宝くじはここで買うと決めているとか、そういうこと
魔障治療薬に必要な魔物素材を得るため、学園に行くことにした。ダンジョンに入っていいスキルを得て、それでサクッとダンジョンを攻略して魔物素材を入手したのち、おっちゃんに魔障治療薬を作ってもらい、妹は完治。万歳。……まあ、実際はそう簡単にはいかないけれど。そもそも、どんなスキルを得られるかはランダムらしい。場合によっては、ダンジョンを攻略して必要な魔物素材を得るどころか、ダンジョンに入るのは死にいくような大したことのないスキルを得ることだってあり得る。……もし、そうなったとしても関係ない。俺がそうすることで妹を助けることに繋がるのなら、何が何でもやるしかないのだ。スキルを得る前から悲観しても仕方ない。
それに、おっちゃん曰く、学園のダンジョンは当たりが出やすいと言われているそうだ。
「当たりってなんだ? 何が?」
「ん? ああ、なんでも、学園のダンジョンで得られるスキルは当たりが多いと言われている」
「当たりが多い? ダンジョンによって得られるスキルが違うとか、そういうのがあるのか?」
「いや、そういう報告は聞いたことがないな。そもそもが信憑性のない話で、ダンジョンは世界各地にあるが、得られるスキルはダンジョンによって違っている――つまり、当たり外れがあって、初めて訪れるダンジョンはここがいい! という風に話が広まっているダンジョンがいくつかあるんだ。学園のダンジョンはその内の一つだ」
「なら、当たりスキルが得られる、と?」
「さあな。実際に詳しく調べた訳じゃないからな。まあ、どうせならいいスキルが欲しい、とあやかりたいだけだろ。俺はそんな違いなんてないと思っている」
「……そうだな。俺もそう思う」
でも、どうせなら、と思う気持ちも理解できる。特に今は、妹を助けるためにいいスキルが手に入るなら欲しい……が、世の中には願うと逆に手に入らない、なんてこともあると聞いたことがあるので、これ以上は考えないことにした。
―――
俺が学園に行くと伝えた翌日。
おっちゃんは「アルンが今年度の入学に間に合うか、かけあってくる。直前だが多分大丈夫だろう。まあ、いざとなれば……」と出かけた。いや、いざとなればのあとに続く言葉なんだろうか? 不穏な感じがする。もしそうなったら、確かそういうのって裏口入が……いや、深くは考えない。これで妹を救えるのなら些事だ。
……でも、バレていいものではないから気付かれないように振る舞わないといけない。いや、まだそうとは決まっていないのだから早計である。
そして、夜。おっちゃんが戻ってくると、その手には一枚の紙が握られていて、それは学園の入学証明書だった。
「……え? もう? 違法? 偽造? 捏造?」
「どれも違う。正式な証明書だ。ここに学園長のサインも入っている」
おっちゃんが入学証明書の一部を指し示すが、名も知らない人物なので学園長だと言われてもわからないので困る。
「正式なものなら入学でき……できるのか? こういうのって試験とかあるんじゃ?」
「ないぞ。有用スキル持ちが一人でも多く見つけるために、学園の門戸は広くなっているんだ。ただ、その代わりと言う訳ではないが、クラス分けは基本的にスキルの有用性で決まる」
「なるほど」
おっちゃんが学園の卒業生ということもあって、他にも色々と学園について聞いた。その中で、学園には王都外から来た者のための学生寮があるそうなのだが、おっちゃんから「どうする?」と聞かれたので即座に断る。もうここに家があるし、何よりここから通う方が妹の様子も見られるので、俺としてはその方がいいのだ。ここからそう離れている訳ではないし、通いでも問題ない。寝坊したら、その時はその時だ。
そのあとも学園について色々と聞いたあと、最後に、とおっちゃんが口を開く。
「そうだ。ここはアルンとイシスの家でもある。だから、期待はしていないが、友達ができたら連れて来てもいいぞ」
「じゃあ、毎日連れてくることになるな」
「そうなればいいな」
俺を見るおっちゃんの目は優しい。笑みを返しておく。大丈夫。わかっている。言ってみただけだ。それに、できるできないではなく、そんな余裕があるかわからないし。
ともかく、おっちゃんの話によると、新入生は先にスキルを得て、それから入学式だそうだ。そのスキルを得るためにダンジョンに入るのだが、その日まで数日ある。それまでは妹とおっちゃんとのんびり穏やかに楽しく過ごしたのだが――スキルを得るために学園に向かう前日。
妹が倒れた。
頭の中が真っ白になるが、おっちゃんに指示されて気を取り戻して、ベッドの上に優しく寝かせる。妹の呼吸が荒く、苦しそうだ。その間に、おっちゃんは液体の入った瓶を持ってきて、妹の様子を確認すると――。
「魔障がさらに進行したことで魔力が一気に減ったようだ。魔力回復薬を持ってきたから、これを飲め。少し楽になる」
おっちゃんが瓶を妹に差し出すが、妹は飲むために体を動かすのも大変そうなので俺が手伝って飲ませる。妹が瓶の中に入っていた液体を飲み干すと――呼吸は落ち着いたものの、大きく疲労したようで直ぐに動くようなことはなかった。
「大丈夫か?」
「……うん。少し楽になった。でも、今直ぐ動くのは無理かも」
こちらを安心させるためか、妹が笑みを浮かべる。
おっちゃんが真面目な顔で口を開く。
「……より強い魔力回復薬も用意しておこう。ただ、これは一時的な処置でしかない。俺も手を尽くすが、さらに魔障が進行していくと魔力回復薬では一時しのぎにもならず、そうなるともう長くない」
「……ああ。それまでになんとかしてみせる」
「うん。お兄ちゃん。期待してる」
任せろ! と安心させるために妹に笑みを向ける。
――そして、翌日。
俺はスキルを得るために、学園へと向かう。