どの道そうなるのなら、有効活用したっていいじゃない
「全適応」さんから明らかな情報過多を聞かされる。それについてはあとでマウマウ先生か学園長に丸投げしておけば大丈夫だろう。俺がどうこうできるものではない。する気もない。そもそも、貴族とか他国とか、その手下よりも妹が優先なので。情報過多については一旦置いておいて、今はそのあとに告げられた不穏なことの方だ。
――異常個体。
もう言葉からして不穏な存在である。そんな不穏な存在がこれから現れるかもしれない、というか、既に現れそうな兆候が見える。魔物の群れの奥の方の上空に、黒い靄が集まり続けていた。魔物もまだ集まってきているし、サーフェに迫ろうともしている状況で、そんなのまで……これから更に厳しくなるかもしれない。
《――あともう少し。待った甲斐があります――》
………………。
………………。
待った、甲斐が、あります? 「全適応」さん?
《――おっと……ぷひゅ~……ぷひ~……――》
うん、いや、誤魔化し方下手か! というか、なんだって異常個体なんてのが生まれるのを待つんだ? そうなる前にそうしないように「全適応」さんならできそう……待てよ。異常個体? つまり、異常に強いか、何かしらの異常な能力を持っている可能性が高い………………もしかして、それで適応して、俺のステータスを上げるなり、何かしらの有用なスキルを得ようとしている?
《――さすがは適応者。私の考えに直ぐ適応しましたね――》
いや、この状況ですること?
《――これは仕方ないのです。何にしても異常個体は生まれていました。なら、それを糧にした方が、結果的に「疑似魔物大暴走」にも対応できて、より安全に乗り切ることができるのです――》
……一理あるか。今より強くなった方がサーフェを守りやすくなるのは間違いない。
《――あっ、ちなみに「疑似魔物大暴走」の方は適応しましたが、狂っているだけで大したのが居なかったため、特に特筆すべきことはありません――》
今それを言われると納得から疑惑に傾きそうになるんだけど。まあ、「全適応」さんが俺の不利益になるようなことはしないと思うけどさ。
《――その通りですが、ここは感謝の言葉を送らせていただきます。ありがとうございます。あっ、生まれますよ。これは……適応者と何かしらの縁があるのでしょうか?――》
縁? と思っていると、魔物の群れの奥の方の上空に集まっていた黒い靄が一つの形を作っていく。それは……魔蜂? それは、離れていてもわかる巨大さ。多分、俺よりもでかい。形は魔蜂そのままだが、体、羽、腹部の先から飛び出している長く鋭い針まで、すべてが真っ黒だ。見ているだけで体がゾワッとする。異常個体。納得だ。
――瞬間。真っ黒な巨大魔蜂が目の前に居て、俺に針を刺そうとしていた。目を離した訳じゃない。しっかりと見ていた。魔物を倒しつつも意識は向けていた。それなのに、一瞬で距離を詰めてきたのが見えず、反応できなかったのは間違いない。
「くっ!」
真っ黒な巨大魔蜂の針は俺の心臓を狙っていた。体に合わせて針もでかく、手のひらくらいあるな、なんてことを馬鹿みたいに思ってしまう。この一撃で俺を殺すつもりのようだ。VITで防げるとは思えない。全力で回避する。
体ごと横に逸れる――が間に合わずに真っ黒な巨大魔蜂の針は俺の脇腹を少しばかり削り取りながら貫通した。どうにか助かった、と思うのは早いと、真っ黒な巨大魔蜂はそのまま体当たりしてきて俺は吹き飛ばされる。二度ほど何かに当たってから地面に倒れた。直ぐに立つ。削り取られた脇腹と体当たりされた体の各所から激しい痛みが走って泣きそうになるが我慢。
周囲を見ると、直ぐそこにサーフェとナリが居た。サーフェが心配そうに声をかけてくる。
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫だ! 二人が居るってことは洞窟の中か?」
「あ、ああ。洞窟入口横の壁とそこの壁に勢い良くぶつかりながら、そこに倒れたんだ」
サーフェが指差す方を見ると、確かに俺が当たったと思われる壁の一部がひび割れている。壁に当たったことによる痛みはないと思うが……ヤバいな、これ。真っ黒な巨大魔蜂の動きは捉えられず、その攻撃力は俺のVITを優に超えているとか……適応すればどうにかなると思うが、適応するまでの時間も相応にかかりそうだ。
《――現在、魔蜂(異常個体)に適応中……10%突破……11、12……――》
適応するまで生きていられるだろうか、俺……ん? あれ?
「ガガガギギギ……」
真っ黒な巨大魔蜂が洞窟入口で飛んだまま入って来ない。多分、真っ黒な巨大魔蜂が大き過ぎるからだ。洞窟内にぎりぎり入って来れる程度なので、中に入ればまともに飛べなくなるのがわかっているようだ。だから、入って来ない。そんな判断ができるってことは、真っ黒な巨大魔蜂狂っていない? 異常個体だからか? まあ、何にしても、真っ黒な巨大魔蜂が洞窟入口を塞いでいるようなものなので、魔物の群れが入って来れなくなっている。……いけるか、これ?
「なんだ、あの馬鹿でかい魔蜂は? 魔蜂でいいんだよな? というか、アレが居るせいで魔物が入って来れなくなっていないか?」
サーフェもそのことに気付いたようだ。これ、もう大丈夫なんじゃ? と顔を見合わせる。
「……危ない」
ナリが指差す。視線を向ければ、真っ黒な巨大魔蜂の腹部は膨らみ――針が射出された。どうにか軌道が見え、狙われたのはサーフェ。反応が間に合っていないサーフェを突き飛ばして回避させるが、代わりに突き飛ばした俺の腕の一部が削り取られて痛みが走る。
「ぐっ! だが、これで!」
射出してくるとは驚いたが、同時に針を失ったことは大きい――と思って真っ黒な巨大魔蜂を見れば、シャキン! と腹部から新たな針が飛び出る。
「………………」
そんな簡単に補充できるのはズルいと思う。




