力業では駄目な時だって当然ある
持って帰るために、真っ黒な巨大魔蜂を「アイテムボックス」の中に入れる。これは赤髪の男性がやったことの証拠の一つになると思ったからだ。だから、下手に爆散させないようにSTR全開で叩かなかった。適応したからか、これくらいの力で倒せる、というのがなんとなくわかったので、そうした。まあ、感覚だから絶対大丈夫だと信じない方がいい。今回は上手くいっただけだ。
ともかく、真っ黒な巨大魔蜂は倒した。負傷は大体そのままで、まだ体中が痛むので休みたいところではあるが、残念ながら事態はまだ終わっていない。普通の魔物大暴走であればボス的な中心となる魔物を倒せば、残ったのは散り散りになると聞いたことがあるのだが、生憎とこれは普通ではないのだ。狂った魔物の群れは、前に居るのを圧し潰そうが、後ろから押し潰されようが、未だに洞窟へと殺到して少しずつ進んでいる。
「………………はあ。さて、あともうひと踏ん張りだ」
少しだけ準備運動をして、魔物の群れへと襲いかかった。
―――
………………。
………………。
洞窟内はそう広くないし、奥行きもそこまでないので、直ぐ奥へと辿り着けると思ったが、見通しが甘かった。洞窟内は上から下まで、左から右まで、既に魔物がぎっしり詰まっている。一方を倒して、別の一方を倒している間に、先に倒した方に魔物が追加で突っ込んで詰まる――と悪循環と化していた。まあ、それは倒す速度を上げればいいだけだが、面倒なのは倒した魔物の方だ。それが邪魔な壁となって取り除くと、余計な一手間となっている。中々奥へと進めない。サーフェとナリ、大丈夫だろうか?
一計を案じる必要がある。……横か上から力任せに掘り進むとか、どうだろう? 待てよ。掘り進まなくても、大体狙いを付けて、洞窟横から今の速度全開で突っ込めば、そのまま洞窟の壁とか中で詰まっている魔物を纏めて吹っ飛ばすことができないだろうか?
《――それを行った場合、直上の崖が崩れて埋まりますが?――》
却下で。それは駄目だ。
《――でしたら、適応者が問題としているのは魔物の死体の方ですので、それなら……――》
ああ、なるほど。実行する。まずは洞窟の外に居る魔物を殴り、蹴り倒していくだけではなく、速度に任せて体当たりで纏めて弾き飛ばしていく。相当減らして時間を稼ぐと洞窟へと向かい、殴り、蹴りと倒した魔物を倒した瞬間に「アイテムボックス」へと入れていった。先ほどまでとは違い、確実に速く進んでいく。ただ、洞窟に向かって来ている魔物の気配は数多く感じるので、急いだ方がいいのは間違いない。
そう深くない洞窟で良かった。魔物の群れが再び殺到する前に奥に辿り着く。……辿り、着いたよな? 疑問に思う理由は、たくさんの魔物が圧し潰された形で壁ができているから。多分、この向こうにサーフェとナリが居ると思う。気配で生きているのもわかる。とりあえず、邪魔なので魔物の壁は「アイテムボックス」に入れた。
――瞬間、剣による突きが迫ってきたので避ける。
「おい、こら。いきなり突いてくるな。危ないだろ」
「なっ! ア、アルンなのか?」
驚きの表情を見せるサーフェ。驚いたのは俺の方だ。まさかいきなり突かれることになるなんて……。
「それ以外の何に見える。そもそも、ナリは気配を探るのが上手いし、俺だと言わなかったのか?」
「……言ったな」
サーフェが気まずそうに剣を引き、ナリがそうだと頷く。
「でも、ほら、いきなり魔物の壁が消えたんだぞ! 何事だって反応して攻勢に出るのは仕方ないだろ」
「まあ、その気持ちはわからなくもないが……それは説明してもいいが、後だ。二人共負傷はしていないな? 助かったのは、これのおかげか?」
俺と二人との間にある格子を指し示す。二人はその通りだと頷いた。格子は天井や壁、地面に引っかかっていて、魔物の群れの押し込みから二人を守ったようだ。普通は圧力に耐えられずに壊れるところだが、格子の元は真っ黒な巨大魔蜂の針であるため、それで耐えることができたようだ。洞窟の中に放たれたのを利用したのだろう。
「ああ、特に負傷はしていない。最初は二人で魔物を倒していたんだが、途中でこのまま押し込まれかねないとなった時に、ナリが提案して準備を始めてくれてな。どうにか上手くいったって感じだ」
ギリ危なかったけどな、とサーフェは笑い、俺の姿を上から下まで見てくる。
「そっちは……大丈夫か? アレは倒したのか?」
「見た目以上に酷くはないから大丈夫だ。もちろん、ここにこうして居る以上、アレは倒した」
ほっと安堵したいところだが、まだ終わりではないと、魔物の狂ったような咆哮が聞こえてくる。まだ距離はありそうだが、時間の問題だろう。
「さて、もう少しゆっくりと話したいところだが、魔物はまだ集まってくるようだ。どうする? また押し込まれるかもしれないし、そこで高みの見物でもしておくか?」
「冗談言うな。さっきまでは、お前がアレとの戦いに集中できるように身を守ることを優先していただけだ。アレを倒したのなら戦う。……お前の方が負傷してんだ。なんなら、お前は休んでてもいいんだぞ」
「ここまでやったんだ。最後まで付き合うさ。……ナリもだろ?」
こくりと頷くナリ。そして、格子を壊して出て来た二人と共に、集まってきて群れと化した魔物たちを相手に戦っていく。
………………。
………………。
どれだけの時間戦ったのかわからないが、気が付けば集まる魔物の数が段々と減っていき……集まらなくなるまで戦い抜いた。
俺たち「一年Eクラス・男性組」は「疑似魔物大暴走」を全員無事に乗り超えたのである。




