真顔で返します
蔓があって良かった。正直なところ、俺のAGIはそれほど速くないので、蔓を使った移動方法でなければ追い付けず、間に合わなかったところだった。サーフェに声をかけたいところではあるが、その暇はない。俺が蹴り飛ばした魔物たちは一部であり、他の魔物たちはそれに恐れることはなく、狂ったようにサーフェ目掛けて襲いかかろうとしている。もちろん、ここに来た以上、襲わせる訳にはいかない。
「ふっ! ほっ! はっ!」
次々と魔物が迫ってくるので、サーフェに近付けさせないために一撃で倒すことを目的にして、STR全開で殴り、蹴り倒していきつつ、サーフェに声をかける。
「大丈夫か! サーフェ!」
「……」
「おい! 大丈夫か! 返事はどうした! 間に合ったと思ったが、どこか痛めているのか!」
「あっ! い、いや、大丈夫だ! というか、どうして追って来た! 状況わかってるのか! 今の俺は狂った魔物が集まってくるんだぞ! 巻き込ませないために走った意味がなくなるだろ!」
「巻き込ませないため、か。その気持ちは嬉しいが、放っておいたら死ぬだろ。さっきも危なかったし」
「は、はあ! 死なねえし! 危なくねえし! そもそも俺のスキルはそう簡単に死ぬようなのじゃねえから! ここから速度上げて魔物たちをぶっちぎって階層跨いで逃げ切るつもりだったんだよ!」
元気そうで良かった。でも、言った通りに逃げ切れたとは到底思えない。追いかけて正解だ。もちろん、追いかけてきたのは俺だけではない。
「ナリ! ここは場所が悪い! 全方位から襲われるとさすがに対処できない! どこか、魔物が来る方向を制限できる場所はないか!」
「……ある」
「うわあ! ナリ、お前! いつの間に俺の側に居た!」
「……最初から並走してた。自分の方が足は速い」
イエイ! とナリがVサインをサーフェに見せているのがチラリと見えた。おっと余所見はいけない。俺を抜けてサーフェに襲いかかろうとする魔物たちを次々と倒していく――が、狂ったように魔物は止めどなく押し寄せてくる。本当に数が多い。俺が倒す数よりも増える方が多いのではないだろうか? すべて倒せない訳ではないが時間がかかるし、物量で迫られると手が足らなくなって抜かれる可能性があるので急かす。
「ナリ! 心当たりがあるのなら早く移動してくれ! 先導を頼む! サーフェはナリに付いていけ! 俺は殿で付いていく!」
「なっ! 俺のことはいいから二人は逃」
「……わかった。ほら、行く……早くする」
ナリがサーフェを引っ張っていこうとするが、サーフェが少し抵抗しているような気配を感じる。多分だけど、サーフェは俺が犠牲になろうとしているとか、そんな風に捕らえているのではないだろうか? ……まあ、押し寄せる魔物の群れを見れば、そう思っても仕方ない。ただ、俺は犠牲になろうだなんて少しも思っていない。
次々押し寄せる魔物を倒しつつ口を開く。
「サーフェ! いいか! 俺には絶対に救うと決めた妹が居る! 当然、妹のことはお前よりも優先させる! いや、何よりもだ! 間違いない!」
「は、はあ?」
「だから、妹を救うまで俺は死ねない!」
「いや、何を言って」
「そんな俺がこうしてここに居る! その意味がわかるか?」
「……まさか、お前、俺との友情がそれだけ大事になって」
「あ゛? 馬鹿か、お前。そんな訳ないだろ」
一旦魔物たちから視線を外し、サーフェに向けて真顔で返す。いや、本当に何を言っているのやら。
「あっ、今のはいい意味でね」
「いや、絶対違うだろ、おい」
こういう時だけ冷静に返すな。
「まあ、何が言いたいかと言うと、この程度俺からすれば命の危機でもなんでもないってことだ! だけど、念のために移動しろっつってんだよ! というか、視野を広げて俺の周囲を見て見ろ! 問題ねえよ!」
「………………あ」
サーフェの呟きが耳に届く。サーフェの友達かどうかはわからないが赤髪の男性から受けた仕打ちや、魔物の群れに追われる状況に疲労と、相当視野が狭くなっていたようだ。漸く、俺の周囲で積み重なっていく魔物の死体に気付いたようだ。
「お前、そんなに強い」
「そういうのいいから! 今は俺が戦いやすい場所に行けって言ってんだよ! わかったか! わかったならさっさと行動しろ!」
「あ、ああ! わかった! 死ぬなよ!」
「だから、死なねえよ!」
ナリを先頭にして、サーフェがその後を追って走っていくのが気配でわかる。合わせて、魔物たちもその後を追おうとしてきた。残念。俺が居る。殴り、蹴り飛ばしていく。だが、魔物の群れは止まらない。俺が見えていないというか、眼中にない。ただ、サーフェを追うだけ。赤髪の男性が狂うと口にしていたが、正にその通りだ。
つまり、この状況が終わるには、味方、援軍が来るのはさすがに高望みし過ぎだろうし……サーフェがやられるか、狂う効果が切れるか、襲いかかってくる魔物すべて――それこそ、地下12階の魔物すべて倒すか、くらいしかないと思う。
………………。
………………。
まあ、全部倒すことになっても問題ないよね? 「全適応」さん。
《――はい。問題ありません。これより、「疑似魔物大暴走」に適応開始します――》
よろしく………………え? これ、魔物大暴走的なものなの?




