サイド 一旦消え去り、染まる
エリアスト王立学園。ダンジョン入口がある砦前の開けた場所。広場と言ってもいい場所に、大勢が待機している。教職員だけではなく、冒険者の姿も複数あった。いざという時が起こった時、緊急性が高いと判断されたら救助・救援に向かうためである。
待機している中に、マウマウも居た。表面上は平静を装っているが、内心は受け持つ生徒たちの無事を祈っている。というのも、つい先ほどオリエンテーションから戻ってきたⅮクラスの複数パーティから――地下12階で多くの魔物を相手に戦っている者たちが居て、助けが必要かの声をかけたが要らないと返され、これは直ぐに報告した方がいいと戻って来た――という報告が挙げられたからだ。地下12階はEクラス・男性組が行ったかもしれない場所であり、それに巻き込まれていないかを心配していた。実際は渦中そのものだが、ここではそれを知る術はない。
この報告したⅮクラスの複数パーティというのはアルンたちにやられた赤髪の男性を中心とした複数パーティで、アルンが考えた通り、後は追わずに地上へと戻っていた。それと、あの後直ぐに戻った訳ではない。赤髪の男性自身の戦闘能力はそう高くなく、自分以外のやられた者たちが目覚めるまで待っていたということもあって、ことが起こってからそれなりの時間が経ってからの報告となっていた。
また、アルンたちが無策で地上に戻るのは危険だと判断した通りで、赤髪の男性は既にアルンたちは既に死んだと思っているが、万が一の可能性としてアルンたちが戻って来た場合にどう言いくるめようかも考えていた。以前、サーフェをEクラス入りさせるために金を握らせた教職員がこの場に居るので、それも使う気満々である。
(……俺の勝ちだ。サーフェ。ざまーみろ。ハハハハハッ)
内心で醜悪な笑いを上げる赤髪の男性。
そこに報告を受けて、念のためにと様子を見に行ったレスキューフィンガーの親指がダンジョンから戻ってくる。それに広場に居る大勢が動揺した。その姿に、ではない。レスキューフィンガーは人気者であり、憧れている者も多いのだ。では、何に動揺したかと言えば、四人で入ったはずなのに、親指が一人で戻ってきたから、である。何かあったのでは? と。
「問題ありません。事態は既に鎮静化していました。ただ、想定していたよりも惨状が酷く、他の三人は後片付けのために現場に残っています。それと、戦っていたと思われる者たちは死亡。ただ、損傷が酷くて、どうにか死体を確認できたのは三人。その中に思い当たる人物が一人居たのですが、それが正しいかどうか確認をしてもらいたく、私が担任を呼びに来たのです」
親指が宣言するように言う。少しばかり動揺が広がるが、それだけ。ダンジョンという場所に入っている以上、こういうことは起こり得ることで、実際にこれまで何度かあったことでもあるからだ。合わせて、この宣言を聞いた赤髪の男性の内心の笑みをはさらに醜悪さを増した。
そして、広場に居る担任たちは誰もが自分が受け持つ生徒ではないことを願い、親指の動向に注目する。親指は迷うことなくマウマウの前に立った。
「マウマウ先生、よろしいですか?」
「……つまり、Eクラスの生徒である、と?」
「はい。三人共、Eクラスの生徒です」
マウマウは内心で衝撃を受ける。信じられなかったからだ。何故なら、マウマウはアルンの強さを知っている。地下12階の魔物がいくら集まろうとも、それでどうにかなるとは思えなかった。だからこそ、気付く。親指は先ほど思い当たるのは一人だけと言ったのに、何故全員Eクラスであると今言ったのか。また、死を伝えるにしては、親指から重苦しいものが一切感じられなかった。
――これは何かある、とマウマウは確信する。
「わかりました。行きましょう」
「よろしくお願いします」
親指とマウマウがダンジョンへと向かう。広場に居る者たちは全員二人を見送る。三人が死亡した、ということに誰も疑問は抱かなかった。
―――
転移魔法陣で地下10階へと飛び、親指が先導する形で地下12階に向けて進んでいく。転移魔法陣近くまでアルンたちが来なかったのは、単純にまだ疲れているからだった。親指は道すがらマウマウへ説明を始める。地下12階に着いてから、たくさんの魔物が移動した痕跡を見つけて、その跡を進んでいった先でアルンたちを見つけたこと。同時に、アルンたちから簡潔に説明された、アルンたちの身に起こったことも。その証拠として、「魔淫香」の入った小袋と、魔蜂(異常個体)も見せられていた。説明を受けたマウマウは驚きを隠せない。また、マウマウは「魔淫香」について知っていたため、何故禁止アイテムがここにあるのか疑問であった。
ただ、親指に案内された先で――アルン、サーフェ、ナリの姿を見て、マウマウの中にあった驚きや疑問は一旦消え去り、喜びと安堵に染まる。




