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見えなかったものが見えるようになると嬉しくなる

 体に力が入る。ただ、前回も気が付いた時にはそうだったが、適応したからといって負傷が治る訳ではない。だから、痛みも引いていない。でも、もう大丈夫! いける! と理解する。


 腕を上げて、齧ろうとしている真っ黒な巨大魔蜂の頭部を掴んで止める。位置的に前腕部分が丁度真っ黒な巨大魔蜂の顎前にあったので齧られるが――。


「……残念。一手遅かったな」


 ただ、前腕が顎に挟まれただけ。真っ黒な巨大魔蜂が驚きを露わにして何度も齧ってくるが、少し齧られることはない。それの間に、もう片方の腕をどうにか上げて真っ黒な巨大魔蜂の腹部を下から掴み――そこを起点に腕を伸ばして体ごと少し下がる。鋭い痛みと共に肩を貫いていた針が抜け、前腕を挟む顎も離れて、俺は落下。地面に着地して、針が刺さっていた部分から血が止めどなく出てくるため、手を当てて押さえる。そのまま――。


「『魔力を糧に 癒しの力に変えて 傷を癒す 回復(ヒール)』」


 回復魔法を使う。高出力という訳ではないので治るということはないが、それでも出血は止まった。合わせて、体中に走る痛みもだいぶ和らぐ。真っ黒な巨大魔蜂に適応した時に少しだけ魔力が増えた感覚があったのだが、本当に増えていて良かった。「……ふう」と一息吐く。


《――魔蜂(異常個体)に適応したことにより、MPが僅かに上昇、VITはより強固となり、AGIは魔蜂(異常個体)を上回りました。また、度重なる飛んでくる針の攻撃を受けた経験により、スキル「投擲」と「刺突」を獲得。残念ですが、飛翔は無理でした。ですが、AGIの強化に伴って跳躍力は飛躍的に上昇しています――》


「全適応」さんが言葉にして教えてくれる。なんとなく実感しているが、言葉にしてくれるとよりはっきり自覚するのでありがたい。ステータス確認は後だ。まずは真っ黒な巨大魔蜂を倒す。


 感覚で魔力がなくなりそうな気がした。本当に僅かしか増えていないのだろう。回復魔法を使うのを止める。結果は出血がなくなったくらいで、大きな負傷はそのままだし、体中の痛みは少し引いたくらいだが、真っ黒な巨大魔蜂を倒すのに支障はない。


 だから――。


「――もう見えてんだよ!」


 真っ黒な巨大魔蜂が俺に突っ込んでくるのを目で追う。先ほどまでは視界に捉えたり反応するのが難しかったが、適応した今だと見えているし、反応もできる。タイミングを合わせて蹴りを放つ。真っ黒な巨大魔蜂は驚いたような動きを見せた後、両前脚を交差して蹴りを受け止めて防ぐ。


 ――甘い。適応してもSTRが上がらなかったのは、単純な力――攻撃力は元より俺の方が上だと証明している。受け止められようが関係ないと力を込めて蹴り抜くと、受け止めていた両前脚をへし折り曲げて、そのまま真っ黒な巨大魔蜂を蹴り飛ばす。受け止められたことで威力が下がったので、仕留めてはいない。


 真っ黒な巨大魔蜂は体ごとくるくると回りながら上空へと上がっていき、途中で大きく羽を広げて勢いを消して空に留まった。


「ギ、ギギ……」


 俺を見る真っ黒な巨大魔蜂には戸惑いがあった。いきなり蹴られたことに困惑して、訳がわからないといった感じだ。そんな真っ黒な巨大魔蜂を指差す。


「……ほら、かかってこいよ」


「ギギ、ギギギギギ!」


 怒りを露わにして、真っ黒な巨大魔蜂は俺の周囲を高速で飛び回り始めた。怒りが力になっているのか、これまで以上に速く、加速していく。そうしてある程度速度が乗ったところで、真っ黒な巨大魔蜂は針を連射してきた。ここにきて連射は初めてだし、適応前であれば真っ黒な巨大魔蜂が加速した段階でまったく見えなくなるか、分身したように見えていて、連射で放たれた針は全方位から同時に迫ってきたように感じていただろう。


 でも、今は違う。適応した今なら加速してもすべて目で追えているし、針も全方位同時ではなく、全方位なのは確かだがしっかりと時間差があるとわかる。なので迫ってきた順に叩き落としていく。まあ、受けても今なら刺さりもしないだろうが。


 ある程度叩き落としたことで、迫る針の数が目に見えて減る。真っ黒な巨大魔蜂をチラリと見れば、限界が訪れたとかではなく、信じられないと動揺して動きが鈍くなっているようだ。今の俺から見れば隙でしかない。迫る針を叩き落としつつ、その途中で針を掴んで、動く真っ黒な巨大魔蜂に狙いを定めて投げる。思っていたよりも狙いが正確で、力が乗ったように感じたのは、得たばかりのスキル「投擲」が働いていると思う。


「――ギ!」


 真っ黒な巨大魔蜂が円を描くような動きで針を避ける。まあ、スキル「投擲」があったとしても確実に当たる訳ではない。でも、それで十分。牽制にはなった。残った針をかわしながら真っ黒な巨大魔蜂に向けて駆ける。危機を感じてか、真っ黒な巨大魔蜂は攻撃を止めて俺から距離を取ろうとするが、今では俺の方が速い。


 直ぐに追い付き、追い越し――。


「ギギギ!」


 真っ黒な巨大魔蜂は上昇して尚も離れようとするが、俺は足に力を入れて跳躍。瞬時に真っ黒な巨大魔蜂よりも高く飛び上がり――。


「さっきまでのお返しだ」


 体を捻って威力を高め、真っ黒な巨大魔蜂を殴り落とす。まともに入った。真っ黒な巨大魔蜂は地面に真っ逆さまに落ちていき、地面に激突すると大きな衝突音と土煙を上げる。俺は地面に着地してから様子を見に行く。近付くまでに土煙は晴れ、地面の上で倒れる真っ黒な巨大魔蜂が目に付く。やったか? とおもったところで真っ黒な巨大魔蜂が起き上がりながら襲いかかってくる。


「もう俺の方が速いんだよ!」


後出しだが振り上げた足が間に合い、今度は蹴り上げる。真っ黒な巨大魔蜂の腹部にまともに入った。勢い良く上空へと上がっていく真っ黒な巨大魔蜂。もう一度、今度は真っ黒な巨大魔蜂よりも高く飛び上がり、両手を握り上げながら力を入れて待ち構える。


「危なかったが――これで、終わりだ!」


 握った両手を勢い良く下ろして、真っ黒な巨大魔蜂に叩き付けた。先ほどよりも強い勢いで落下していき、真っ黒な巨大魔蜂は地面に激しく激突して、爆発したかのような轟音を響かせて土煙を巻き上げる。


 地上に下りて、土煙を払いながら見に行くと、大きく陥没した地面の中心に真っ黒な巨大魔蜂は倒れていて、ピクリとも動いていなかった。生命力のようなものも感じない。真っ黒な巨大魔蜂を倒した、と拳を握って突き上げた。

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飛ぶ能力無いんだから自由落下以上に早く落ちるってどうやる訳?
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