よく考えれば問題ではなかったこともある
次の人が来るので教職員たちから離れる。教職員たちも俺に対して特に言うことはないようなので、そのまま次の人の対応を始めた。再び新入生が集まる場の中に紛れて、自分のステータスについて考える。ステータスカードの表示自体は魔力を流さなければ時間経過で消えるので、もう消えている。
ステータスカードに表示されたのは、こんな感じ。
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名前 アルン
種族 人族
HP 62
MP 8
STR 52
VIT 47
INT 25
MND 39
AGI 71
DEX 68
スキル
(全)適応:(現在担当者がこれまで一切の出番がないと不貞寝しているため、一部機能のみ常態化)
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最後――スキル以外は特に気にするようなところはない。
おっちゃんから事前に聞いた説明によると、HPは生命力、MPは魔力量、STRは攻撃力、VITは防御力、INTは魔法攻撃力、MNDは魔法防御力、AGIは素早さ、DEXは器用さ、といったところである。
それと各種数値については体調などによってその時の調子が変わったり、精神状態によってはいつもより力が出せたりと、表示された数字は都度変動するのだが、その振り幅はそこまで大きくないので、平均値と捉えておいた方がいいそうだ。
また、基本的に表示されている数値が「100」を超えているところは、一人前と考えていいらしい。
つまり、俺はどれも一人前ではない、ということで、客観的に見るのであれば……生命力はそこそこ、魔力はほぼなく、魔法は使えないと考えると前に出るしかないが、そこまで頑丈という訳ではなくて、それなりに器用で素早く動く方が合っている……斥候か?
そう決め付けるのは早計だと思うが……まあ、やってみれば向いているかもしれない。
ただ、強くはないから……妹を助けるための素材を集めるのが難しいのは確かである。それでも必ずやり遂げることに変わりはないが。
ただ、問題というか、不思議なのはスキルである。
これは、どう捉えたらいいのかわからない。
―――
スキル
(全)適応:(現在担当者がこれまで一切の出番がないと不貞寝しているため、一部機能のみ常態化)
―――
これを見た教職員は、適応、と言った。他の――()の部分には触れられていない。見えていなかった? 俺だけに見えている? 仮にそうだとして、もし()がなくなった場合だと……「全適応」?
やっぱり意味がわからない。まあ、そもそもスキル関係の知識はないので、「適応」だとしてもどういうスキルなのか知らない。いや、一つだけ判断できる。
これを見た教職員は、「Dでもギリだから、Eクラス」と言った。
おっちゃんの説明によると、エリアスト王立学園の学年クラスはステータスやスキルによって、上からA、B、C、D、Eクラスの五つに分けられる。
ということは、Eクラスは一番下のクラスであり、教職員が言った通りになるのなら、俺はそこに入れられるということだ。
………………。
………………。
それの何が問題なのだろうか?
よくよく考えてみれば、俺は別に高い水準で学びたいとか、いい評価されたい、好成績で卒業したいとか、そういった理由でエリアスト王立学園に入学した訳ではない。妹の魔障を治すために、ここのダンジョンに入りに来たのだ。どのクラスだろうとダンジョンに入れるのなら、Eクラスであろうとも問題ない。………………Eクラスで入れるのだろうか? 一番下ということで入るのは危険だ、命を捨てるつもりか、とかにならないだろうか。今、教職員たちは忙しそうだし、下手に聞いて駄目だった時に目を付けられても困る。あとで、おっちゃんに聞いてみよう。
そうして考えている間に――。
「これで全員だな………………諸君らが本日行うことはこれで終わりとなる。明日、入学式だが、その前にクラス分けの掲示板が用意されているので、そちらを確認するように。それでは、解散。ああ、寮の手続きに向かう者はあちらへ向かうように」
大きくはないが、よく通る声で壮年の男性がそう言うと、まばらに人が減っていく。
学園の出入口へと向かう者も居れば、学園内でこことは違う方へ向かっていく者も居た。学園内の方は寮の手続きだろう。俺は家通いなので、学園の出入口へと向かった。
―――
特に寄り道はせずに真っ直ぐ家に帰る。
「イシス! 大丈夫か!」
「帰って早々にどうしたの? 私は大丈夫だよ」
体調が悪いようには見えない。安心はできないが、とりあえず安堵。
そして、おっちゃんにステータスカードに魔力を流して見せる。
「……『適応』。確か、暑さや寒さといった環境に適応して強くなる、だったか。ステータスカードにステータスを表示させて、スキルの内容を確認したいと念じれば簡潔だが表示されるはずだ」
おっちゃんの言う通りにしてみる。
―――
スキル
(全)適応:自然環境の変化に強くなる(現在担当者がこれまで一切の出番がないと不貞寝しているため、一部機能のみ常態化)
―――
おお。確かに。
「確認できたようだな。その様子だと間違ってなかったようだが……まあ、環境に強くなるのはいいが、一時的に自然環境に強くなる薬が開発されてからは、有用スキルとみなされなくなってしまったな」
おっちゃんはそう口にするが、俺は別のことを思っていた。
あれ? おっちゃんにも()の部分が見えていない?