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サイド サーフェ 1

「グギャウ! ギャウ!」


「ギチチチチチッ!」


「ギャガ! ギャガガガ!」


 複数の魔物の雄叫びが、ダンジョン地下12階の一部で響き渡る。それは聞く者が聞けば、普段とは違う魔物の雄叫びだとわかるだろう。様子がおかしい。そう。雄叫びを上げた複数の魔物は狂っていた。いや、雄叫びを上げていない魔物も既に狂っているのだ。


 複数の魔物が狂っているのは「魔淫香(まいんこう)」という名の液体が原因で、それは人に影響はないが、香りを嗅いだ魔物は「魔淫香(まいんこう)」の下へと集い、同時に狂わせて狂暴化させる特性を持っていた。過去、偶然開発された液体であり、その香りは強く、予定しているよりも多くの魔物を集めて、そのすべてが狂っているという、下手をすれば町すら崩壊し兼ねない危険性から、所持すら禁止されているアイテムである。


 そんなアイテムを、サーフェはその身に受けたのだ。今、サーフェの体からは「魔淫香(まいんこう)」の香りが漂っている。それは周囲の魔物を集めるということであり、サーフェはアルンとナリを巻き込ませまいと、二人から離れるように駆けていた。


(――走れ! 走れ! 走れ! 止まるな! 足を止めるな! 少しでも離れるんだ!)


 駆けるサーフェの耳には後ろから追いかけてくる、たくさんの狂った魔物の雄叫びが届く。どうなっているのか振り返って見たくなるが、振り向いて現状を見てしまうと恐怖で足がすくんでしまうかもしれないと思っているため、サーフェは振り向かない。駆けるだけ。それは正しい。実際、サーフェが振り返ってしまえば、恐怖ではなく絶望を抱いて足を止めてしまうだろう。当初に現れたより魔物の数は増えて集まって追っているのだ。その規模は、最早疑似魔物大暴走(スタンピード)と言ってもおかしくないほどである。


 だから、サーフェは恐怖に負けない、というよりは、別のことを考えて紛らわせようとした。考えるのは、何故こんなことになったのか。背後から迫るの魔物の群れに無意識で自らの死を感じて、走馬灯のように思考が駆け抜けていく。


     ―――


 サーフェは強さを求めた。それは、幼い頃に王都ではそれなりに名の通った冒険者であった父親が依頼中に仲間を庇って亡くなり、それで泣く母親を見て、俺が母親を守っていく――そのために強くならなければならないと漠然と考えたからである。


 また、心の何処かで父親が死んだのは弱いからで、自分は仲間を庇っても生き残るだけの強さを手にしてやる、とも思っていた。


 しかし、父親という稼ぎ頭を失い、一応貯蓄はあるが楽に暮らせる訳はなく、母親は働きに出て、サーフェも小遣い稼ぎくらいにしかならないが、ほぼ毎日子供にできる手伝い程度だが働く。そんな中でも幼いサーフェは幼さ故に、強さとは何かを直情的に、強さとは力。暴力。戦闘力。と考えて、働きに慣れ出した頃からよく喧嘩をするようになり、その内「尖った短剣」と呼ばれるようになる。実際、喧嘩をすればサーフェは負けなかった。体格が良く、生前の父親から少なからず受けていた戦闘訓練を続けていたからだ。


 そうなってくると不思議なもので、サーフェが勝てば勝つほど、慕う者や従う者が増えていく。気付けば、サーフェは自分が住む場所の周辺では敵なしのガキ大将となっていた。そうなるとまた不思議なもので、ガキ大将という子供たちの頂点に立ったからなのか、それとも喧嘩の相手が居なくなったからなのか、サーフェは落ち着きを得て、同年代だけではなく、自分よりも下の子供たちの面倒も見るようになり、子供たちの纏め役となっていった。サーフェとしては纏め役などこそばゆい感覚であったが、それでも母親がそんな自分を見て、褒めて喜んでくれるので、まあ、それでもいいか、と思う。


 そうして月日は流れ、友達もでき、その中には王都に進出してきた商会の子供、なんてのも居て、サーフェからすれば穏やかで良好な日々を過ごす。


 更に月日は流れ、「災厄撒布(さいやくさんぷ)」についても難を逃れ、「魔障」の発症も母親共々なかった。母親が無事だったこともだが、何より自分が発症して母親を一人にするようなことにならなかったことに、何よりも安堵する。それに、サーフェの周囲に居た人たちも発症せず、運がいい、とこの時のサーフェは思った。


 しかし、サーフェにとって運が悪い――いや、予想もしていなかったことが起こる。それは、エリアスト王立学園への入学。


 当初、サーフェは入学に難色を示した。何しろ、学園に行くということは時間的拘束が発生し、その分働けなくなる。生活自体は苦ではないが楽でもない。いつ生活苦になってもおかしくなかった。だから、サーフェは行かなくてもいい、現状で生活できているのだから、今のままでいいのでは? と思ったのだ。


 だが、母親はそれを良しとしなかった。スキルのこと。学園を卒業した方が今後のためにいいこと。お金に関しては父親の遺した貯蓄がまだ残っているから大丈夫だということ。何より、母親はサーフェの将来が輝くことを願って説得する。


 それに根負けして、サーフェは学園に行くことを決心し――。


 スキル「根性」と「自己回復」を得て、(最低)クラスへと割り振られた。

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