なんで休日は直ぐ終わってしまうのか……嘆き
最初、自分のことだとは思わなかった。何しろ「イカサマ野郎」である。なんのことだかだ。ただ「サーフェ」と「Eクラス」……特に「Eクラス」という言葉で、それが俺のことを指し示しているとわかった。
声がした方を見れば、直ぐ近くで立っている男性が目に付く。赤髪に、鋭い目付きで、細身の上に質がそこそこ高そうな衣服を着た、俺と同い年くらいの男性。その視線は俺を向けられているので、俺に声をかけてきたのはこいつで間違いない。
「ハッ! これで反応するとか、やはりイカサマしたってことか」
違うと言っても信じなさそう。あと、仲良くできないな、と思った。まあ、人をいきなりイカサマ野郎呼ばわりするようなのとは、ちっとも仲良くしたいと思わないが。というか、俺が何をイカサマしたと言いたいのやら。
「やはり、そうだよな。イカサマでもしないと、EクラスがBクラスに勝てる訳がない。目撃したヤツも騙されたんだな。ハッ。目利きの一つもできないとか、ないな」
何やら勝手に話しているが、初対面を相手に何を粋がっているのやら。しかし、何のことを言っているのかはわかった。茶髪の男性たちとのことか。となると、同い年くらいならエリアスト王立学園生か、こいつ? 待てよ。もしそうなら、俺はイカサマ野郎という噂が広まっているかもしれないってこと? そういう認識? だから、思っていたよりも騒がれなかった? イカサマしたと思っているから………………まあ、実際に見ていないと信じ難いのは確かか……再び、待てよ。もしそうなら、妹が完治して入学した際に、俺と兄妹だと発覚すれば、イカサマ野郎の妹、と呼ばれることになる?
………………殺意が湧いてきた。想像だけで、そう言ったヤツをどうにかしたくなる。妹が入学するまでにどうにかしないと……。
「まあ、いい。なあ、イカサマ野郎。オリエンテーションでサーフェがお前とパーティを組むのを聞いた。最近、サーフェの目に力が入り出した気がしていて、反抗されても面倒だから、オリエンテーションの時にまたわからせてやろうと俺は考えた訳だ。協力しろ。な?」
というか、本当に誰だ? こいつは。知らない人にいきなり協力しろと言われて、「はい」と答えると思っているのだろうか? ただ、先ほどからサーフェの名前がやたらと出てくるが、サーフェの知り合いか? ……俺とは無関係だな。
「は? いきなり何言ってんの? しかも人をイカサマ野郎呼ばわりしてんのに協力しろとか、怖っ。もう少し……いや、人との接し方というのを一から学んだ方がいいと思う。あっ、これは親切からの助言ね」
「………………は?」
反応が鈍いな。言い返されないとでも思っていたのか? まさか、ね。でも、言い返されたと理解すると、赤髪の男性は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「おい、イカサマ野郎。上手くBクラスのヤツを出し抜いたからといって調子に乗っているようだな。テメェもサーフェと一緒に潰してやろうか? あ?」
「やれるものならやってみろよ。ていうか、誰だ? お前」
「あ? ここに居て、俺を知らないと?」
「知るか。というか、相手する気ないから、どっか行ってくれる? 買い物の邪魔なんだけど」
これで更に怒って襲いかかってきたところを俺の反撃で黙らせるなり、どっかに行ってくれると思ったのだが、思っていた反応と違う。赤髪の男性はいやらしい笑みを浮かべた。
「知らないなら教えてやるよ。この店はエンベズ商会が営んでいて、そのエンベズ商会は俺の親父が商会長なんだよ。そして、エンベズ商会はここら辺の商会の顔役でもある。つまり、俺の匙加減一つで、テメェはここら辺で何も買えなくなるってことだ。わかったか?」
「ふ~ん……なら、買わなくていいや」
ここら辺ってことは、王都全体ではない、てことだろうから、別の――ここの商会の影響力が及ばないところで買おう。家からより離れることになるが、荷物は荷物にならないし、移動距離と時間が少しかかるだけである。問題ない。それに、俺に目利きのスキルはないが、やはり品質が思っていたより良くないと思うので、これなら別のところで買った方がいい気がした。
「じゃ――あっ、一応言っておくけど、もし、本当にオリエンテーションで何かするつもりなら覚悟しておけよ。潰してやるからな」
赤髪の男性を一瞥してからお店を出る。一瞥した時に怒りを相当我慢していて口を開けば喚きそうだったので、何か言ってくるかと思ったが何もなかった。多分、ここで騒げば醜聞を晒すことになって、お店に悪影響があると考えて我慢したんだろう。それくらいの分別がつくのなら、もう少し考えて行動して欲しいものだ。まあ、何にしても、口にしたように、オリエンテーションで何か仕掛けてくるのならやり返すだけである。
そのあとは、より大きなお店に行き、品質も良かったので、そこで日用品を購入してから帰った。
―――
「――くそっ! 舐めやがって! 店の中じゃなけりゃあ、直ぐにでもやってやったのに……見てろよ……オリエンテーションで………………そうだ……親父のアレを使って……」
赤髪の男性はいやらしい笑みを浮かべた。
―――
気が付けば休日は終わり、エリアスト王立学園式オリエンテーションが行われる日になる。




