極限状態で考えた時は、いい考えだなって思う
前に出た俺に向けて、真っ黒な巨大魔蜂は腹部の長く鋭い針を飛ばしてくる。その速度は非常に速く、本来ならぎりぎり反応できるといったところだが、今はそれなりに距離が開いていて、外なので見晴らしもいい。
「――よっと!」
避けることは容易だ。でも――。
「――くぅ!」
既に脇腹と太ももの一部が削り取られ、全身も大体痛いという状態なため、避ける動作を取るだけでも痛みは積極的に体中を走る。でも、生き残っている証拠だ。
避ける動作の先で大きな石があったので、掴んで地面から力任せに引き抜き、上空に居る真っ黒な巨大魔蜂に向けて投げる。勢いはあるが、真っ黒な巨大魔蜂はスッと避けて、補充した針を飛ばしてきた。
まあ、避けられるよね。でも、今必要なのは適応するまでの時間なので、避けられてもいいのだ。
飛んできた針を避け、大きな石やそこらに居る狂った魔物を掴んでは投げていく。簡単に避けられて反撃の針が飛んでくるが、距離があるので少しだけ余裕を持って避けて、再度大きな石や狂った魔物を投げる――といった行動を何度か取った。
《――適応率60%を突破――》
ここで問題発生。投擲用魔物の補充が間に合わず、また周囲に手頃な大きな石がない。つまり、投擲できなくなった。
「なるほど。避け続けていたのはこれが狙いか!」
「ギギギ、ギギ?」
「こいつ、馬鹿か? じゃない! くそっ!」
何か投げてやりたいところだが、何もな――待てよ。そうか。俺は近くにある木に向かって飛び、太い枝に着地した後、太い枝の反動を使ってさらに高く飛び上がり、真っ黒な巨大魔蜂に向かって殴りかかる。
「投げ飛ばせるものがなければ自ら飛べばいいだけだ!」
スッと避ける真っ黒な巨大魔蜂。俺の拳は空振った。そのまま落ちていく俺。無事に着地。
《――適応率70%を突破――》
「避けるなよ!」
「ギギッ!」
無茶なことを言っている気はするし、無茶を言うなと言われた気もする。でも、弾き飛ばすでもいいから受け流して欲しかった。痛みは我慢すればいい。でないと、なんかこう今の一連の流れを客観的に見られたら俺が間抜けに見えるのではないかと………………サーフェとナリが洞窟内で良かった。
しかし、これはどうしたものか。空中に留まられると手の出しようがない。まあ、最初から受けに回っているようなものだけれど。いや、待てよ。受けに回っていてもいいのか。現状でも適応率の上昇速度は上がっているのだから、無理に攻める必要はない。針を避けるだけでもいいから時間を稼げば十分――と思ったところで、真っ黒な巨大魔蜂が上空から地上付近まで下りてきた。
……なるほど。上空からの針攻撃では仕留められないと踏んで、直接殺りに来たか。それなら、俺が取る手段は一つ。
「ちょっと作戦を考えるからちょっと時間をください」
「ギッ!」
否定っぽい返事と共に、俺は弾き飛ばされる。目を離していないというのに、これだ。後方にあった木をいくつかへし折って勢いが弱まったところで着地。痛みで意識を失わないように気を強く持ち、駆け出す。離れ過ぎると俺を放って、サーフェとナリが居る洞窟に襲いかかりかねないからだ。
《――適応率80%を突破。適応者はMPが少ないので一度しか使えませんが、回復魔法が使えます。いざという時にお使いください――》
回復魔法? ……ああ、マウマウ先生にかけられた時に適応して取得したヤツか。適応しているので使い方はわかるが、MP的に一回しか使えない上に、そこまで大きく――それこそここから全快するようなのは無理だ。少しばかり回復するだけでもありがたいが、使いどころは悩む。我慢できる内に使っておくか、それとも、本当に危ない時のために取っておくか。
――と使いどころを悩んでいたのが悪かった。既に元の位置――と通り越して洞窟の外に居る魔物の群れの一部に突撃して弾き飛ばした。考え事しながら進むのは良くない。しっかりと前を見ないと。引き返そうとしたところに、真っ黒な巨大魔蜂が突っ込んできて、周囲に居た魔物たちと共に体当たりを食らって空中へと弾き飛ばされる。魔物が緩衝材の役割になったので大したダメージは受けていない。でも、空中は不味い。
《――適応率90%を突破。あと少しです――》
真っ黒な巨大魔蜂はあっという間に俺の前に現れ、縦にくるっと回って勢いを付けた腹部を思いっ切り俺に叩き付ける。一瞬呼吸が止まるほどの衝撃を受けて落ちていく。このまま背中から地面に落ちるのは不味いと身を翻そうとした――時に落ちていく先に真っ黒な巨大魔蜂が回り込んできた。俺が何かをする前に、真っ黒な巨大魔蜂は先ほどと同じ行動を取って、俺を空中へと叩き上げる。背中にもろに食らって骨が折れるかと思った。痛みに耐えていると、再び真っ黒な巨大魔蜂が行き先に回り込んできて、今度は叩き付けるのではなく、針を飛ばさずに突き刺そうとしてくる。狙われたのは頭部。即座に判断して、自分で自分の顔を殴って位置をずらす。普通に痛い。針が頭部に刺さることはなかったが、代わりに肩を貫かれた。激痛が肩から体中に走り、目の前がチカチカして意識を失いそうになる。
――ここで意識を失う訳にはいかない。そもそも、意識を失っても「自動戦闘」があるのでどうにかなると思うが、今回は駄目だ。「自動戦闘」は基本的に迎撃である。たとえ、「自動戦闘」で真っ黒な巨大魔蜂を倒したとしても魔物の群れの方には行かないので、サーフェとナリを見殺しにしてしまう。だから――。
「……『……魔力を……癒し……傷を……』」
失いそうな意識でまともな詠唱はできなかったが、それでもどうにか魔法が発動して痛みが少し和らぐ。それで少しだけ意識がはっきりして――。
「……マジか」
真っ黒な巨大魔蜂が顎を大きく開き、俺の頭部を齧ろうとしているのが見えた。多分、一齧りだろう。意味があるか怪しいが、腕を上げて防ごうとした時に――。
《――適応率100%。魔蜂(異常個体)に適応しました――》
と聞こえた。




