先ほどの攻防で大剣は当たらないと判断したのか、今度は大盾を前に出しての体当たりをしてきたので、飛び上がってかわしたところで動く鎧の頭部が見えたので蹴り飛ばす。
――それがいけなかった。
蹴った足ではない方の足の先が、動く鎧の頭部がなくなってできた穴の縁に引っかかり、バランスを崩して落ちる。まずい。直ぐに体勢を立て直すために動こうとしたが、周囲が暗く、ちょっと狭くて動きづらいのは……もしかして、動く鎧の中に落ちた?
「――! ――!」
動く鎧が激しく動き、その振動が伝わってくる。動揺しているようだが、それは俺も同じだ。位置的に……胴体辺りか? さすがに足の中までは俺の体格的に落ちていないと思う。どうしたものか……力任せに動いて内から破壊していけばいけるかな、と思うのだが、動く鎧は俺が中に居るのが不快なようで、暴れまくっている。それで体勢が整わずに上手く力が入らない。どうにか踏ん張ろうと両手を広げたところで、片方の手に何か硬いものが当たった。鎧の内側ではない気がする。丁度掴めるくらいの大きさなので掴んでみるが……なんだこれ?
不思議に思っていると、何かに体が掴まれ引っ張られる。すると、俺が掴んだ何かはすぽっと取れて、俺はそのまま外に放り出された。外って自由だ。訂正。自由ではない。どうやら、動く鎧が自ら手を突っ込んで、俺を外に取り出したようだ。つまり、俺自身は動く鎧に掴まれたまま。勢い良く投げられたが、空中で上手くバランスを取って体を打ち付けることなく着地する。掴んでいるものを見た。黒に近い濃さの黒紫の石で、魔物の核と呼ばれる魔石だった。……核?
「……あっ!」
と動く鎧を見れば、俺の手の中にある魔石を指差していて、そのまま継ぎ目から分解されたようにバラバラになって床に落ちた。
えっと……これは……倒した、ということでいいのだろうか?
確認の意味を込めて、大剣と大盾も含めて「アイテムボックス」に……入った。倒した認定のようだ。これといった手応えはなかったが……いいか。
そのあとは、ボス部屋の先で転移魔法陣を見つけ、そろそろ帰る時間のような気がしたので、そのまま転移魔法陣を使って地上に戻った。




